半人前の君 「ザック、買い物いくぞ、ザック!」 大声で俺の名前を呼び、足を踏み鳴らしながら廊下を闊歩しているのは何を隠そう我等がキャプテン。長身に深緑の髪をなびかせながら堂々と歩く姿がすぐに目に浮かぶ。 はぁぁと溜息をつけば、隣にいたマジディがニヤリと笑った。何なんだくそ。 しばしマジディと睨めっこしていると、バンという大きな音と共に部屋の扉が開き、張本人が中に入ってきた。 「こんなところにいたのか。ほら買い物にいくぞ、用意をしろ」 有無を言わせない口調にまた溜息をつき、駄目元で意見してみる。 「カイル、今日俺マジディと遊ぶ予定なんだけど…」 「そうか、早く用意をしろ」 聞いちゃいねぇよ!!今そうかつったろうが!! ガクリと肩を落とす俺にプルプル肩を震わせながら笑いを堪えてるマジディ。 分かってた事だ。この男が素直に俺の言うことを聞く事なんて滅多にない。 まだプルプルと震えているマジディが途切れ途切れに何を買いに行くのか問う。 「ストックの牛乳が切れた」 もう堪えられないとばかりにマジディは吹き出し、腹を抱えて笑っている。ビヨンは素知らぬ顔で早くしろと無言の圧力をかけてくる。 そんな二人を前に俺は頭を抱える。 「どういう意味だカイル!大きなお世話だっつうの!!」 大体俺じゃなくていいだろ! そういいながらたまたま部屋の前の廊下を通ったナセルを指差す。いきなり指を差され驚いたナセルにビヨンが事のあらましを説明する。 小さくああ、と声を漏らしてナセルはビヨンと俺を交互に見た後、 「カルシウムは牛乳からだけじゃなく小魚からもとらなきゃいけないらしいぞ」 「ナセルてめぇぇぇぇ」 更に大きなマジディの笑い声が部屋いっぱいに響く。ビヨンは分からないが、ナセルの真面目な顔が更に傷口をえぐる。はいはいどうせ俺はちびですよ!!ああ、うっすら涙が浮かんできた… 異様な空間の中呆けていると、急に腕を引かれたたらを踏む。振り仰げば微笑を浮かべるビヨンと目が合う。 「行くぞ」 ほんの少しだが見とれていると再び腕を引かれ、今度こそ部屋の外に連れ出される。 後ろからマジディの揶揄するような送り出す言葉が聞こえて、お前の分も買ってきてやるからなと叫べば、いらねぇよと同じように叫ぶ声が返ってきた。 「おい、カイル、カイル!」 ビヨンは歩くスピードを一向に緩めず、歩幅も相まって引きずられる形になっている。いくら名前を呼んでも歩調も緩めず、振り返ろうとしない。 俺は小さく溜息をつくともう一度名前を呼ぶ。 「…おいビヨン」 そう名前を呼べば一瞬動きが止まり、さっきよりスピードを落としてビヨンは歩きだす。 判りやすいんだかそうでないんだか判りづらい相手に俺は頭をガシガシと掻く。 「お前が」 ビヨンは振り返らずに続ける。 「お前がどんな決めごとをしているのかはしらないが」 歩みは止めず、ビヨンはくるりと振り返る。その不敵な笑みに視線を奪われるのは必然に違いない。 「お前には早く一人前になってもらわないと俺が困る」 目を見開く俺に、一度口元を吊り上げてビヨンは前に向くとそのまま歩き続ける。 なんで、と問える自信も度胸も今の俺にはないけど。少しでも早く追いついて、追い抜いてやりたい。 でも、目の前の男には一生追いつけない気がして、俺は白い天井を仰ぎ見た。 半人前の君 拍手ログ。 身長的な意味で半に(ry)w 十分ザックは一人前だけどビヨンと比べちゃうと…^^ 早くおっきくなろうねザック! |