わたしは小さい頃、兄弟達から「チビ」と呼ばれていた。わたしは別にチビじゃない。ちょっと小さめなだけ。と言うよりも、いろんな種族が混ざった兄弟だから、みんなが大きすぎるのだ。あとは単純に、わたしを馬鹿にしたかっただけ。身長まで引き合いに出してわたしを貶めるなんて血の繋がった兄弟のすることじゃない。まあ繋がってるのは半分だけど。
わたしは至って“標準”のサイズだ。ただそのせいでおにいちゃんが立てば、わたしと目が合うのは膝だ。椅子に座ったとしても正面に見えるのは、おにいちゃんのバキバキに割れた腹筋。509cmと150cmのわたし。この359cmの差はなかなか埋まらない。
「わたしもおにいちゃんと同じが良かったなー」
大きなソファーに座るおにいちゃんの横で同じソファーに寝そべる。この家のものは何もかも作りが大きいからソファーも椅子もわたしからしたら全部ベッドになる。もちろんわたしの部屋の家具はわたしのサイズに見合ったものだけど、共有スペースは何もかもが大きい。だからお兄にいちゃんがソファーに座っていてもわたしが寝そべられるくらいに大きいのだ。おにいちゃんの膝を枕にしようとしたこともあったが膝が高すぎて無理だった。今はおにいちゃんの太ももに頭を向けて寝転がっている。その寝そべっているわたしにおにいちゃんはチラ、と視線を向けた。
「何の話だ」
「背の高さ」
わたしがそう言うと、すごく苦い顔をした、気がする。やっぱり顔半分隠れてるのは勿体ない。
「今おにいちゃん想像したでしょ」
「……」
「でも5mのわたしって気持ち悪いか。じゃあせめて3mくらい」
「必要ないな」
「でもそうしないとおにいちゃんの顔見るの大変なんだよー」
そう言いながらわたしは体を起こし、ソファーに立った。それでもおにいちゃんの顔は遥か上だ。
「目を合わせるのきつくない?おにいちゃんも下見なきゃいけないし。この体勢首が痛くなるんだよー」
おにいちゃんもそうじゃないの?と聞く。すると、ソファーに座っていたおにいちゃんが立ち上がり、そのまま床に座り直した。
「おにいちゃん!?」
そんなとこ座ったら良くないよ!と言うとおにいちゃんは胡座をかいた足の上に肘を起き、その手に顎を乗せた。
「これでどうだ」
「どうだ、って」
「俺が床に座りお前がソファーに立っていても勿論お前は見上げないと見れないだろうが、前よりは楽だろう」
いつもより近いおにいちゃんの顔。無表情でそう言い放つおにいちゃん。ああ、おにいちゃんが好きだ。こんなおにいちゃん、世界一に決まってる。
「ねえ、おにいちゃん」
「なんだ」
「膝に座ってもいい?」
「……お前はもう大人だろう」
「わーい!失礼しまーす!」
おにいちゃんの溜め息が聞こえた気がしたが気のせいだろう。ソファーからそのままおにいちゃんの左膝に滑るように移動した。あの膝のトゲトゲにはきちんと気をつけた。ずっとずっとそうだった。小さい頃からおにいちゃんの膝の上が大好きだった。最近はそういうタイミングもなかったので久し振りの膝の上。
「……はあ」
溜め息は気のせいじゃなかったみたいだ。でも、なんだかんだで許してくれるのをわたしは知っている。わたしは満足気におにいちゃんの膝を陣取っていた。落ちないようにトゲトゲをしっかり掴んだ。
「ソフィア」
「んー?なあに、おにいちゃん」
「こういうことは外でするなよ」
みっともないと思われるから、だろう。
「しないよー、他の兄弟の前でもしないし、おにいちゃん以外の膝は興味無いもん」
「……そうか」
「おにいちゃんと二人の時しかしないよ。わたしがペロス兄さんの膝に座ると思う?」
「……」
「ほらね」
ペロス兄さんの膝に座ったわたしを想像したであろうおにいちゃんに、わたしはくすくすと笑った。
「今度は肩に乗せてね。そのまま街を歩いたら気持ちよさそう」
「それは断る」
「えー」
おにいちゃんは大きい
三日後、ソフィアを肩に乗せて歩くカタクリが
ハクリキタウンで目撃されたとかされないとか
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