木兎光太郎の場合





「春原先輩、」
「赤葦くん、こんにちは」

放課後、廊下で声をかけてきた後輩にふりかえり挨拶を返した。その後に、彼がなんて言うのかは、わかってる。

「あの、木兎さんと別れたって本当ですか?」
「えーっと、光太郎に聞いたの?」

他に彼が知る理由もないのに、わかりきったことを聞き返す。

「はい、異様なまでに調子が悪かったので問い詰めました。すみません」
「ううん、いいの。……そう、別れたよ」

私が微笑み返すと、赤葦くんはバツが悪いような顔をして眉間に皺を寄せた。

「それって俺のせいですか」
「え?赤葦くんのせい?」

事柄と結びつかないその発言に今度は私が眉をひそめた。

「はい。俺が試合の時、女性が応援してますよって煽ったりしていたから、」

赤葦くんは私と光太郎が別れた原因が、自分が光太郎の機嫌をとるためにしていたことかもしれないと思ったらしい。

「それは私が構わないよって言ったでしょう?光太郎が全力で楽しくバレーが出来るならどんな手を使ってでもそれをやった方がいいよ」

そう、それに関しては以前謝ってきた赤葦くんに、続けて構わないと言った記憶がある。

「……俺が言う資格はないかもしれませんが、木兎さんには春原先輩が必要なんです」
「ありがとう。私も、光太郎の役に立てていたなら何よりだったって思うよ」
「違います。過去形じゃなくて、これからの木兎さんにとって必要なんです」

あまりに真剣にそう言った赤葦くんに、なんだか申し訳なくなった。でも、私は、私の選択を覆す気もなかった。

「うーん、多分三日もしたら元の調子に戻ると思うよ」
「春原先輩、」
「ごめんね、赤葦くん。私、委員会があるからこれで」
「……はい」

赤葦くんの返事を確認して背を向けた。物分りの良い後輩で何よりだ。何事もないように、教室に足を進める。
光太郎を近くで支える赤葦くんから見て、私は光太郎にとって必要な存在に見えるらしい。純粋に嬉しかった。わたしもそうでありたかった。
けれど私は、光太郎と関わらないという選択をした。
「他に好きな人が出来た」、という理由で。
そんな人はいないのだけれど、私のプライドが許さなかった。
「私だけを見て」「他の女の子を見ないで」、なんて可愛いことを言える性格だったら良かったのに、と思う。そんな可愛らしさは、持ち合わせていない。


「あの子栞よりおっぱい大きい!」
「ねえあの子の口ツヤッツヤでぷるぷる!栞もあーゆーふうに出来る!?」
「なー!赤葦!あの子可愛い!」


光太郎は可愛い女の子が好きだ。
まあ世の中の男性はほとんどそうだろう。でも光太郎はそれを全身で表してしまう。光太郎がそういう発言をする度に、私の心は削れていった。赤葦くんに許可を取られた時も思ったけれど、可愛い子がいるだけで頑張れる、そういう男なのだ。浮気されるよりは分かりやすくていい。それに、それで光太郎の全力が発揮されるなら、楽しくバレーができるなら、それでいいと思っていた。
私のことを好きでいてくれるなら、それで良かった。あの言葉を、聞くまでは。



「木兎のとこは、最近どーなの」

廊下を歩いていると、彼の名前が聞こえたので思わず立ち止まってしまった。

「俺のとこ?栞?」

光太郎の声が聞こえて私の名前が挙がった。盗み聞きは良くないと思いながらも扉の影に隠れ聞き耳を立てた。

「そ!お前んとこも長いよな」
「一年の時から付き合ってんだろ?」
「そう!でもどうって言われてもなー」
「で?木兎クンはどこが好きなの?」

冷やかすようなその声にムスッとしてしまったけれど、それは私も聞きたい。

「どこ……?」
「だってお前から告って付き合ってんだろ?春原のどこに惚れたんだよ」

確かに光太郎に告白されて付き合い始めた。最初の頃は好きだ好きだとところ構わず言われて困った時期もあった。最近は、一緒にいるのが当たり前で、どこを好きになってもらったのかなど考えたこともなかったけれど。

「うーん」
「そんなに悩むことかよ!」

ゲラゲラと笑う周りの声に私の体から力が抜けていくのがわかる。

「なんかあるだろ?顔が好きとか、優しいとか」
「わっかんね!」

ドッと起きた笑いに、私の心はどんどんと冷めていく。

「お前なんだよそれー」
「でもま、春原って木兎のタイプではないよな」
「あー、わかる!可愛い系ってよりはクール系だよな」
「体の相性めっちゃいいとか?」

私は彼らの話を最後まで聞かず、その場を離れた。大したことじゃない。私だって友人と彼氏の話をしたりする。それこそ下世話な話もするし、それで笑ったりもする。彼らだって友人の恋愛事情に軽く触れただけ。そんなところだろう。
けれど。
光太郎がどうして私を“彼女”に選んだのかは分からなかった。私の好きなところを、分からないと言った。
私は、光太郎のどこが好きかと聞かれればいくらだって答えられる。
底抜けに明るいところ。正直なところ。不器用だけど優しいところ。引っ張ってくれるところ。悩んだ時は、きちんと相談し合えるところ。バレーをしている時の顔。バレーの話をしている時の表情。嬉しい時の声。落ち込んだ時ちょっと可愛くなるところ。デートの時はいつもよりいい匂いがするところ。ゴツゴツした手。たくましい腕。触りたくなる腹筋。キスした後にペロッと唇を舐める仕草。少し高めの体温。くしゃっと笑う時のしわ。告白してくれた時の真っ赤な顔。
全部全部、好きなのに。
彼は私の好きなところを一つとして挙げられなかった。彼が私を好きだと言ったのは、私の何が好きだったのだろう。そう思ったら、今までの二人の時間が全て色褪せてしまったかのように思えた。
彼とは、終わりにしよう。そう思ったのは、春だった。けれど彼は既にインターハイに向けて全力だったし、その邪魔にはなりたくなかった。インターハイまでは全力で彼を好きでいよう。支えよう。そう思って関係を続けた。
だから私はインターハイが終わった一週間後、別れを切り出した。彼のコンディションを一定に保てるように。彼のバレーに少しでも影響がないように。
別れたいと告げた時、光太郎はなんで、どうして、としつこく聞いてきた。本当は嬉しかったけれど、もう無理だった。全てが虚しかった。だから私は見栄を張って「好きな人がいる」と嘘をついた。その時の光太郎は、とても驚いた顔をしてその場に立ち尽くしていた。そのまま立ち去った私を、引き留めようともしないで。








赤葦くんはあの日以降も、度々私のところに来ては光太郎の話をし、寄りを戻す気は無いか、試合を見に来てくれないか、と説得をし続けた。

「赤葦くんも大変だね」

毎回同じ言葉を繰り返す赤葦くんに苦笑してしまう。相変わらず、お世話が大変なようだ。

「赤葦くん、私のところに来るのは生産性が低いんじゃないかな」
「それは分かってます。でも、諦めきれないんです」
「……赤葦くんならわかってると思うけどさ」
「何ですか?」
「私と寄りを戻させるより、光太郎に新しい出会いを与えてあげた方が建設的だと思わない?」
「はい、そう思います」
「ふふ、正直だね」
「でもそれじゃ、ダメなんですよ」
「?」
「春原先輩は、好きな人がいるんですよね?」

私が別れたいと言った理由を聞いたのだろう。

「……うん」
「その人とは上手くいきそうですか?」
「うん、もう少しかな」
「そうですか……、また来ます」

嘘をつくのは、後ろめたいけれど許して欲しい。
綺麗なお辞儀をして帰っていく赤葦くんの背中を見つめた。












「お前ここが第一志望なの?」
「一応ね」

高校とは全く違う賑やかさの中、私はキョロキョロと周囲を見回していた。

「土曜の講義に連れてけなんて何かと思った」

そう言って隣で笑うのは二つ年上の従兄だ。

「オープンキャンパスでも良かったんだけど、お兄ちゃんいるし講義も見たいなーって」
「まあ別にいいけど」

お兄ちゃんと呼ぶくらい仲がいい。実際の大学の講義がどんなものか見たくて連れて行って欲しいとお願いしていた。
教室に入ると、私の知っている「教室」との違いに驚いた。そこは高校とは全然違って教室と言うより講堂と言った広さだった。
半円を描く机と椅子。疎らに座る学生。

「これが大学……」
「何言ってんだ。こっち座るぞ」

比較的後ろの方に座らされ、なんとなくノートを出す。来年私はここにいるかもしれない。そう思うと、なんだか胸が高鳴った。
講義を受けたあとは学食に行き、お兄ちゃんにたかって奢ってもらった。

「この後どうする?」
「……講義しか考えてなかった」
「じゃあサークル回ろうぜ」
「えっ」

引きずられるようにして従兄の知り合いのサークルに顔を出した。その後体育館に行き、スポーツ系のサークルを見ようと言われ二階の観客席に向かった。扉から二人して体育館を覗けば試合の最中だった。扉から身を乗り出す従兄とは対称に私は一歩下がってしまった。

「今はバレー部が使ってるっぽいな、……って梟谷じゃん」

大学生とも試合するんだな、と言いながら何事もないように観客席に座る従兄に大人しくついていく。今日はグループ校が高校大学問わず集まっているらしく、観客席にもOBの集団らしき人たちがいた。確かにここは梟谷グループの大学だ。交流試合をしていても何もおかしくはない。

「あの中に知り合いとかいねえの」
「まあ……」

ふーん、と興味がなさそうな従兄の隣で私は混乱していた。コートに光太郎がいる。タイミングが悪すぎる。バレませんように、バレませんように。そう祈りながら試合を見ていたが、赤葦くんと目が合ってしまった。それはまあ完璧に。
とても驚いた顔でこちらを見て、そのまま光太郎に視線を移した。お願い、言わないで、と視線で訴えたが、赤葦くんはコートチェンジの際に思いきりこちらを指をさした。

そうなってしまえば、光太郎と目が合うのも必然で。私はそれが嫌で隣にいる従兄の服を引っ張って声をかけた。

「ねえ、もう行こうよ」
「えー、この試合は見てこうぜ」

元々スポーツが好きな従兄のことだから無駄だとは思ったがやはり無駄だった。私は逃げられず、大人しく観戦を続けた。
試合が終わると光太郎が瞬時に消えた。トイレだろうか。今の内に体育館を出ようと立ち上がり従兄を促す。コートに目を向けると赤葦くんと目が合った。何故かこちらに向かって親指を立てている。不思議に思っていると、扉の方が騒がしくなった。

「栞!!!」
「え?」

私の名を呼ぶその声に、私より先に従兄が反応した。振り返ればすぐ目の前に光太郎が立っていて。
試合の後なのに、汗も拭わずにここまで来たのだろう。湿ったユニフォームの質感が伝わる距離だ。そう思った瞬間、視界が暗くなった。背中に回された手が私の全部を掴もうとしているかのように強く、強く背中にくい込む。知ってる匂いだ。そう思う間もなく、頭の上から大きく息を吸う音が聞こえた。



「好き!!!!」



体育館に、光太郎の声が響く。
やめてよ、こんなに沢山の人がいる前で。私が目立つの好きじゃないの、知ってるでしょう。
頭はちゃんと動いてる。けれど、体の方は抱きしめられたままピクリとも動かなかった。

「俺、栞が好き。栞じゃなきゃ無理。全部好き。赤葦にも俺たちお似合いだって言われた!やっぱり、俺は、別れたくない!」

そう叫ぶように言った光太郎にギャラリーから声が飛んでいる。はやし立てるその声に頭が冷えて、徐々に現状を冷静に把握していく。

「…………離して」
「やだ!」
「一回、離れて」
「……やだ」
「光太郎」
「…………やだ」

全く離れない光太郎にどうしようかと悩んでいると、呆然と私たちを見ていた従兄が我に返ったようだった。

「お、おい……栞」

呼び掛けに答えようとすると、光太郎は私をバッと離し、そのまま背中に隠すように従兄の前に立ちはだかった。

「おっ、俺は!栞の彼氏なんで!あ、いや、今は、その、一瞬!一瞬別れてるんですけどすぐ!すぐに付き合うので!」
「は、はあ」
「だから栞のことはあげられません!」
「ん?」
「は!?」

従兄と声が重なった。従兄は苦笑しながら荷物を手に取り、出口の方に体を向けた。

「とりあえず、お前そいつと帰るよな?俺はもう行くわ」
「うん、ごめんね。今日はありがと」

そう言って従兄に手を振ると、彼は体育館を後にした。
そしてしょぼんとしているのか息巻いているのか分からない光太郎に向き合った。

「光太郎」
「……はい」
「今日はもう終わりなの?」
「……へ?」
「試合。というか部活」
「お、おー……このまま現地解散、」
「そう、じゃあ早く戻って」

観客席から下を眺めれば片付けに勤しむ梟谷のメンバーがいる。私たちのことを気にもせず片付けている姿を見ると、もうみんな慣れたもんだなあと思った。

「やだ!まだ話が、」
「分かってる。片付けて、着替えてきて。外で待ってるから」
「ホントに!?すぐ行く!!絶対、絶対待ってて!」

そう言ってダッシュで消えた光太郎に苦笑しながら体育館を出た。











「春原先輩」
「赤葦くん、お疲れ様」

体育館の外で光太郎を待っていると、赤葦くんが近づいてきた。

「木兎さん、どうでした?」
「どう、って……いつも通り、だったけど」
「そうですか」

そう言って少し微笑んだ赤葦くんだが、あまり表情には出ていない。

「赤葦くんて、意地悪だよね」
「そんなことないです」

ピシャリと否定した赤葦くんに思わず笑ってしまった。

「そんなに笑わないでくださいよ」
「……迷惑、かけてごめんね」
「はい」
「正直だなあ」

そう言えば赤葦くんも笑った。すると急に目の前に何かが立ちはだかって赤葦くんが見えなくなった。

「あかーしダメ!栞は俺の!」

両腕を広げて私を隠すようにそう言った光太郎に赤葦くんは一瞬ぽかんとしたが、すぐに真顔に戻った。

「そんなことは知ってますよ。じゃあ春原先輩、木兎さん、お疲れ様でした」
「うん、お疲れ様」
「あかーしおつかれ!」

光太郎の肩越しに赤葦くんが遠のいていくのがわかる。私に背を向けたまま不自然なほど動かない光太郎に声をかけた。

「……歩きながら話そっか」
「うん……」

歩き出して十メートルくらい進んだ時だろうか。光太郎は私の右手の薬指と小指を遠慮がちに掴んだ。ビックリしたけれど、そのままにしておく。振りほどこうとしない私に安心したのか、握る力が少し強くなる。
これって普通逆では、と思いながら図体の大きい男を引きずるように駅に向かった。

「楽しかった?」
「え……?」
「大学生との試合」

そう言って振り返ると光太郎の顔がぱああ、っと明るくなった。本当に、単純なんだから。

「すっげー楽しかった!プロにスカウトされてる人もいてさ!威力が全然違ってさ!こう、バシッて言うよりドンッみたいな感じ、で……って、あの、えっと……」

急にしょげてしまった光太郎に思わず笑ってしまう。

「ふふ、今までみたいに話していいよ?」
「……いいの?」
「うん」

そう言っても光太郎は納得してない顔でモジモジしている。

「だって、俺のこともう好きじゃないって……」
「うん」
「他に好きな奴出来たって!」
「うん」
「……すごく嫌だった」
「うん」
「栞ホントにわかってる?ホントのホントに嫌なんだ、け、ど……って待って待って!」

急に掴んでいた手をぐいと引っ張った光太郎と距離が近くなる。私を覗き込むその目はいつもと同じで大きくて、まっすぐだった。

「なんで泣いてんの!?ご、ごめん!!」

光太郎がこんなにも必死になってくれることが嬉しかった。そんなの、泣くに決まってる。

「……なんで光太郎が謝るの」
「だって泣いてるから……」
「うん、ごめん」
「なんで泣くの、泣きたいの俺……」

そう言ってしょげる光太郎の目を見て口を開いた。

「好きだから」
「……ん!?」

私のその言葉に光太郎が目を丸くした。

「光太郎のこと、好きだから」

私がそう言うと、光太郎は混乱したのか表情が忙しない。

「す、好きなやつ出来たって言った!」
「うん、言った」
「なのに俺が好きなの?」
「うん、あれは嘘」
「……うそ?」
「うん」
「えっ、嘘……?」
「うん」
「なんで?」

心底意味がわからない、と言った表情で見つめてくる光太郎に、そりゃそうだよね、と心の中で返事をした。

「……本当のこと言って、嫌われたくなかったの」
「ほんと…?嫌われ……?」

一ミリも理解していないであろう光太郎に、ちゃんと説明した。

「光太郎に嫌いになって欲しくなかったのに、好きでいて欲しかったのに、私は頑張れなかったの」
「俺栞のこと好きだよ?」

何言ってんの?と言いたげな顔で私の手をぎゅっと握った。

「……クラスの人に、私のどこが好きか聞かれて答えられなかったでしょ」
「……そんなことあったっけ?」

うん、覚えてないんだろうなとは思っていたけれど。

「試合見に来てる可愛い子とか、グラビアアイドルとか、すぐ私と比べるし」
「うっ」
「光太郎は口から反射で出ちゃうのも分かってるし、素直なとこは好きだよ。でも、嫌だったの」
「うん、ごめん……」
「私だけ見て欲しかった」
「うん」
「私は、光太郎しか見えてなかったのに」

その言葉に光太郎が深く息を吸ったのが分かった。

「…………もう無理」
「え、」

ふわっといつもの制汗剤の香りがして、体があったかくて、ああまた光太郎に抱きしめられてるんだな、と思った。
ねえ光太郎、ここ駅前だよ。

「もう本当にやだ。栞のこと好きすぎて死にそう」

ぎゅうう、と力を込める光太郎に笑ってしまう。

「ふふ、光太郎」
「……栞が好き」
「うん」
「栞だけでいい」
「うん」
「栞は……?」
「私も、光太郎が好きだよ。大好き」
「ホントに!?……でも待って、さっきの男は?」
「え、今?」

さっきの男、とは従兄のことを指しているのだろう。このタイミングで聞くんだ、と思い苦笑してしまった。

「赤葦に栞がいるって言われて、見たら男といんだもん。仲良さそうに喋ってたし、赤葦があの人が栞の好きな人なんじゃないですかとか言うし!」
「あれは、従兄弟のお兄ちゃん」
「いと、こ」

キョトンとした顔の光太郎に続ける。

「うん、大学を案内してもらってたの」
「だいがくの、あんない……」
「うん」
「じゃあ、本当に好きなやついないの?」
「うん、光太郎だけ」
「……また一緒にいてもいいってこと?」
「うん」
「また応援来てくれる?」
「うん、いいの逆に?」
「栞が来てくれたら俺百人力!」

腕を曲げて力こぶを見せてくる光太郎に微笑んだ。

「ねえ、光太郎」
「ん?」
「また私と、付き合ってくれますか」

私の大好きな笑顔が、今目の前にある。

「もちろん!!」

光太郎の笑顔が近づいてきた。目を閉じれば多分すぐにキスが降ってくるだろう。そう思っていると光太郎が叫んだ。

「あ!」
「びっ、くりした、なに?」
「忘れてた!」
「何を?」
「栞!!」
「は、はい……」
「愛してる!」

驚くより前に、勢いよく唇がぶつかってきた。

好きのもっと上の上
「あ、愛してるなんて初めて言われた……」
「赤葦に仲直りしたら言うんですよって言われた!」
「赤葦くん……」

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