「おにーちゃん」
「なんだ」
「そっち、行ってもいい?」
「……ああ」
よく晴れた日。わたしはコムギ島のおにいちゃんの部屋に押しかけていた。大きなソファーに飛び乗り、そのままおにいちゃんの膝の上に収まる。
「ふふ」
にやにやしているとおにいちゃんが頭を撫でてくれる。
「おにいちゃん」
「どうした」
「えへへ、呼んだだけ」
おにいちゃんのお腹に頭をすりすりと擦り付けた。おにいちゃんも何も言わず、わたしにされるがままだ。
「おにいちゃん、手ぇ貸して」
「手?」
差し出されたおにいちゃんの右手を掴む。
「おにいちゃんの手おっきい」
その指をさわさわと撫で、ぎゅっと握る。
「……こんなに甘えるのは久々だな」
「そう?」
時々、無性におにいちゃんが恋しくなる時がある。まあ毎日恋しいけどそういうんじゃなくて、すごーく甘えたくなる感じ。おにいちゃんもなんだかんだわたしに甘いからこういう時もぐずぐずに甘やかしてくれる。お菓子に砂糖てんこ盛りにして、その上から蜂蜜をかけたくらい、おにいちゃんはわたしに甘いの。
「ドーナツもあるぞ」
「んーん、今はいい。おにいちゃんとこうしてたい」
「そうか」
ドーナツも魅力的だけど、今はおにいちゃんの体温でぬくぬくしていたい時期なのだ。
「……お前の恋人になる奴は大変だな」
「…………ん!?」
おにいちゃんのその発言に驚いた。そんなこと、言ったことないのに。おにいちゃんの真意を知りたくて、顔を上げた。
「わたしの、こいびと?」
「……深い意味は無い」
「ほんとにぃ?」
「ああ」
わたしは眉をひそめておにいちゃんの指を握る力を強めた。
「何が大変なの」
「お前は甘えるのが好きだろう」
「それはおにいちゃんだからだよー!」
「……普通は恋人に甘えるのが筋じゃないのか?その頃にはお前もここを出て、」
「やだ!!わたしはおにいちゃんとずっと一緒だもん!」
「…………」
「それにそもそも私に出会いなんてないし」
「…………」
「わたしはおにいちゃんがいればいいの」
「……そうか」
「うん!」
満足そうなわたしにおにいちゃんも色々諦めたのか口数が少なくなった。
「ねえねえおにいちゃん」
「なんだ」
「このままお昼寝してもいい?」
「…ここでか」
「うん、おにいちゃんの膝の上で」
「……ああ」
おにいちゃんのお腹に頭を預け体を丸める。少し遠くからおにいちゃんの心臓の音が聞こえる。本当に体が大きいんだなあと今更なことを考えながら目をつぶった。
「……お前は、」
意識が遠のく直前、おにいちゃんの声が聞こえた気がした。最後まで聞こうと思ったけれど、髪を梳いてくれるお兄ちゃんの手が気持ちよくて瞼が重力に耐えきれなかった。
「お前はそのままでいてくれ」
おにいちゃんの膝の上
わたしが一番安心できる場所
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