「パウリー!これはどうかな?」
「……、似合ってる」
「もう!さっきから“似合ってる”しか言ってないの分かってる?もうこれ五着目なんだからね!」
「いや、どれもいいと思、」
「選んでくれなきゃ困るの!」

真っ白な壁。そこに整然と並ぶ華やかだが洗練された純白のドレス。そんな中、手持ち無沙汰に佇むパウリー。そのパウリーに向かって、腰に手を当てるウエディングドレス姿のナマエ。それを見て微笑む女性のフィッターさん。

「そう言われてもだな」
「もう」

二人で決めたくてドレス選びに来たのに、パウリーは周りが気になるのか心ここに在らずと言った様子だ。するとフィッターさんがアドバイスをくれた。

「ご新郎様のタキシードは確かフロックコートのゴールドベージュでしたよね」

このパウリーのタキシードを決めるのにもすごく時間がかかった。パウリーは普通のスーツみたいな形の青いタキシードを真っ先に選んだが、それじゃあいつもと変わらない!とゴールドベージュのものにしてもらった。彼の髪によく映える。

「はい!膝まで丈があるものにしました」
「でしたら、ご新婦様は先程お召になったようなふわふわしたAラインやプリンセスラインのものも良いですが、今お召しになっているマーメイドラインのものの方が、お並びになった時に綺麗に見えるかと思いますよ」
「だって、パウリー。どうしよっか」

確かに今着ているマーメイドラインのドレスは腰の膨らみから裾へ向けての部分がシャープな線を描き、曲線美を余すことなく魅せることが出来る。デザインもしつこくなく、シンプルだけど可愛い。

「でもちょっとセクシーすぎるかな?」
「セっ、…」

Aラインのドレスと違って、くびれから腰までフィットしたデザインのため体の線が強調されてしまう。顔を真っ赤にするパウリーの横でフィッターさんが微笑んだ。

「ふふ、でもご新郎様は今のドレス姿を一番長く見つめていらっしゃいましたよ」
「本当にパウリー!じゃあこれにしよっか」
「いや、俺はそんな…!」
「そんなこと言ってると、いつまでも決まらないんだからね!」
「あ、ああ……でも確かに、それが一番、似合ってる」

照れながらもそう言ってくれたパウリーに満足したナマエはフィッターさんにこれにします!と伝えフィッティングルームに戻った。
ドレスも決まった。料理のコース内容やケーキはもう決めてあるし、招待状はチラホラと出欠の返事が届き始めている。あとはもう最終調整を残して、当日を待つばかりだ。






厳かな雰囲気の教会で、神父の声が響く。病める時も健やかなる時もお互いを愛しますか、なんて聞かれるの分かっていたのに、本当に聞くんだなと心の隅っこで思った。そう思う余裕があったのに横に立っているパウリーはガチガチに緊張していた。

「……では、誓いのキスを」

ヴェールを持ち上げるパウリーと目が合った。

「…ナマエ」
「うん?」
「すごく、綺麗だ」

このタイミングでそんなこと言うなんてずるい。

「パウリーも格好いいよ」

そう言って目をつぶった。慣れているキスも、いつもの唇がとても熱を持っていて擽ったい。会場が盛り上がっているのもわかる。唇を離したパウリーの顔は相変わらず真っ赤で笑ってしまった。


私たちはそのまま教会の前の水路に向かった。ここウォーターセブンでは、水の都なだけあってゴンドラでのウェディングセレモニーがある。今の時代お金もかかるし、する人も減っているが、彼はその水の都が誇るガレーラ・カンパニーの副社長なのだ。私も知らない内に、アイスバーグさんが手配してくれたらしい。慌ててゴンドラに乗り込むと、近所の子供たちが併走してお祝いしてくれた。すると、橋の上の集団に目がいった。パウリーを毎朝追いかけていたファンの人達である。

「副社長ぉー!」
「幸せになってねー!!」

そう泣き叫びながら、ハンカチを噛んでいた。彼女たちなりのお祝いらしい。パウリーは終始恥ずかしそうにしていたが、彼がこの街にどれほど愛されているのかを再確認出来たいい機会だった。






「楽しかったけど疲れたー!」

家に戻り、ソファーにダイブする。慣れないドレスや、緊張の糸を常に張っていたからか、式が終わるとスグにどっと疲れが出てしまった。

「……」
「どうしたのパウリー」

黙っているパウリーに声をかける。彼もソファーにドスンと座ってこちらを見ている。

「…本当に結婚したんだな」

そう真面目な顔で呟いた彼に、ナマエは少し呆れた様子で口を開いた。

「ねえそれ、婚姻届出した次の日も言ってた」
「実感が無いわけじゃねェんだけどな…」

ソファーに寝そべっていたナマエも起き上がり、パウリーに視線を合わせる。

「新婚旅行はひと月後だし、しばらくはまたいつも通りだね」
「ああ、………ナマエ」

また、真剣な瞳をしている彼と目が合う。ナマエが口を開く前にパウリーが言った。

「…絶対にお前を幸せにする」
「……うん」
「もしかしたら、今後お前のことを不安にさせることもあるかもしれねェ」
「うん」
「でも、俺にはお前だけだから…だから、どんなときも信じていてほしい」
「…私がパウリーのこと信じないわけないでしょ。もし喧嘩しても、私から謝るように努力するから」
「…それはどうだかな、お前頑固だし」
「頑固って…、パウリーにだけは言われたくない!」

そう頬を膨らませたナマエは、パウリーと目を合わせるとすぐに吹き出してしまった。それにつられてパウリーも笑い出す。

「喧嘩した時はお互い折れるってことで」
「そうだな」


Water City Wedding
「…それにしても、本当に俺達結婚したのか」
「それあと何回言うつもり?」


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