突然だけど、わたしには一度たりとも縁談の話が舞い込んできたことはない。ママの娘なのに。
先日、プリンに結婚の話があると聞いて驚いた。遂に妹に先を越されてしまう。と言うか、あのプリンが?本当に?と思ったけど、プリンのことだからなにか企んでそう。でもおにいちゃんも知ってるって聞いたからほぼ確定してる話なんだよなあ。妹が結婚。つらい。わたしは縁もゆかりも無い人と結婚することに憧れてるわけじゃない。でもなんか……なんかねえ。わかるでしょ?

そのことで変に落ち込んでしまい、部屋にこもっていた。ホント羨ましいとかそんなんじゃない。でもママはわたしじゃなくて妹のプリンを選んだのだ。結婚はしたくない。そろそろ考えなきゃいけない年頃なのかもしれないけど、知らない男の人と結婚するなんて考えられない。姉さんたちが嫁いでいくのを見て毎回少し怯えていた。なのに。

「順番抜かされるとか癪に障る!」

もちろん結婚してない姉さんたちもいる。でもそれはママに認められ、戦力として必要だから。わたしはそうじゃないのに。モヤモヤする。
一人ベッドの端っこでうだうだしているとノック音が聞こえた。はーい、と気の抜けた返事を返した。扉に目を向けるとそこにはおにいちゃんが立っていた。

「おにいちゃん!」

ベットから飛び起きると扉まで一直線に走り、その足に飛びついた。足と言うより脛だけど。そんなわたしを見ておにいちゃんはため息をついた。

「具合が悪いわけじゃないんだな」
「具合……?」
「今日は迎えに来なかっただろう」
「え、ああ、…?ん!?もうそんな時間!?」

確かに時計を見ればおにいちゃんが港に着く時間をとっくに過ぎていた。

「何かあったのか」

わたしを見つめてくるおにいちゃんに微笑んだ。わたしのことを心配してくれている。そしてわざわざわたしの部屋まで見に来てくれたのだ。

「何もないよ。…プリンのこと聞いただけ」
「プリン…?ああ、婚約の話か」
「そ」

不貞腐れたようにベッドに座り込むわたしにおにいちゃんは不思議そうに言った。

「どうしてお前がプリンの婚約で落ち込むんだ」

落ち込んでないよ、と言いながら枕に顔をうずめる。わたしはプリンと仲がいいわけじゃない。あの子の裏の顔を知っていたら仲良くなんてなれない。いくら姉妹でも。まあわたしにとって仲がいい兄弟姉妹なんておにいちゃんしかいないんだけど。だからおにいちゃんには、わたしの今の気持ちなんてわからないのだろう。仲のいい妹を知らない男に取られちゃうとかそんな可愛い理由じゃない。

「……き、越されたの」
「……何?」
「遂に妹に先を越されたの!」

今までは婚約の話が挙がってもそれは全部姉たちの話。ちょうど順番的にわたしでもおかしくない頃だった。なのに、プリン。結婚したくはないけど、先を越されたという事実は思いの外深く胸に刺さっていた。わたしにも少しくらいは姉のプライドというものがある。

「お前結婚したいのか」
「そうじゃないよ!おにいちゃんと離れたくないし…でもさー!妹が先に嫁ぐってなんか悔しい!やっぱりわたしへのママの評価が低いからだよね」

わたしは枕に顔をうずめたまま左に手を伸ばした。そして枕元にあるボロボロのテディベアを抱きしめる。綿がへたって所々擦り切れた“ドーナツ”だ。そしてそのままベッドから床に転がり込んだ。毛脚の長いラグが草原のようにわたしを包む。汚いぞ、というおにいちゃんの言葉は無視だ。ドーナツのお腹に顔を押し付け息を吸う。

「んー、わたしずっとこのままなのかなあ」

誰にも評価されず、特に任される仕事もなく、何かの地位もなく、嫁がされることもなく、でもお金や食べ物に困ることは無い。幸せなのか不幸せなのかわからない人生だ。

「お前はまだ若い。好きなことをしろ」
「そう?じゃあしばらくはおにいちゃんと一緒にいる!」
「そうか」

顔からドーナツを離し、おにいちゃんを見る。

「あれ?いつもなら、独り立ちしろーとか言うのに」
「言った方がいいか」
「ううん!言わなくていい!」

そう言いながら、ドーナツと一緒におにいちゃんに飛びついた。おにいちゃんは軽々と抱きとめてくれる。おにいちゃんの首元のファーが頭にもさもさ当たる。

その感触を楽しんでいるソフィアをカタクリは見つめた。今回のヴィンスモーク家との縁談は当初ソフィアで話が進んでいた。暗殺の件は能力が使えなくても、銃くらいは使えるだろうと。大臣たちもそれで納得していた。しかし、カタクリが「能力が分からない内にくれてやる必要はない」とママに進言したのだった。本当に嫁ぐわけではないのに。
実はヴィンスモーク家の前にも、ソフィアにそういう話はいくつか来ていたのだが、毎回同じことをママに進言し阻止していた。
今回も同様に、「万が一能力が暴走したら対処できない」やら「能力がわかっていないアイツに賞金首は撃てない」など理由を挙げ、ママを納得させていた。それでプリンにお鉢が回ったのだった。

それをソフィアは知らない。

おにいちゃんの妨げ
「バージンロードはおにいちゃんと歩きたいなー」
「……ああ」



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