わたしは、ワノ国のくノ一。


そう自分に言い聞かせながら城の中をコソコソと歩いていた。ここで誰かに見つかったらそこで終わりだ。城を出たら、港に行き、定期船に乗る。計画は、完璧。頭の中で何度もシミュレーションした。
貝殻の形のポシェットにはありったけのおこづかいと、万が一のための小型電伝虫。あとは化粧ポーチとかキャンディーとか。この貝殻のポシェットは、おにいちゃんにねだってねだって手に入れてもらったクリミナルの限定品だ。そう、あのクリミナル。一般流通品とは違い、“crimin”のロゴの刺繍が金色なのだ。はちゃめちゃに可愛いお気に入り。今日という日にぴったりのポシェット。

誰にも会わないように人通りが少ないルートを使って、慎重に、壁際をコソコソと進む。
別に買い物くらい、と思うがこの国から出るとなると話は別だ。本来ならママの許可を得なければならない。まあ逃げ出す兄弟がいるくらいだから仕方ない。でも理由を聞かれるのも面倒だし、行動を把握されるというのも認めたくないお年頃だ。どうせ今日の夜には戻って来れるし、私がいないことなんて誰も気づかない。
ポシェットの紐をギュッと握り締めて、音を立てないように廊下を進む。ゆっくりだが、定期船の時間にはじゅうぶん間に合う。あと少し進めば、港へ一番近い裏口が見える。やった、もうすぐだ。そう思って柱から身を乗り出し裏口を駆け抜けようとした時だった。

「……ソフィア」

お腹の底に響く低いその声に、字のごとく肩が跳ねた。背中側から伝わる視線に心臓が止まるかと思った思った。振り向くのが、怖い。そのまま固まっていると、もう一度名前を呼ばれた。

「ソフィア」
「…おっ、おにいちゃん!お仕事お疲れさま!」

何事も無かったかのように振り返り、そう微笑んだ。誤魔化せるとは思えないが形だけでも取り繕っておかなければ。

「ああ。そんなところでコソコソと何をしている」
「え?えーっと……コソコソなんてしてないよ!買い物!行こうかなって!」
「正面から行けばいいだろう」
「そうだね〜、えへへ」

ぐるっと向きを変え、正面の出入口に向かおうとすれば襟をぐいと掴まれた。

「ぐえっ」
「正直に言ってみろ」

黙っているわたしにおにいちゃんは緩い力でもう一度襟を引っ張った。

「うっ、…ぎょ、魚人島に行こうかと……」
「魚人島?何をしに行くんだ」

襟を離したおにいちゃんを見上げながらポシェットに手を突っ込み折りたたんであった雑誌の切り抜きを突きつけた。でも多分おにいちゃんにはほとんど見えていないだろう。

「これ!このクリミナルの新作Tシャツが欲しいの!」
「Tシャツなら街で買えるだろう」
「違うの!今日発売の限定カラーが欲しいの!」
「……前言っていたブランドのものか」
「そう。こればっかりは今日行かないと手に入らないの」
「……その様子だとママの許可は得ていないようだな」
「うっ」
「……ソフィア」

咎めるようなおにいちゃんの声にわたしはますます小さくなる。

「だって、会いたくないし……」

おにいちゃんから目線を逸らし、口をすぼめてそう言えばおにいちゃんは小さくため息をついた。

「一人で行けるのか」
「おにいちゃん、わたしもいい歳だよ?」
「お前はまだ子どもだ」
「いつもそーやって子供扱いする」

くちをアヒルのようにすぼめ、形だけの抵抗をした。
わたしのその顔におにいちゃんはちょっとだけ反応した。

「…………すぐに戻ってこられるのか」
「へ?あ、うん。定期船ちょうどいい時間で乗り継いだら…、って行ってもいいの!?」
「行ってもいいとは行っていない」
「え?」
「俺は何も見ていない」

ぷい、と言う表現がおにいちゃんに当てはまるかは置いておくけど、ほんとそんな感じでおにいちゃんはわたしから視線をずらした。
その言葉に思わずおにいちゃんの脛に抱きついた。

「おにいちゃん!ありがとう!」

何だかんだでおにいちゃんはわたしに甘い(寛大な)のだ。


おにいちゃんは寛大
「あとこれを持っていけ」
「なに?…ブラックカード!?!?」



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