そうしてまた、気付かないふり


泥に取られる足が重い。慣れるも何も、初めての練習方法なのだから、なかなか上手く動けず疲労だけが溜まる。
息が上がる。身体が重い。いよいよ足も止まりだした。
上がる息を整えながら前を行く二つの姿を見据える。
(円堂…豪炎寺…)
右手で左の胸元をギリッと握りしめる。
重いのは、身体だけか。


豪炎寺の様子がここ数日おかしいのには気付いていた。些細な変化だ。気付いていない者も多いだろう。だが気付かないはずがなかった。また一人でなにか抱え込んでいるのだろう。あの時、エイリア学園の時と同じ顔をしている。
でもそれを聞くことはなかった。例え聞いたとしても、返ってくる言葉は解りきっているからだ。
あいつは、何も言わない。あいつはいつだって言葉が少ない。
そして今度は円堂だ。
豪炎寺を見ては険しく、考え込む表情をするようになった。円堂は、知っているのだろう。
胸の奥がキリリと痛む。悔しいような、哀しいような感情がぐるぐると渦巻く。
俺達はいつも蚊帳の外だ。
そんなに俺は、俺達は頼りないのか。
「………う……どう、……鬼道!!」
ガッと肩を掴まれて我に返る。声が掛かった方に振り向けば、風丸がいた。
「…か、ぜまる」
「どうした、ぼんやりしていたぞ」
「ああ、大丈夫だ…」
心配そうに尋ねる風丸に返事をするのだが、気取られたのだろう、風丸は眉を下げて困ったように微笑した。
そして風丸も前を行く二人を見遣る。眉間に皺をよせて、目を細める。風丸も気付いているのだ。
「……風丸は何か知っているのか?」
「いいや、何にも、だ」
そうか、と短く返事をし、風丸と同じように二人を見遣る。
俺は、不安なのかもしれない。
「鬼道」
風丸が手を掴む。骨が軋むほどに強く強く握りしめる。
「大丈夫だ、あいつらなら」
触れる掌から風丸の鼓動が伝わってくるようだった。
風丸も、同じなのだ。
自分も力いっぱいにその手を握る。
「ああ、俺達がやることは」
ひたすら二人を追いかけて、信じて、背中を押して、支えて、二人が、倒れないように。
「いくぞ!!」
「おお!」
そうだ、走るしかないのだ。立ち止まることは許されない。俺達にも、やれること、やるべきことがある。

走るしか、ないのだ。



そうしてまた、気付かないふり




もう鬼道さんと風丸は円堂と豪炎寺の嫁でいい













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