天敵、という言葉を皆さんはご存知だろうか?いや、つい最近まで私も詳しくは知らなかったのであるが「ある生物を攻撃して死滅させる習性をもつ生物を,その生物の天敵という。たとえばネコやイタチはネズミの天敵(国語辞典引用)」ということならしい。要するに奴の天敵は私ということだ。奴というのは誰なんだ、と気になる人が居るかもしれないがそれに答えるのは少し後にしよう。
今日はまだ初夏だと言うのに真夏日の気温でただでさえ暑さに弱い私からすれば最悪な日だった。そう、もう学校に行く前の時点で最悪だったんだ。文字通り最も悪かった。その状況がもっと悪くなったのは学校に登校してからだ。今日は朝からロングホームルームがあった。担任から「今日は席替えをする。左端の奴からくじを引きに来い」と言われて仲良しの美代ちゃんと隣になれるかな、なんてわくわくしていた私を神様は許さなかったのだろう。仲良しの美代ちゃんはおろか、割りと話す武田くんさえも近くにいない。寧ろ対角線状だ。私は廊下側の後ろから二番目になってしまった。いや、まだここまでは良かったとしよう。うむ、あまり多くを望むのは良くない。問題は私の後ろの席の奴だった。
奴の名は不二裕太。彼とは何故かうまが合わない。一年生の時に同じクラスだったけれど既にその時から彼とは仲が悪かった。きっかけは全く思い出せないけれど兎に角仲が悪かった。そんな奴が私の後ろの席だと!?気に入らん!誰かに変えてもらおう!そう思った瞬間だった。
「なぁ、仲野。席変えてくれよ」
「えっ、何でだよ。一番後ろの端とか良い席じゃん」
「席は良いんだけど前の奴が嫌だからな」
と聞き捨てならない台詞が聞こえてきた。自分もしようとしたこととはいえ他人にされると何てムカつく行為なんだ!やはり不二裕太、許せん。
「待って!不二くん、仲良くしようじゃないか」
「何言ってんだ、お前だって変えてもらおうとしてただろ」
「バ、バレてる……」
「変えられるくらいなら俺が変えるぜ」
「余計ムカつく……」
そんなプチ言い合いをしている時だった。先生から恐ろしい言葉が発せられたんだ。
「おい、お前ら。席を変えるのは許さないぞ。どうしても変えたいなら教卓の隣に来い」
ハハハと愉快そうに笑う担任。いやいや、何も面白くないです。寧ろ不愉快だ。不二もポカーンとしてしまっている。一体私はいつまでコイツの前で居れば良いんだろう……。
***
2時間目、数学の授業中。首もとに何か気配を感じた。そのまま背中に何か違和感が移った。こ、これは……不二め!襟から制服の中に何かを入れやがったな……。何か温いし気持ち悪い……。早く取りたいが授業中なので制服を脱ぐわけにもいかない。授業はまだ始まって20分しか経っていなく私はこのまま後30分も堪えないといけないのか……。ただでさえ今日は暑いのに……くそぅ……。
背中にある違和感を何とか授業に集中することにより暫くは回避出来たようだが、どんどんその違和感は熱さに変わっていく。違和感のある辺りがとてつもなく熱い。いや、本当に熱い。これは冗談ではすまないぞ……。何とか背中にぴったりとくっつかないように反らしてみたりと身体をうねらしていると先生に「こら、苗字!授業中に暴れるんじゃない!お前はいつまで小学生気分なんだ」と怒られてしまい、皆から笑われてしまった。もう!これも何もかも不二のせいなのに!それにしても背中が熱い……あとどれだけ耐えれば良いんだ、と時計を見ると授業は残り2分となっていた。は、はやく!と焦り時計を見ると2分とはここまで長いものなのか……。全然秒針が進まない!熱い熱い!早くとりたい!残り1分だ……。私は机の下で足をパタパタさせながら時計のみを見ていた。ノートは後で美代ちゃんに見せてもらおう。30秒。先生がチョークを置き、荷物を片付け授業を終わる準備を進めている。15秒。チャイムさえなればもういつでも終われる状態なのに、この15秒が長すぎる。10、9、8、7、6、5、4、3、2、1。キーンコーンカーンコーンとチャイムがなり日直が号令をかける。生徒一同有り難う御座いました、と先生へ言う。その「た」が言い終わるタイミングと同時に私はトイレへ走り出した。今なら私は日本記録を更新できる気がする。
トイレの個室に駆け込み急いでブラウスを脱ぐと何とこんな真夏にカイロが私の制服の中に侵入していた。もう意味が分からん。いくら嫌がらせとはいえわざわざ夏にカイロを用意するなんて手が込みすぎている。……よかろう、ならば戦争だ。私も仕返してやる……!
\背中に気を付けろ/
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