「雨だと髪がうねる…」
「……ああ」

窓の外を見ながらそう呟くと、生返事が返ってきた。これは絶対話を聞いていないパターンだ。二人がけのソファーの右側に寄って座るベックマンの膝に頭を乗せた。雨の湿気のせいで、ソファーがしっとりしている。背中にまとわりつく感じが少し気持ち悪い。本を読んでいるベックマンは私のことなど気にもとめず、ページをめくっている。

「ねえねえ、何の本読んでるの?」
「…統計学だ」
「とーけーがく?」
「ああ、今読んでいるところは、一元配置分散分析の、」
「あー、なるほど!分かんないからいいや」
「そうか」

一瞬私を見たあと、また本に目を落とした。私は起き上がり、彼の肩に身を寄せた。ベックマンは何か言うわけでもなく、本のページをめくる。私は彼の肩に額をぐりぐりと擦りつけた。彼の着ているTシャツの布の感触が額に伝わる。少しだけおでこが熱くなるのを感じた。

「おい」
「んー」
「眠いのか?」
「眠くないよ」

雨の音が少しゆるくなった気がする。廊下においてある空の酒樽に雨が当たってタンタンタンタンと軽い音が遠くで響いている。あそこは半分屋根がある場所だから、屋根を伝う雨が大きな雫となって落ちているのだろう。頭のどこかでそんなことを考えていると、上から声がした。

「雨は嫌いか」

こちらを向いてそう問いかける彼に、私は笑みを浮かべた。

「晴れてる日に甲板でごろごろするの好きだし、洗濯物もよく乾くし晴れてるほうが好きだけど、雨の日も嫌いじゃないよ」
「ほう」
「雨の日って湿度高いから、こうしてくっついてると晴れの日よりピトってくっついてる感じしない?」

そう言いながら、ベックマンの腕に自分の両腕を絡ませた。しっとりと馴染む肌に満足気に微笑んだ。いつもならこの辺で「本を読むのに邪魔だ」と行ってくるのに、今日は黙っている。不思議に思って、彼のTシャツの裾を少し引っ張った。

「ベック…?」

どうかした?と聞く前に彼の口が開いた。

「じゃあもっとくっつくか」
「へ?…う、わっ」

気づけば私はまたソファに横になっていて、彼越しに見えるのは天井だ。私の上に覆いかぶさっているベックは少しだけ笑っているように見えた。いつの間にか統計学の本はサイドテーブルに置かれていて、彼の目を見ると、あまりの深さに吸い込まれそうだった。

「えー、っと?ベック?…きょ、今日のお昼は何だろ、んんっ」

彼の唇が私のそれを覆い尽くす。ただでさえこの湿度の高さで息がしにくいのに、さらに酸素を奪われるのはたまったもんじゃない。私は酸素を求めて、彼の暑い胸板を叩いた。混ざり合う舌に頭がクラクラする。

「ん、っは…はあ」

やっと唇が離れたと思えば、彼は私の顔を見て目に浮かんだ涙を親指で拭い、また顔を寄せてきた。

「べ、ベック、ちょっとま、」
「黙ってろ」

低く響いたその声に私は抗うことが出来ず、また深いキスに息が奪われた。


上の雨
雨の音が、酷くなった気がした


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