久しぶりに本部に戻ってきた。用事を済ませ、中将の部屋に向かう。五年ぶりだ。本部に戻る度に挨拶を、と足を運んでいたがタイミングが悪く会うことが出来ず、彼の隊を離れてから五年が経ってしまった。今日は、執務室にいると聞いている。そうこう考えていると大きな両開きの扉が見えてきた。扉の前で大きく深呼吸をし、ドアをノックした。中から声が聞こえた。ドアを開ける手がすごく熱い。

「失礼します」

部屋に入り、大きな声を出す。そのまま中将のいる執務机まで足を進めた。

「お久しぶりです、モモンガ中将」
「君か、久しいな」
「ご無沙汰しております。お元気でしたか?」
「ああ、君も息災のようで何よりだ」

この人は変わらない。それが私を安心させる。

「任務で帰還したのですが、ご挨拶を、と思って」
「そうか」
「それともう一つご報告があります」
「何だ」

私を射抜くような真っ直ぐな視線に胸が締め付けられる。

「来月、昇進が内定しました」
「何…?」

中将は、珍しく驚いたような表情を見せた。

「一階級、昇進が決まりました」
「…君は今、少将だったと記憶しているが」
「はい、ですので中将になります」
「…それは、本当ならめでたいが」

筆舌しがたい、といった表情でこちらを見つめている。それもそうだろう、五年前中佐だった私が今や少将。それだけでもなかなかのスピード出世だ。そして来月には中将になる。そんな彼を見ながら私はくすくす笑ってしまった。

「こんな小娘が、って思ってます?」
「そんなことは、思っていない」
「本当ですか?私、当時はものすごくご迷惑をおかけしていたかと」
「まあ、お転婆だったことは否定しない」
「ふふふ」

私も中将も変わらない。五年前と同じように話せている。しかし、彼は忙しい身だ。本題を話さなくては。急に黙った私を不審に思ったのか、こちらをのぞき込むような視線を感じた。私は、顔を上げて、彼を真っ直ぐに見据えた。

「覚えていますか」
「…何をだ」
「私が中将の隊を離れた日のことです」

彼は苦い顔をした。それだけでよかった。

「覚えてくれているんですね」

嬉しいです、と続けた。

「同じ場所に立てるように頑張ったんです」

彼は黙っている。

「中将はあの時言いました。同じ場所に立てるようになったら考えてもいい、と」
「……本気だったのか」
「本気ですよ。その為に五年間頑張ってきたんです」

不純な理由ですがここまで来れました、と笑いながら言った。声が泣きそうなほど震えているのが自分でもわかった。私は五年前、気持ちを伝えていた。それを聞いた彼は、笑いながら「同じところに立てるようになったら考えよう」と言ってくれた。中将にとっては冗談だったのかもしれない。長年勤めた隊を離れる女海兵に、その優しさから水を差すようなことは言えなかっただけかもしれない。でも私はその言葉を支えに、ここまで這い上がってきたのだ。

「中将、私は貴方が好きです」

五年前と同じ科白を、五年前と同じように彼の目を見つめながら言った。彼の表情は変わらない。

「…私と君では、年が離れすぎている」
「そんなの関係ないです」
「いつ死ぬかわからない身だ」
「それは私も同じです」
「君にはもっと若くていい男が」
「五年頑張ってきた私にそれを言いますか」

中将は黙ってしまった。私の気持ちを否定しないところを考えると望みはありそうな気がする。現に彼は、私のことを"好きではない"とは言っていない。

「私はすぐにでも籍を入れても構わないのですが」
「待て、…わかった」

流石に急ぎすぎだ、と強めに言われてしまった。五年間の成果は彼の言葉で決まってしまう。そう思うと気持ちが急いでしまった。彼の次の言葉を待つ。

「…取り敢えず、そうだな。…今夜、食事に」

中将と食事。胸が熱くなり、手先はジンジンと感覚が分からなくなってきた。様子をうかがうような彼の視線に笑顔を向けた。

「承知しました中将!」


追いかけた背中
触れられるまで
もう少し


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