短編 | ナノ



冷えた太もも

※死ねた


侑士と出会ったのは二年前のこの道だった。今みたいに寒い冬の日。えらく胡散臭そうな眼鏡を掛けているなと見ていれば目があった。それから毎日登校時に話すようになり、いつしか私達は男女の仲になった。

「おはようさん」

私達は学校が違うから学校の行きと帰りしか会えない。それでも私達は満足だった。お互いに初めて本当の恋を知った大切な相手だったから会える時間があるだけで幸せを感じたんだ。

「今日は部活?」
「せやな、今日は遅なるから先帰ってもええで」
「ううん、待つよ」
「堪忍ね。タイツも履いてへんのに足冷えるで」
「タイツ、履こうと思ったんだけど侑士が悲しむからやめた」
「人をエロ親父みたいに言わんといてくれるか」

事実じゃん、と呟けば怒った振りをする侑士が居て、そんな毎日が私も侑士も幸せだった。そして、それがずっと続くと信じていた。
氷帝と私の学校と駅の丁度真ん中にあるスクランブル交差点で私達はいつもの如く別れた。またね、と声を掛けて。

***

学校に着くとスカートを膝下に下げる。侑士といる間だけ、私は足が好きな侑士のために(というより綺麗な足やなと侑士に言ってもらうために)スカートを太ももが見えるくらいにあげる。冬場は寒いので中々辛いが愛情だ。
放課後になっても侑士の部活は続くから教室で友達と駄弁るのが日課になってしまった。

「ユウシくんとはどうなのよ」
「どうって?幸せだよ」
「いいなぁ、彼氏持ちは」
「もう少しで出会って二年になるな」
「高校から氷帝に行けば良いのに」
「私立だよ、学費高いじゃん。それに侑士も高校、氷帝行くか分からないしね」
「へー、なら一緒の高校に行けたら良いね」
「まあね。あ、そろそろ時間だ。行かなきゃ」
「良いなぁ、彼氏。私は一人で帰るのか……」
「ごめん、今度アイス奢るからさ」
「二個ね」
「はいはい」

いつも何だかんだで付き合ってくれる親友が居て、今から侑士と会えて、私はそんな毎日が凄く幸せで。それ以上は何も望んでいなかった。別に侑士と同じ学校に行きたいなんて思ってなかった。なのに、どうして私から取り上げるんだろう。

***

待ち合わせ場所に侑士は居なかった。携帯を確認すると確かにいつもより早かったかも知れない。思い出したかのようにスカートを上げた。侑士に会うんだから上げなきゃ。太ももが寒い。
何をするでもなくボーッと待っていると雪がちらついた。そういえば初めて侑士と会ったときも初雪の日で私は何か運命を感じたものだ。胸を騒がせる音がした。顔を向けると救急車が走っていて、その暫く後にパトカーも走っていた。何だか世の中も物騒になったものだ。昔、ここら辺で通り魔が出没した時、侑士は部活を休んで暗くなる前に私と二人で帰ってくれた。聞くところによるとアトベくんに怒られたらしい。くす、と思い出し笑いをした。
携帯を開けた。表示されてる時間は19:38。冬場は安全面を考えて遅く見積もっても18時半には終わると聞いていた。もしかすると私に嘘をついて居たのかも知れない。氷帝は練習が割りと自由だと聞くから、勝手に早く切り上げてたのだろうか。侑士から聞けばずっと寝ている子もいるそうで、なきにしもあらずだな。
ボーッと町を眺める。何もないように歩くサラリーマンや疲れた顔をしたOL、部活帰りの学生。沢山の人たちが何故か小さく見えた。寒い、そう呟いたのが20時丁度。



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