パンドラの忘れ物 とっても抽象的でいい加減なパロディ注意。 主人の作り出した美しい箱庭。瑞瑞しい芝。青々とした草木。美しく映える花々たち。 その美しく綺麗なもので満たされた空間で、俺はエドガーと共にあった。生まれたときから、この空間で、エドガーと過ごした。 人形である俺達は僅かな数えられるほどの感情しか持てない。その持ち得るだけの感情を抱いて寄り添い、生きた。 美しい、幸福だ、愛しい。 主人から教わった感情はどれも暖かく俺達を包んだ。 主人は俺達を愛で、俺達は共に想いあった。俺はエドガーを愛していたし、エドガーもそうだった。 この箱庭の外の事は知らなかったし、知る必要もなかったし、知りたくもなかった。 ただこの美しい世界と、優しい主人と、愛しい彼がいればそれでよかった。この世界が、全てだった。 だが、それが崩れる時がきた。 キィと音をたてて金格子の扉が開く。顔を見せたのは主人ではない。こちらを除くそのひとはあまりに眩しくて、俺は目を背ける。エドガーはただそのひとを真っすぐ見つめていた。 輝くそのひとは太陽の笑みを浮かべている。解る。人間ではない。もっと超越的な、存在。 「ここから、でないかい?」 彼のひとは柔らかく微笑み、真っすぐに手を伸ばす。 「美しい君。君はもっと美しくなるよ」 動かないはずのエドガーの体がふわりと起き上がる。その手をとり、ふわりと舞うエドガー。それはまるで羽が生えたようで、余りの美しさに、行くなとも何も言えなかった。 ひらりと舞い、エドガーは出ていく。ここから。この箱から。その先には何があるという。ここが全てじゃないのか。俺は、どうしたらいい。こんな感情、知らない。 遂に彼のひとの手に引かれたエドガーは、金格子を潜り、真っ白な光に包まれみえなくなった。 「忘れさせてあげようか」 太陽の彼のひとは無邪気に笑う。その光は俺にすれば忍び寄る闇でしかない。 「遠慮しますよ」 そういうと彼のひとは笑みを深くし、何か口にする。それは聞き取れなかった。 彼のひとは去る。エドガーを連れて。もう戻らない。愛しいひと。 ガシャリと扉が閉まる。この箱が失ったものはたった一つであり、全てだった。 所詮は刷り込みだったのだろうか。私の世界は、エドガーの世界でなかったのだろうか。 俺は知る必要のなかった感情を抱えて、この檻の中で生きていくのだ。 パンドラの忘れ物 飛び立ったのは希望。残ったのは絶望。 フィリップごめんね。ヨーロッパリーグでフィディオにエドガーをとられたフィリップ。 |