「ただいまァ」

その声は、ずっと私が待ち望んでいたものだった。先の戦で実は彼が生きていたと聞いていた。けれども、いざ目の前に現れると、泣かないと決めていたのに涙が止まらない。私は百年、彼を待っていたのだ。

「なんや、“おかえり”て言うてくれへんのか?」

その優しい声は時間を感じさせなくて、まるで昨日ぶりかのような声色に私は泣き続けることしか出来なかった。

「…喋れんくらい嬉しいんか」

ゆっくりとした手つきで彼は私を抱き寄せた。私はその胸にすがるように彼の服を掴む。

「もう分かった。お前がどんだけ俺のこと待っとってくれたんかは分かったから。そないに泣いたら綺麗な顔が台無しや」
「……泣いた顔も好き、って言ったの誰よ」
「ああ、俺やなあ」

そう言って苦笑する彼に私は笑顔を向けた。

「真子」
「おー」
「おかえりなさい」
「…おう」

頭をくしゃくしゃと撫でる真子の手を掴む。

「ずっと待ってた」
「ああ、すまんかったな」

何かを思い出したのか、少しだけ真子の顔が歪んだ。私は、彼に後悔して欲しいわけじゃない。

「真子は?」
「俺もお前のことずーっと思っとった」
「……本当に?」

私の顔を見た真子はニタア、と笑った。

「なんや、疑うんか?」
「だって真子、モテるから」
「そりゃこっちのセリフやろ」

そう言って私の頬を片手で掴んだ。挟まれた頬がちょっとだけ痛い。でも、いつもの力加減だ。

「こーんな美人、誰がほっとくねん」
「ふふ」
「なんやねんその意味深な笑いは」
「真子、忘れてる」

何を、と言いたげな顔で私の頬を離した。

「私が貴方のこと、一生好きだってこと」
「おま、一生て」
「だって本当だもん。まあ、確かに何人かに声はかけられたりしたけど」
「何人…?」
「あー、…何十人?」

そう言って笑う私に、真子は苦笑した。真子と付き合う前も色んな人に呼び出される機会が多かったから、不安に思ってくれてたのだろうか。

「こんな美人がよく待っとってくれたわ」
「私は真子じゃないとダメだから」
「名前…」
「後家になったって言われても良かった。何を言われても私には貴方だけ、だから」

顔を上げるとすごく優しい真子の顔が目の前にあった。

「真子?」

近づく唇を素直に受け入れた。直ぐに離れた唇を見つめる。百年ぶりのキスに私は動けなかった。懐かしいとか久しぶりとかそんな感情なんて通り越していた。

「…なんや、どないしてん」

そう心配する真子に私は口を開いた。我慢しようとしてもにやけてしまう。

「私、キスする時に真子の長い髪が首に当たるの好きじゃなかったんだけど、」
「おい、初耳やぞ」
「だって初めて言ったもん。でもね、今、私はあれが好きだったんだなあって思ったの」
「名前」
「今の真子も好きだけどね」

おかっぱ似合ってるよ、と言えば、彼はため息をついた。

「お前は変わらんなァ」
「真子がいつでも見つけられるように、だよ」

私はこの百年、髪型も変えずメイクもほとんど変えていなかった。体型も加齢に抗い、なんとか百年前の自分を維持しようと努めた。

「そないに可愛ええこと言われたらたまらんわ」
「キープするの、大変だったんだからね」

そう言いながら、私は自分のお腹周りを撫でた。

「真子が戻ってきた時に、真子はかっこいいままなのに私だけ老いてたら悲しいじゃない」
「俺がヨボヨボになって戻ってくる可能性もあったやろ」
「私はどんな真子でも愛せるから大丈夫」
「アホ、俺やってどんなお前でも愛せる」
「……私がぶくぶく太ったら真子のせいだからね」
「おーおーボリューミーなお前もええなァ。ドンと来いってやつやな」

二人で笑い合える日がまた来るなんて。私はまたあの幸せな日々に戻れる。

「真子」
「ん?なんや」
「また私と一緒にいてくれる?」
「…そんなん当たり前やろ」

伸びてきた彼の腕の中に入る。聞き慣れた彼の心臓の音にドキドキした。

「もう二度と、お前のこと離さへんから」

くぐもった彼の声が聞こえる。うん、と声にならない返事をした。


会いたい、会いたい
やっと会えた


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