あの子みたいに帰っておいで ※悲恋? 「何で分かってくれねぇんだよ!」 突然に立ち上がったからか、それまで彼が座っていた椅子がグラッと傾く。あっ、と手を伸ばしたが急すぎた彼の動きに私の反射が勝つわけもなく、虚しく大きな音を立てて倒れた。ギャンギャンと犬の様に喚く赤目の子供を最初は怖いと思っていた私も今ではすっかり慣れた。やっぱり結局こうなるだろう、と予測を立てて彼を家に連れてきていて良かっただろう。仮にどこかの店に入っていたとして、ここまで騒がれたなら出禁にでもなってしまうだろう。 最近の私達は、というと喧嘩ばかりしている。言い合いになっている訳ではないので喧嘩という表現は適切じゃないだろう。どちらかといえば赤也がひたすら叫んでいる。それを私が諭すだけ。 「あのね、落ち着いてよ。話も出来ないでしょ」 「落ち着いてるって」 どこがだ、と言いたくなるのを鼻で溜め息をつき堪えて淡々と続ける。彼を落ち着かすために水の入ったグラスを手渡す。するとそれが効いたのか、彼は受け取ったグラスを一旦机の上にそっと置き反動で倒れていたままだった椅子を起こす。 「自分がいけないことしてるって自覚ある?」 「……何がだよ」 椅子に座り直して水をちびちび飲み始める赤也に心中を明かす。 「真剣だって理解しろなんて無理でしょ」 気に触ったのか赤也はグラスを割れそうなほど握りしめた。 私と赤也は家が隣同士の幼馴染みだ。数ヶ月前に赤也から告白された私は、14歳の癖にませてるなぁ、と暢気に考えていた。そんな私は現在25歳で、彼のように自分の感情だけで突き進めるほどの無邪気さも至りもない。だからずっと断り続けている。なのに彼はずっと告白し続けている。いつまでも終わらない。堂々巡りとはこのことだろう。 「信じてねぇんだろ」 搾り出すように声を出した赤也に先ほどまでの勢いはなかった。それよりは寧ろ絶望感を感じさせるような、私の同情心を煽る様な声色だ。別に赤也がそれを意図的にしているとは思っていない。寧ろそんな考えも一切しないタイプである。私がただ彼に同情しかけているだけだ。そしてそれは同時に私の決心を揺らがせる。 「信じてほしいの?」 驚きから声にならない声を発し、パッチリを開いた目で私を見つめる。3秒ほど経っただろうか、赤也が静かに頷いた。 ユラユラした私が彼に放った言葉は彼を私の元に縛り付けるただの足枷となるのか、それとも彼の決意への猶予となるのか、生憎私には分からなかった。仮に前者だとしたならば、それはそれで分かりたくもないので今のままでも構わないだろうか。 「燕は毎年来るんだよ」 企画へ提出 [BACK] ×
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