ダウンタウン午前11時晴れ


はあはあと息も絶え絶えにひたすらアスファルトを蹴る。休日の混んだ通りを、道行く人にぶつかっては謝りながら目的地に向けて駆ける。目的地はまだ先だ。
ああもう、となかなか前に進まない身体に苛々する。
何で今日、今日に限って!
いつもは正しく時間を告げる目覚ましも1時間遅れていたし、慌てて家を飛び出したから携帯は忘れるし、自転車は途中でチェーンが絡まるし、自転車を乗り捨ててバスに乗ろうとすれば渋滞でなかなか来ないし!そしてこうして走っている訳だ。
踏んだり蹴ったりすぎて泣けてくる。流れる汗が目に入ってしみる。日頃から鍛えてるとはいえ、焦りと悲しさと悔しさで横っ腹がきゅうきゅうと痛む。足も震え出した。
ああ楽しみにしてたのに。
ディランが前から見たいと言ってた映画。せっかくの休みだからと誘ってくれてすごく嬉しかった。なのに。
自分が不甲斐なくて仕方ない。今からじゃ映画の開始には間に合わないだろう。ごめんディラン、ごめん。
何度繰り返したか分からない懺悔をまた繰り返す。
時間には遅れたことがないから心配しているだろうか、きっと携帯にも連絡をくれているんだろう。帰ってる事はないだろうけど、怒っているかもしれない。
ごめん、ごめん、ディラン。好きなダブルのアイスを奢るから。なんならクレープもつけてもいい!
ようやく約束の広場に着いて、息を整えながらキョロキョロ辺りを見回す。すると視界の端にくすんだブロンドが映った。
ホッと息をつくと同時にじわりと涙が浮かんだ。ふるふると潤んだ目を掻き消して駆け足でディランに駆け寄る。
「ディラ…!」
「マーク!」
ディランがこちらを認めて駆け寄ってくる。
「ごめんディラン!俺…」
「心配した!!」
いつにない大きく荒げた声にビクリと身体が震えた。ジイッとこちらを見つめるディランに俺は一つも身動きができなかった。十分に見つめた後、ディランはへなへなとその場にしゃがみ込んだ。
「携帯繋がらなかった」
「ごめん」
「マークがこんなに遅れた事なんてなかった」
「…ごめん」
「寿命…縮むかと思ったよ…!」
同じようにしゃがみ込んで名前を呼んだ。思ったよりも声が震えてて、顔を上げたディランはニカリと笑うと俺の頭をグシャグシャに掻き交ぜる。
「そんな泣きそうな顔しないでよ」
「お互い様だろ?」
「見えないくせに?」
その通り目元はゴーグルで隠れて見えないけど、そんなの雰囲気ですぐ解る。何年一緒だと思ってるんだ。
俺はゆっくり息を吸って、吐く。
「ごめん、ディラン。映画見られなくなった」
「いいよそんなの。マークがいれば」
「…アイス、奢る。なんならクレープもつけて…!」
いいってば。そういいながらディランはすくりと立ち上がる。つられるように俺も立ち上がる。
「映画だってまた今度でもいいし、DVDででもいい。アイスもクレープも、一緒に食べよう?」
ディランが優しく言い聞かせるように言う。それでも何かしないと納得がいかないとむすりとしていると、それならとディランがこちらに手を差し延べる。
「じゃぁ遅刻した、罰ゲーム」
意味がわからないとキョトンとしていると、ディランは手を上下に振ってアピールする。
繋げと言うことなのだろうか。相変わらずディランの思考にはついていけない所がある。
怖ず怖ずと手を差し出してその手を掴めば、しかりと握り返される。
「これ、お前にも罰ゲームじゃないのか?」
「そうだと思う?」
えっと聞き返す隙もなく、ディランはまずはアイスを食べようと歩きはじめる。その手は握ったままに。
2人の休日は始まったばっかりだ。



ダウンタウン午前11時晴れ




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思ったけどマークは寝過ごしても間に合うぐらい早く起きるようにしてそう。













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