「ねえねえ、シャンキー?」
「その呼び方をするってことは……何が狙いだ?」

ぷく、と頬を膨らませる姿はとてもあどけなく、年相応とは言えない。シャンクスに撓垂れ掛かるその姿は、傍から見れば年上の男に熱をあげている若い女、と言った感じだ。

「えへへ〜」
「次の島も近いしな……何が欲しいんだ?」
「さっすが〜!やっぱり“パパ”は私のこと分かってるねー!」

これなんだけど!と彼女が差し出した雑誌には沢山付箋が貼られている。その中のとあるページを見せた。

「このコート!もう少ししたら寒い所に行くって聞いたの。だからこの新作のコートを、ね?」

ナマエは出せる限りの猫撫で声を出し、シャンクスに上目遣いで迫る。シャンクスも満更でもなさそうだ。しかし撓垂れ掛かっていたナマエを引き剥がした。

「俺は買ってやってもいいんだけど、ベックがなあ」
「えー」
「とりあえずあとが怖いし、ベックマンに許可取ってこい」

そしたら買ってやる、と言ったシャンクスにナマエは眉を寄せた。

「ベックに言っても駄目っていうの分かってるからシャンクスに言いに来たのに!」

べーっ、と舌を出しナマエはシャンクスの部屋を出た。






「駄目だな」
「……やっぱり」

雑誌を閉じ、ナマエに差し出しながらベックマンはそう言い放った。ナマエは床に座り込み、抗議を続けた。

「次は寒いところだって聞いた!いいじゃん!」
「駄目だ」
「なんで!」
「…この間の嵐を覚えているな?」
「うん」

先日激しい嵐に巻き込まれ、揺れで家具が吹っ飛んだり、浸水騒ぎがあったりで大変だった。

「その時に壊れた家具を一掃して入れ直す。それに船の修繕もある。余計な金はない」
「うっ」
「わかったか?」
「うん、わかった。…それなら仕方ないね。我慢する」

コートは諦めきれなかったが、今のお小遣いではどう頑張っても買えないし、それに欲しいものは他にも沢山ある。ナマエは付箋だらけの雑誌を握りしめながら部屋に戻った。






「島だー!わーいいちばーん!」

そう言いながら、船からジャンプし港に降りる。コートがギリギリ買えないくらいのお小遣いを渡され、自分の日用品を買うように言われた。まあ女の子は色々必要だからね、と思いながら街に向かった。街に着いて、ウィンドウショッピングをしながら、お気に入りのブランドのシャンプーやボディソープ、歯ブラシを買ったり、最近ゴワゴワになってきたことを思い出しバスタオルを買った。それを抱えて一度船に戻った。今回は家具を買い直したりと人手が必要な仕事が多いため、いつものように荷物持ちを買って出てくれるクルーがいなかった。いつもなら一回で終わる買い物も一人だと持ちきれなかったため、買い物を二回に分けることにした。
船に戻ってもやはりいつもより人が少なく、足早に自分の部屋に戻る。ベッドに買ったものを放り投げ、残り少なくなったお小遣いを確認しながらまた船を出た。

「んー、おいしー」

島で流行りのスイーツを食べ、日持ちしそうなお菓子を買い込んだ。お菓子をたくさん買ってもやっぱりあのコートが忘れられない。でも、あのコートを買うお金はない。他に買おうと思っていたコスメを確認しようと、付箋を沢山貼った雑誌をカバンから取り出そうとした。

「……あれ?」

ガサガサとカバンの中を漁る。入れたはずの雑誌がない。船に置いてきたのか。一から店を探すのも面倒だし、買いたいものは粗方買った。どうしても欲しくなったらまた明日来ればいい。日もだいぶ陰ってきた。お菓子の袋を抱えて、港へ向かった。





「ただいまー」

日が落ちたこともあって、みんな作業を終えてお酒を飲みに行ったらしい。しかし、珍しく甲板にベックマンがいる。いつもなら買い出しのあとは、シャンクスと一緒に綺麗なお姉さんたちが沢山いるお店に行くはずだ。甲板にはまだ設置されていない家具がいくつかある。搬入が大変だったのかな、と思いながらナマエは荷物を下ろすため、部屋へ向かった。
両腕に抱えたお菓子を、先に運んだ荷物同様ベッドに放り投げた。

「うー!手が痛い!」

ベッドの上の荷物をガッ、と枕側に押しのけ、自分もベッドに横たわった。見慣れた天井を見つめる。

「あのコート、欲しかったなあ」

ナマエは、雑誌のあのコートに思いを馳せながら上半身を起こした。

「……ん!?」

上半身を起こし、目に入ってきたのは机の上に置いてある紙袋だった。

「えっなんで!?なんで!!!」

ベッドから転げ落ちそうになりながら机に走り寄った。
大好きなブランドのロゴが印刷されている大きな紙袋。そしてその横には付箋を沢山貼った雑誌が置いてあった。逸る気持ちを抑えて、紙袋の持ち手のところをとめてあるシールを慎重に剥がした。そして中を覗いて、すぐに部屋を飛び出した。






「ベック!」

ナマエは上の甲板で柵に肘を置いて、タバコを吸っていたベックマンの背中に飛びついた。ベックマンは危なげなくそれを背中で受け止めた。

「見つけたか」
「うん!なんでなんで!?すごい!」
「あれで良かったか?」
「うんうん!欲しかったやつ!“お父さん”ありがとう〜!」
「本当に現金な奴だな」

正面からハグし直したナマエの頭をポンポンと撫でた。

「あれ、ベックが買いに行ったの?」

私が欲しかったあのコートは、結構ファンシーでポップなテイストのティーン向けブランドのものだ。あの強面で、そのブティックに入ったかと思うと少し面白い。

「いや、手が空いていた若い奴らに行かせた」
「だよね〜!……ん、奴ら?」

別にコートを買いに行くなら一人で事足りるだろう。クエスチョンマークを頭に浮かべながら、ベックを見ると下の甲板を指差した。その指を辿った視線の先には、大量の酒樽が置いてあり、その酒樽の上には数え切れないほどの紙袋が置いてあった。その紙袋は雑誌でチェックしていたブランドのものばかりで、ナマエは奇声に近い声を上げながら階段を駆け下りた。周りにいたクルーたちはその姿を呆れたように笑いながら見ている。

「これ!チェックしてた口紅の限定カラー!こっちは今季限定のバッグ!」

まだまだ沢山紙袋はある。多分、雑誌で付箋を貼っていたものが全部ある。ナマエは上の甲板にいるベックマンに微笑んだ。

「ベック、だいすきー!」

の笑顔が見たくて
「ふ、副船長が…」
「「「にやけている…!」」」


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