「「ありがとうございました!」」

稽古場に男女の声が響く。

「相変わらず平子と名字の手合わせ凄いな…」
「両者一歩も譲らず、って感じだな」

手合わせを見ていた生徒達が二人を見てそう言った。この学年ではちょっと知られた二人だ。


「名前」
「なあに」

手合わせが終わり、鍛錬場の隅で汗を拭く名前に平子が声をかけた。

「お前、また腕上げたんとちゃう?」

そう言った平子に名前は、ぱあ、と笑みを浮かべた。

「ほんとに!?やっと特訓の成果が出始めたのかな〜」

わーい、と喜ぶ彼女に平子は少し怪訝そうな顔をした。

「何やねん、特訓て」
「平子には教えませーん」
「何やとォ?」

平子は名前の肩に腕を回し、そのまま首をグッと締めた。

「ぐえっ、ギブギブギブ!死んじゃう!」
「アホか、こんなことで死ぬわけないやろ」
「もう!私、女の子なんだからね!」
「えっ?“女の子”…?どこにおるん?」

そう言って平子は額に手を当て何かを探すような素振りをしながら、目を凝らしキョロキョロと周りを見回した。

「もう!平子ってば!」
「すまんすまん」
「全くもう…、私先に行くからね!」
「おう、行ってまえ行ってまえ」

そう言って鍛錬場を後にする名前を見つめた。それを見ていた六車が平子の肩に手を置いた。

「お前は本当に根性がないな」
「…なんやねん」
「ああでもしないと名字に触れないんだろ」
「なっ…!アホか!」
「軽薄そうに見えて、意外と一途だからな、お前」
「意外と、ってなんやねん。失礼なやっちゃな」

平子も自分の竹刀や道具を手に取り、鍛錬場を後にした。









「リサ〜〜〜!」

名前は叫びながら、その背中に飛びついた。

「何?どないしたん」
「あああ、どうしようリサ!さっき平子に後ろから抱き締められた…!」
「へえ、遂にアイツ手ェ出てきたん?」

興奮する名前に向き合った。顔を真っ赤にしている。

「ちゃうで、リサ」
「ひよ里!」

突然入ってきた横槍に、名前は頬をふくらませた。

「なになに?どういうことなん?」
「さっき近くで見てたけど、あのアホがコイツにスリーパーホールド決めてただけや」
「なんや、首絞めプレイ?初っ端から激しいな」

でもそれ名前にやるんやったらエッロいプロレス衣装着せてから、いや、際どい水着でもええな、と言っているリサを無視し、道具を片付けにロッカーへ向かった。










昼休み。なんだか一人になりたくて、霊術院の教員棟の屋根に登る。見つかったら叱られるが、ここは風が気持ちいい。そこでお弁当を広げた。でも、一口目がなかなか口に入らない。

「はあ…」

私は平子が好きだ。でも、私達は死神として立派になる為に勉学に励んでいる身だ。恋愛にうつつを抜かしていたら、すぐ周りに追い抜かれてしまう。それに、平子との今の関係が壊れてしまうと思うと、何も出来なかった。彼は、私のことを友人としてしか見ていない。

「……はあ、」
「何悩んでんねん」

2度目の溜息を吐いた時、視界を影が覆った。

「…平子」

振り向くと、そこには悩みの種本人である平子が立っていた。なんてタイミングで、と思っていると平子は私の横に座った。

「何かあったんか」
「………平子はさ、好きな人とか、いる?」
「はァ!?なんやねん、急に」
「あ、いや、えっと、私の話じゃなくて…、と、友達の話なんだけどね!」

声が上ずる。いっそ、本人に聞いてしまえばいいのでは、と思ったが、やっぱり私はどこまでも素直になれない。

「…で?その“友達”がどないしたんや」
「そ、その友達がね、好きな人がいるんだけど、その人に友達以上に見てもらえない、って悩んでて……男の人からしたら女友達から恋人、とかってありえる…かな?」
「友達以上なァ…」

チラ、と平子を見るとまっすぐ向いて何かを考えていた。

「ひ、平子は?」
「ん?」
「平子だったら、ずっと友達だと思ってた人から突然告白とかされたら、その…、どうする?」
「まあ、相手にもよるやろ」
「そっか、そりゃそうだよね…」

なんと生産性のない質問をしてしまったのだろうと落ち込んでいると、でもなァ、と平子が口を開いた。

「俺は、告白されたら、嬉しいと思うで」
「そ、っか……そうなんだ」

平子は女友達から告白されたら、嬉しいのか。それはそれで複雑な心境だ。心臓の下の部分がぐぐっ、と縮んだ気がした。すると、平子がこちらを見てニヤニヤしているのが目に入った。何がそんなに面白いんだろう。

「…ってことは、平子はリサやひよ里に告白されたら、OKするってことだよね」

そう言うと、目をカッと開いて信じられない、という顔でこちらを見た。

「おまっ、はァ!?なんでそうなんねん!」
「えっ、だって友達に告白されたら嬉しいんでしょ…?」
「……はァ…」
「…何よ、その深い溜息」
「相変わらずやなー、て」
「どういう意味よ!」

平子の肩をバシッと叩く。大げさに痛がるその姿を横目に、お弁当に視線を落とした。

「…でもさ、私にはまだまだ学ぶことや身につけなきゃいけないことが沢山あって、そのために勉強してる最中でしょ?だから、そういうことばっかり考えるのも良くないかなって思ってさ」
「……へえ」

頬杖をつきながらこちらを見ている平子にドキリとする。

「って、その友達がね!言ってたの!」
「ほー」

必死に否定しすぎただろうか。まだまだ私は考えなきゃいけないことが沢山あるみたいだ。勉強屋鍛錬のこと、将来のこと、彼のこと。とてもじゃないが時間が足りない。そう思っていると、平子が立ち上がり、口を開いた。

「でもま、俺も本気出すなら卒業後、ってことやな」


完成な関係
「本気?何の話?」
「なんでもないわ」


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