「あんまりだろ……!」
「何が?」
「な、何がって昨日のことに決まってんだろ!」
昨日の体育の際に顔を赤面させた乳首晒しマンもとい不二裕太は私に何もし返さず帰ったようだった。そもそも昨日の一件は不二から始まったことであり私は何も悪くないのである。やっと不二も観念して負けを認めたのか、と納得していたのに日付が変わればまた威勢が良くなる様だ。
「あー、乳首?」
「そっ!そういう言い方するなよ!」
何を恥ずかしがっているのやら昨日と同じく顔を真っ赤にして喉を詰まらせたように言葉を発する。それにしても朝から下駄箱でワーキャーうるさいやつだ。適当にあしらっていても不二は噛み付いてくる。通りすがりの見知しったものから見知らぬものまで同級生やら下級生やら上級生やらがチラチラをこっちを見てくる。恥ずかしいのは昨日の不二より今の私だろう。
「貴方たち、こんなところで大きな声を出して恥を知りなさい!」
そうだそうだー!右手で拳を握りノリノリで上下に振った。……え、ちょっと“たち”ってどういうことですか!?と声のするほうを振り向けば何とも頭に海藻を乗っけているようなヘアースタイルの男子生徒が居た。あれ、この人そういえば去年クリスマスの時に賛美歌歌ってた気がするぞ。いや、今はそんなことはどうでもいいんですよ、と少しムッと顔をしかめつつ私は身を乗り出す。
「“たち”ってどういうことですか!こんな妖怪乳首晒しと一緒にしないでください!」
「おい、待てよ。誰が妖怪だ。お前の俺への執念深さの方がよっぽど妖怪らしいぞ」
「は?何言ってるの、いつも仕掛けてくるのは乳首でしょ」
「それで呼ぶの止めろ!」
そんな言い合いをしていたら、その賛美歌さんはわなわなと震え始めた。実際震えていた訳ではないのだけれど私にはそう見えるくらい、まぁ要するに怒ってらっしゃった。私の第三の目には彼の髪の毛もとい海藻がメデューサの蛇の如くうねって見えた。そして彼は“こんなところで大きな声を出して恥を知りなさい!”と怒っていたにも関わらず私と不二のどちらよりも明らかに大きな声でこう言ったのだった。
「女性が乳首なんて言うものではありません!!!」
\しめしめ、自業自得だな/
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