悠久の丘で
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カードゲーム

 さらさらと、砂がこぼれるように。
 いつだって時間とともに命は流れていく―――…

 良い気の張り方とは、どんなものだろう。


  *


 にらめっこしていた。
 なんでもない、ただテーブルに円形(というには少しつらい、六角形になっている)に座って、各々が手元を、嫌というほど見ていた。
「…次は?」
 机上に積まれたカードの一番上は、赤い色。次の番は、と促されたクリスは悔しそうに唇を噛んで、無言で黒の山からカードを一枚引いた。
 少し体を楽にするように一度目を閉じ、肩を楽にして、それからもう一度真正面を向いた。彼の手の中のカードは後二枚。中では最も手札が減っている。
「なしだから、次」
 クリスはそれっきり手札の二枚を確認すると小さく眉を上げ、テーブルに伏せた。
 それをレノが何処か恨めしそうな顔で見る。
「…何も含んだところはないよ。後二枚じゃぁ、見なくても分かるしね」
 そんな事を言っても、僅かに彼の頬の端が引きつっているように見えるのは気のせいだろうか? 気のせいでは困るのだ。
 なにしろ、給料がかかっている。

 現在、タークス本部ではカードゲームに興じていた。
 発案者は誰だったかすでに忘れてしまったが、深夜にかけてやるゲームとしてはこれほど趣味の良いものはないだろう。
 最初は和気藹々と行われていた水面下の戦いがここまで、露骨になったのは賭けが組み込まれたからだ。
 矛盾は感じるものの、カードゲームは賭けをしてこそカードゲームなのだと、そう思うことが時折ある。そして同時に、そのカードの回し方で相手に腕があるのか、よく分かる。


 そしておそらく。
 ここはヤバイ。


「…どうした、首が回らなくなったか?」
 中で一番涼しそうな顔をしているのは、ツォンさんだった。というか、彼は基本的にゲームが始まってからは始終、その顔に浮かべているのは笑みだけだった。
 読みにくくてしょうがない。
「まぁ、レノが一番首回らなそうなのは見て分かるよな」
「…レノさん、素直だから、か」
「それはこの場合フォローにならないなー」
 静かだったテーブルが、いっきに騒がしくなった。レノは悔しそうに唇を噛み、だが言い返せずに中でも一番多い手札をイライラと見つめる。
「レノ、お前はすぐに顔に出すから問題なんだ」
 そう言ったのは副社長であるルーファウスで、彼の手の中に手札はない。とっくに上がってしまったのだ。
「副社長はうるさいですよ、と」
「レノ」
 すぐに注意の声が飛んできて肩をすくめる。
 どのみち、今現在最も運に見放されているのはレノなのだ。
 手の中にはばらばらのカード。かなり枚数持っているのだからこれはある意味すごい。唯一そろっているのは数字が同じカードだが、一組しかない。
「…次、レノさんの番だ」
 青灰の色の髪の後輩が言った。彼の手札はあと5枚。それでもやはり、多いほうだった。

 現在出ているカードは緑だった。

「…はいよ、と。次」
 それに同じ数字のカードを何枚も捨て、次にまわす。
「次、だな。ルード」
 ツォンさんは顔色を変えることなくやはり、カードを捨てた。
 移ったルードも、やはり顔色を変えず(いつものことだが)カードを捨てた。
「…クリス」
「あいよ。じゃぁ…」
 クリスは出たカードを確認するとニッと笑って、伏せた手札を2枚とも表へと返して捨てた。
「あーがりっ!」
「おわぁっ、ズルいぞ、と!」
「ずるくないもんねっ! ちゃんとルールに則って上がりましたもんねっ!」
 うわぁーい、と万歳までして。そしてそれからルーファウスの隣に席を移動する。彼は爽やかな笑顔で言った。
「じゃ、後は頑張って!」
 びしっと敬礼までされた。最下位になるのを、おそらくは分かっていて。
「…大体なんでそんなに強いんだよ、と!」
「だって、よくザックスとやってるし」
「…2人で?」
「うんにゃ、セフィロスとかクラウドもいるけど。罰ゲームかかってるから強くなったんだよね」
 ニッと笑ったクリスのカードの腕は確かに、強い。
 今回のはルーファウスが異様に早く、そして良いカードを引いただけで、クリスもかなり早かった。
「レノ、手伝ってあげよっか」
「…遠慮するぞ、と」
「そう? じゃぁ頑張ってね」
 最初からそう答えられることが分かっていたみたいな受け答えで、クリスはルーファウスの隣に座った。恨めしそうに見やれば、にっこり笑って手を振られる始末。
 …あぁ、もうカードなんてやってられねぇ。
 そう思いながらも、ついさきほどクリスが捨てた2枚の同じ数字のカードの上にカードを落とす。後の手札は全部ばらばら。
 っていうか、随分と英字カードが多い。特殊カードテイストだったが、それらを最後にしては上がれないので、早めに使い切っておかなければ成らない。
 数字のカードはあと3枚。
 どれも色が異なって、数字も異なる。
「はい、中飛ばして次だぞっと」
 ツォンさんは何も言わなかった。
 まぁ、手持ちのカードの枚数は多くない。ルードもパサリ、とカードを落とす。
 青灰色の後輩に回って、色が変えられた。
「…で、クリスが抜けたから俺、と」
 逆回し。
「次、ルードさん」
 番が回ってくるたびに他の奴ら含め、カードが減っていく。このままいけば確実に危ない。多少、背筋に冷や汗を感じた。


  *


「ねぇ、ルーファウス」
「何だ?」
「カード終わった後どうする?」
 飯、まだだよね。
 続く言葉に、ルーファウスはふむ、と唸った。
 そういえばカードでバカをやる社員たちを見て笑っていたが、まだ夕飯すら取っていない状況だった。
 机の上には捨てられたカードの山と、酒。および、グラス。
 未成年であるルーファウスやクリスの腹にはおおよそ、何も入っていないと見て正しい。
「何か頼むか?」
「いや、食材、あるなら俺が作るけど…」
「クリスが?」
 声を少し高くして聞いてから、想像した。
 確かクリスはザックスと同居していたはずだった。外で食う可能性もあるが、クリスの性格上、大半は手作りだろう。ふむ。
「食材はあるのか?」
「だから、あったら、って言ったんじゃん」
「確認して来い」
 そう言ったらクリスが腰を浮かせた。その顔を見上げてやるとなにやら嬉しそうな顔をしている。
「…イエッサー」
「僕が、クリスの手料理が食いたかっただけだ。気にするな」
 顔が熱かった。耳は赤いだろうか?
「ルーファウスは不器用なんだよな」
 立ち上がって、軽く体の筋を伸ばしていたクリスが言った。足を動かさずに腕をまわして、体をひねる。
「…そう言うわけじゃないさ」
「へぇー、じゃぁそういう事にしておいてあげる」
 クリスはニィ、と唇の端をあげて似合わぬ笑いをすると、どの部屋にも備え付けてある簡易キッチンの方へと移った。


 その間に、カードゲームの行方を知るために身をわずかに乗り出してテーブルの上の山を見る。そして、次に各々の手札を。
「…レノ、随分減ったんだな」
 目を離している間に、最下位候補だったレノの手札が減っていて驚いた。
「当たり前だぞ、と」
「ただたんにあの後大量に引いたら良いカードが多かっただけですよ」
 自信たっぷりに言うレノを無視して、ツォンが真相をあっさりとばらす。
「…てかまた引いたのか、カード。懲りないな」
「懲りるとかそういう問題じゃねぇし」
「…悪いな」
 ツォンの睨みがきく中での口論に水をかけたのは後輩だった。おそるおそるといった風に上げられた手を見て、後輩に目がいった。
「俺、上がりなんだが」
 見れば手札が無く、山の上には3枚の綺麗に数字の揃ったカードが捨てられている。
 レノは射殺すような目で見た後、フン、と機嫌悪そうに鼻を鳴らした後、手元のカードに目線を戻した。
 ルーファウスとツォンは苦笑して、グレンを見る。
「なら、今クリスが飯を作っているはずだ。手伝って来い」
「クリスの飯?」
 ルーファウスは頷いた。そうするとグレンは首を真横に振った。
「それなら、俺が行ったら邪魔になる」
「いや、行け、グレン」
「…ツォンさん」
 あんただって知ってるだろ。 という目で見られた。
 確かに知っているとも。揃えてあったスパイスに感謝したくらいだ。
 だけどいくらクリスとはいえ手は2本しかない。
「もう、出来上がったようだ。うちの課の料理人は」
「…行ってきます」
 苦笑して言えば、グレンは頷いた。レノの機嫌もこれで直るだろう。
 時計を見た。
 もう12時近かった。
 元はといえばたらい回しの様にクリスの寝床を提供していったのだが、文句が来たので、会社に泊り込むことになった。文句を言ったのは、副社長だ。
 『ずるいじゃないか、そんなの』
 子供の我侭のように言った副社長を説き伏せることが出来ずに、泣きに泣かれてこうして泊まる事になった。女性社員はもちろんの事家に帰した。

 やってられない。深夜までカードゲームなんて。
 それでも夜食が美味ければ、やる気もおきるってものだ。


  *


 飯を食った。美味かった。
 バカみたいに夜の社内にはしゃいで、意識が落ちかけて、無理やり叩き起こされてシャワーを浴びて、雑魚寝同然で寝た。

 大きな塊がひとつ。
 さし伸ばされた手を、指をすり抜けて落ちて割れた。
 壊れた欠片は、飛び散って、元になんて戻りそうになかった。

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