恋すてふ


「豪炎寺はさ、好きな人いんの?」
仲間達の声が飛び交うグラウンドから少し離れたところで、スポーツドリンク片手にしゃがみ込んでいる円堂が、傍らに立つ豪炎寺に問い掛けた。視線はグラウンド全体に向けたままだ。
あまりに唐突な円堂の問い掛けに、危うく手にもっていたドリンクを取り落としかけた豪炎寺はぱちくりと二三度瞬きをして円堂を見下ろす。
円堂にそのような感情やら情緒があったことにも少なからず驚いている豪炎寺だったが、その位置からは円堂の表情を伺えなかった。
ふむ、と豪炎寺は口元に手をあて、思案顔をする。
思えば、そう思わせる行動がなかった訳ではないのかもしれない。あまりに円堂のイメージからかけ離れていたから気にも止めなかったのだろう。自身、言われてから気づいたのだから、きっとまだ他の誰も気づいていないだろう。
だがそうだと知ってしまえば、案外分かりやすいかもしれないと思った。
思い当たる節は、いくつかある。
「ああ、いるぞ」
そう豪炎寺が言うが、円堂はふーん、だとか、やっぱりかー、だとか、自分が質問をしたにもかかわらず気の抜けた返事をしている。豪炎寺はその返答にムッとしながらも、そのまま言葉を続けた。
「俺は、風丸が好きだぞ」
円堂はその言葉にバッと弾かれるように豪炎寺を仰ぎみる。丸くぐりぐりと大きな目を目一杯見開いて、豪炎寺を凝視する。
「えっまじ…」
「ああまじだ」
豪炎寺がにやりと笑ってやれば、円堂はぱくぱくと口を動かす。豪炎寺はそんな様子に心の中でクスリと笑う。
根は単純なやつだ。解りやすい。それとも急だったからか?
どちらにしろ、確信を得た訳ではあるが。
「それに、お前のことも好きだぞ」
円堂は、は?と一気に気の抜けた顔になった。豪炎寺は構わず続ける。
「夕香はもちろんだが、土方も好きだし、吹雪や染岡だって好きだ」
そういった辺りで、円堂はなんだよ〜といいながらへなへなと俯いた。そんな様子に豪炎寺はくつくつと笑う。
「解りやすい奴だな」
「からかうなよなー」
気のない返事をするからだ、と豪炎寺が指摘すると、円堂はムスリと唇を尖らせた。
「えっ、知ってた?」
「いや、今気づいた」
あの質問をされなければ気づかなかったさ、と言うと、円堂は立ち上がり伸びをしながら、まぁ豪炎寺にならいいか、と呟く。
「でも豪炎寺も案外解りやすいよ」
今度は豪炎寺が目を見開く番だった。でたらめにいっているのかと豪炎寺は円堂を見るが、その目は確信に満ちていた。
「いつから…」
「今さっき」
ほんの少し前にしたのと同じような問答を、今度は立場を逆転して行う。
二人揃ってプスリと吹き出して、グラウンドの方を見遣る。
「言わないの?」
円堂がぼそりという。
「その言葉、そっくりそのまま返してやる」
「だよなー…」
豪炎寺が即答すれば、円堂は苦笑する。
円堂はきっと豪炎寺も同じなのだと思った。たくさんの言い訳を並べて動かない、意気地無し。でもそれが最善だという想いはきっと変わらない。これでいいのだ。自分達は満足をしている。
視界の中で揺れる青を二人は目を細めて見つめる。
「まっ、がんばろうぜ!」
円堂がバシリと豪炎寺の背中を叩く。何をだ、と豪炎寺がいえば、円堂はヒヒッと笑ってはぐらかす。

何をサボっているんだ、と声がかかるまで、後少し。



恋すてふ




円堂さんと豪炎寺くんのお話。
豪炎寺の相手は名前ださなかったけどまぁ解る。
見苦しい補足だが円堂は何故気付いたか→一番近しい鬼道の名前を出さなかったから。本命にはほいほい好きだと言わない豪炎寺萌え。
















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