浦原商店、と看板がある昭和の匂いが漂ってきそうな建物の建てつけのよくない扉が、ガシャン、ガタタタタッ、と音を立てて開いた。早朝に似つかわしくないその音に、ジン太と雨は飛び起きた。

「きーすーけーーー!!」

女性の声が家中に響く。

「いるんでしょ!?いるって聞いた!!表に“浦原商店”って書いてあるもん!!!身を隠してた分際でお店の名前に名字つけるってどういうこと!?ねえ!!百年もここにいたの!?私がどんな気持ちで待ってたと思ってるの!!ねえ!きす、」
「朝からうるさいっスよ、名前サン」

店の奥から姿を現した浦原に、名前は声が出せなくなった。

「…さっきまであんなに騒いでたのに、今度はだんまりっスか?」
「……喜助だ…」
「お久しぶりっスね、名前サン」

勢いでここまで来てしまったが、百年も待ち続けた人が目の前にいるというのはとても奇妙なことのように思えた。

「……本当に喜助だ」
「はい、アタシはここにいますよ」

その瞬間、名前は待ち焦がれた胸に飛び込んだ。

「おっと」
「バカバカバカ!」

名前を抱き留めた瞬間、罵倒が飛んでくる。

「こらこら、そこで暴れないでください」
「いやよ!バカ!なんでいなくなったの!」

ナマエは涙で視界が滲んだ。

「それは、…話すと長くなるっスねえ」
「じゃあいい、後で聞く」
「…はい」

名前は、喜助の目をキッと睨んだ。

「どうして私のこと置いていったの!」
「名前のことを巻き込みたくなくて」
「……夜一姉さんのことは巻き込んだくせに」
「いやー、それを言われてしまうと困るっスね」
「私じゃ役に立たなかったんでしょ」
「そんなことは…」
「いいの、分かってる。私は“みんな”みたいに強くないし」
「名前サン……」

この百年のことを埋めようとしても、どれだけ話してもそれは全部埋まらない。目の前で話している人はまた目の前から消えてしまうかもしれない。名前はそんな思いに駆られていた。

「…夜一姉さんは?」

夜一姉さんは、私の本当の姉ではないけど、姉のように慕い、夜一姉さんも本当の妹のように可愛がってくれた。
「夜一さんなら、朝の散歩じゃないっスかねえ」
「…、一緒に住んでるんだ」
「え?あ、はい。他にも三人ほど」
「猿柿副隊長とか?」
「いや、ひよ里さんは別のとこっス」
「ふーん」
「……なんスか、その目」
「喜助はさ、」
「はい」
「夜一姉さんと、そういう関係なの?」

名前は背中に回していた腕を離し、距離をとった。

「ボクと夜一さんが?」
「だって、一緒に住んでるんでしょ」
「え?いやいや!違いますって!」
「…だって、百年だよ?現世にいる間、潔白だったって言える?夜一姉さんだけじゃないよ!その辺の女の子捕まえて…」
「本当にそんなことしてませんて!ボクには名前がいるのに、そんなことするわけないじゃないスか」
「………本当に?」
「本当っスよ!……でもその言い方だと、名前サンは向こうで…」
「してないよ!あ、えっと、しかけたけど、してないよ!ちゃんと逃げたもん」
「はあ、貴女の言葉だから信じますけど…、相変わらず危なっかしい人だ」

こうして話していると、百年前に戻ったようで嬉しくなった。名前は、今後の話をしようと、彼の目を見つめた。

「喜助、私にはよくわかんないけど、もう容疑は晴れたんでしょう?」
「ええ」
「じゃあ戻ってくるよね?開発局で働く?前みたいに向こうで一緒に、」

そう笑顔でいう名前の言葉を、浦原は遮った。

「アタシはここに、現世に残ります」

その言葉に動き出したはずの時間が止まった。

「…………なんで?」
「なんでと言われましても…」

色々あるんスよ、と淡々と言う浦原に名前はカッとした。と同時に、彼は自分と同じ思いではないのかと、胸が締め付けられた。

「もう、私のことなんとも思ってないんだね」
「そうじゃないっスよ」
「じゃあどうして…!」
「…アタシには、アタシの役割がありますから」

彼はとても頼りになる。この百年、私は彼を頼れなかった。私は百年も待ったのに、これからも彼を思い通りに出来ないのだ。

「それに、これからはこうして会えますし」
「…ずるいよ、自分からは会いに来ないくせに」
「そこを突かれると痛いっスね」

そう笑う彼に、私の心は決まった。

「でもいいや」
「え?」
「喜助はまだ私の事好き?」
「ええ、大好きっスよ」

迷いなくそう言ってくれた彼に、胸が熱くなった。私はやっぱり、彼から離れられない。

「じゃあ、私こっちに来るから」
「へ?」
「現世任務に配属させてもらう、何がなんでも」
「…それ大丈夫なんスか?」
「うん、マユリちゃんの弱みならいくつか握ってるし」
「ひゃー、それは怖いっスねえ」

そう苦笑いする喜助は百年前と変わらない。

「だから、私もここにいてもいい?」
「…はい、勿論っス」
「ねえ喜助」
「はい?」
「…ちゅー、して」
「勿論、いいっスよ」


年ぶりのキス
「おぬしら、人前でよくもそんなことが出来るの」
「夜一姉さん!」
「よ、夜一サン…」


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