君が泣くための庭 「あのさ」 「ん?」 「手塚君に」 「うん」 「不二が好きなのか、って聞かれた」 「そっか……」 「勿論違うって答えたけど、あれは多分好きだと思ってる」 「手塚がそんな話題を振るんだし、そうだろうね」 勿論が付くんだ、とは思ったけど顔に出さなかった。誰よりも君の理解者で居たい。その為には邪魔な想いだろう。君は何でもなさそうに、手塚君は鈍感だなぁ、と呟くけれど本当は泣きたいのかも知れない。 「好きかい」 「うん、ずっとね」 「そうだね」 「きっと、此れからもだと思うよ」 「我慢強くないのに意地張っちゃって」 「ふーん、うるさい」 「ねぇ、苗字」 「何」 「愛を語るような無粋な真似したくないんだけど、人って好きな人の為なら本当に何でも出来ると思わない?本当はそんなこと出来ないのに好きな人の前なら頑張ってしまうし、見栄を張ってる訳じゃないけどね。好かれたいからって言うのが全くないこともないけれどただただ尽くしてあげたいと思ってしまうよ」 「急にどうしたの」 今、ふと思ったんだよ。本当はじっと待ってるなんて自分の柄じゃないんだ。出来る事なら奪ってしまいたい。手塚のことを忘れさせてみせる自信もある。それでもやっぱりそんなことをしたくないのは、君が手塚を好きなように、僕が君を好きだから。 「思わないの?」 「思うよ。分からないテニスを勉強しようとしたり、山に登ろうかなとか思い始めたりするくらいにはね」 「うん」 「それでもね……気付かれなきゃ意味がないんだよね……」 「そうかな」 「そうだよ、スタートラインにすら立ててないんだから」 「……」 それは僕も同じだ。きっと僕も君もスタートラインにすら立ってない。でも僕はスタートラインに立つ人間じゃないと思ってるよ。君のサポートに徹しようかな。そんな僕に一つ間違いがあったというなら君を泣かせたくないと思っていたことだろう。笑わない君は初めて僕との会話が途切れた瞬間に涙を流して笑ったんだから。 僕は自分の事を優しいと思った事はない。色々な人から優しいね不二君と言われた事があるけれど裕太はそれを信じられなさそうにしている。かと言って酷い事をしているつもりもないんだけどね。ただ特別誰かに優しく接したかって聞かれると恋愛感情を持ってる苗字にだってないかも知れない。僕はいつでも僕のしたいことをしてる気がする。 するっと苗字の手を引いた。酷く驚いた顔をしたけれど突然の事に何も反抗しなかった。僕はそのまま苗字を抱きしめて微笑んだ。 「今日は思い切り泣けば良いよ」 「……」 「大丈夫、僕しか見てないから。明日はまた手塚の前で笑えるようにね」 「……んっ……うっ……」 僕の知ってる君の泣き顔を手塚が知らないように、手塚の知ってる君の笑顔を僕は知らない。もう今はそれで良いと思えたんだ。 [戻る] ×
|