最近やたらと上の兄弟姉妹たちが騒がしいと思ったら、プリンの結婚の段取りがついたらしい。らしい、って言うのは私が直接誰かに言われたわけじゃないから。
え、わたし出席しなくていいの?日取りとか知らないけど。みんなわたしに予定なんてないと思ってない?わたしだってそこまで暇じゃあ.......え?いや、まあそうね、することはないけどさ。でも新しいドレス買っていいなら買いたい、とおにいちゃんに言ったら特別な服装は新郎新婦だけだと言われた。あれ?今までってドレスコードなかったっけ?
おにいちゃんの隣で紅茶を啜りながら至極当たり前の質問を今更聞いてみた。

「結局のところ、プリンは“どこ”と結婚させられるの?」
「ヴィンスモーク家だ」
「.......ヴィンスモークってジェルマ?北の海の?」
「そうだ」
「ふーん」

ジェルマ王国と言えば、ジェルマ66が有名だ。そんなに詳しくは知らないけれど教養として叩き込まれた世界地図や統治の分布を思い出す。

「北の海にこれ以上繋がりが欲しいの?」
「いや、ママが欲しているのはジェルマの科学力だ」
「科学力?」

ママの欲しいものに科学力なんて言葉が出てきたのは初めてじゃなかろうか。

「クローンだ」

おにいちゃんのその言葉に勝手に眉間が皺が寄る。ママが欲しいクローンなんて、いい意味なわけが無い。

「.......クローンって実用化されてるんだ」
「技術面しかり倫理面しかり課題としては大きいだろうが、そもそもクローンだと認識されなければ問題ないからな」
「おー、怖い怖い」

腕を両手で摩って大袈裟にリアクションをとる。

「それで?ジェルマと繋がって軍事力上げてどうするの?」
「繋がりはしない」
「うん?プリンが結婚するんでしょ?」
「.......形としてはな」

その言葉に最悪のシナリオが頭の中に構築された。

「あー.......、消しちゃうんだ」
「そういうことだ」

血の繋がった人が考えたとは思えないほど残酷な計画だ。結婚って本来すごく幸せなものなのに。一生に一度の、最高の日のはずなのに。まあ一生に一度じゃない人もいるけど。

「その計画ってわたしが聞いてもいいやつ?」
「構わん」
「じゃあ聞きたい」

わたしはおにいちゃんの膝に肘をついて見上げた。

「式で黒足がプリンのベールを捲った瞬間、プリンが銃を打つ。それを合図に列席しているジェルマの面々を始末して、国を奪う作戦だ」

ふーん。みんなが考えそうなことだ。.......ん??ん?????

「.......待って、黒足って言った?」
「ああ」
「黒足って、黒足のサンジ!?」
「そうだ」

彼の手配書を思い出す。

「黒足ってジェルマの人なの!?」
「ヴィンスモーク家の三男だ」
「へええ.......、でも彼は麦わらの一味だよね?」
「そんなことは関係ない」
「でもそしたら麦わらが傘下に入るってこと?それはちょっと楽しみかも」

麦わらの一味と言えばここ数年世界を騒がす存在だ。

「麦わらの一味はこの件に一切関わることはない」
「黒足が結婚するのに?」
「黒足は麦わらを抜けてジェルマの王子としてプリンと結婚する」
「ふーん」
「.......麦わらに詳しいのか」
「ううん、ぜーんぜん。でもこの前ドフラミンゴに勝ったでしょ?頂上戦争のこともあるし、興味があるの」
「.......ママの脅威となり得るなら消すだけだ」
「ま、おにいちゃんはそうだろうね」
「どういう意味だ?」
「そのまんまだよ。わたしはもっとエンタメ的に楽しませてもらおーっと」

黒足がプリンとの結婚に前向きかどうかは知らないけど、ママが決めたことだ。わたしがおにいちゃんの結婚を阻止する時みたいに上手に操らなきゃ逃れられない。
そしてわたしは未だにプリンに先を越されたことを根に持っている。でも順番的にわたしだったのにプリンになったのは何故だろう。わたしじゃ銃を撃てないと判断されたのだろうか。まあでもそれはそうだ。わたしに人は撃てない。撃ちたくない。

「お前は安全な場所にいろ」
「それはそうするよ。一番後ろのほうにいる。ママに会いたくないし」
「そうか」

でもプリンは何だかんだママに可愛がられていると思っていた。そのプリンですら、そうやって自分のために利用するんだ。銃を持たせて、人を殺させようとする。海賊だから当たり前と言われればそうなんだけど、わたしにその自覚は無いし、親が子にさせることでは無いと思う。ここに生まれてしまったのだから、仕方の無いことだけど。
わたしも、いつかは。
そう思ったら勝手に口が開いていた。

「.......ねえおにいちゃん」
「なんだ?」
「例えば、なんだけど」
「ああ」
「わたしがママを裏切るようなことをしたら、おにいちゃんはどうする?」

おにいちゃんの視線が下を向いた。鋭い眼光がわたしを捉える。

「何の話だ」
「例えば、だってば」
「.......」

無言を貫くおにいちゃんの膝から離れ、ソファーから降りた。そのまま窓の方へと足を進める。

「オーブン兄さん辺りなら躊躇なく殺しそうだよねー」
「ソフィア」
「ペロス兄さんも、」
「ソフィア!」

ビクッと肩が跳ねた。耳に届いた大きな声も背中に刺さる視線も、少し怖かった。普段おにいちゃんはわたしに声を荒らげない人なのに。

「冗談でもそんなことを聞くな」
「..............ごめんなさい。でも、」
「でもじゃない」

おにいちゃんはわたしがここでの生活に満足していると思っているのだろうか。わたしがここにいることで幸せだと思っているのだろうか。

「でも、」
「.......」
「でもいつか、わたしが耐えられなくなったら、その時は、」
「.......」
「おにいちゃんに終わらせて欲しい」

おにいちゃんを見上げて微笑む。

「それならわたし、納得して死ねるから」
「ソフィア」
「うん?」
「俺にお前を殺させるようなことはするな」

おにいちゃんのその目はいつもと変わらないけれど、その瞳が少しだけ揺れたのは見なかったことにした。

「.......うん、頑張るよ」


おにいちゃんにお願い
良い妹じゃなくてごめんなさい



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