なにをするでもなく眠っただけの日 「んー……」 少しうとうとしていたようだ。ベッドの上に来た覚えはないので、眠ってしまってから運んでくれたんだろう。恐らく私を運んでくれたであろう幼馴染みはベッドの上には行かずにベッドを背もたれのようにして眠っていた。私がベッドの上を占領していたから遠慮したのだろうか。 「岳人」 好きな名前を呟いてみた。いつもは幼馴染みとして向日と呼んでいるが寝ているなら構わないだろうと昔のように名前を呼ぶ。彼には不釣り合いな名前だと思うこともあった。岳人というよりがっくんだ。 「ん、……苗字」 何故男女は成長すると名前から苗字へ呼び方を変えてしまうのだろう。たまに耳に入る宍戸や芥川の岳人呼びに、むっと眉を歪めてしまう。学校で話すと茶化されてしまう、と互いの家でくらいしか会わなくなってしまってからというもの私は岳人が少し他人に見えてしまう。寂しいものだ。 突然、ゴツッと大き音がして岳人の方を見れば「いって」と額を擦っていた。どうやら寝返りに失敗して額を床にぶつけたらしい。ふふ、と笑っていれば、お前起きてたのかよ……いってぇー、と此方を睨む。 「起きてたよ、私と夢の中で会ったの?」 「はっ?何言ってんだよお前」 随分慌てたように立ち上がり頭をかきむしる。あー、折角の綺麗な髪の毛がくしゃくしゃになってしまう。やめなよ、と言わんばかりに、ごめんね、と謝って手招きした。岳人は私が何を意図したのか分かったようでベッドに腰を下ろした。私は膝を立てて彼の髪を手櫛で整える。 「うーん、それにしても綺麗な髪の毛だ」 「ふん!だろ!」 「うんうん、私がハゲたら将来は岳人の髪の毛でカツラを作ってもらおう」 「嫌な想像すんなよ……」 露骨に嫌そうな顔をした岳人の手を握る。顔がコロッと驚いた顔に変わる。百面相か。そのまま横になると岳人の腕の長さが足りず彼も引っ張られて倒れてしまった。 「おい……」 「枕、良い匂いするね」 岳人の枕はいつもの汗臭そうな岳人とは反して良い匂いが香る。シャンプーの匂いだろうか。また少し眠たくなった。岳人は私が手を離さないことに観念したのか手は繋いだまま背を向けて隣で横になっている。どうして彼はこんなにも壁を作ってしまうのか。 「岳人、寂しいよ……ちょっとくらいさ、こっち向いて……」 「……」 あー、ダメだ眠い。岳人には無視されるし、悲しいぜ……。諦めて手を離すと岳人が動いた気がした。あっ、何か暗いし息苦しい。 「……このタイミングで寝るとかマジかよ……」 くそくそ、と呟いた岳人を私は知らなかった。 企画へ提出 [BACK] ×
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