悠久の丘で
 top about main link  index

Menu>>>name / トリコ /APH /other /stale /Odai:L/Odai:S /project /
  MainTop

笑っていて

さらさらと、砂がこぼれるように。
いつだって時間とともに命は流れていく―――…

後ろに珍しい毛色を乗せて、走るは我が家へ。


  *


薄暗くなってそろそろ治安が悪くなってくるミッドガル。
そういう風に言うと昼間なら良さそうに聞こえるがそうでもないな、と1人ごちた。
エレベーターに乗り込んで、1階まで降りる。
本部が結構高い位置にあるから、エレベーターに乗っている時間も比較的長い。まぁ、一般社員の目に触れられては困るような事ばかりしている部署なんだから、高い位置、―― 一定以上の資格がないと立ち入り禁止のエリア ――にあるのは仕方がないことなのだろう。
…ただ、遅刻すれすれの時間帯に出社したときはイラつく、が。
「…それにしても」
「うん?」
最低限の荷物が入っている鞄を何故か胸に抱き、外の景色を見ていたクリスが呟いた。
俺はといえば、荷物なんて持ってこないから手ぶらに近い状態である。…まぁ最低限武器は持っているのだが、そんなもの、荷物のうちには入らないだろう。
だいたいバイクに乗っているときの邪魔になる…から、あまり好んで荷物を持ち歩かないようになったのだが。
「レノ、カームなんだ…?」
「…なんか随分と残念そうだな、と」
「そういうわけじゃないけど」
「嘘だね。で? どうしてそんなに残念そうなんだ?」
エレベーターの内部からは本当に良く、外が見える。
昼間なら、天気にもよるのだがミッドガルの外の、自然や海が。
夜なら、ミッドガル中を明るく照らすネオンが。
それに始終プレートを支える背の高い柱が見える。
うちの会社にはミッドガルの模型があるが、よくもこんなに緻密に都市を建てたものだ。
しかも、本来あるべき地面から浮かした位置に。
そういう時、本当にリーブ部長を尊敬しそうになる。
唯一と言っても良いだろう、この都市を、この世界を考えて会社に勤める人。

「…だって、カームっていったらチョコボファームの近くだろ?うらやましいな、って」
「…はい?」

聞こえた声に、頭が反応して内容を納得して、でも、聞きなおした。
そうしたらクリスは紅くなった顔で振り向き、力説した。
「だって! チョコボファームだろ? 小さい時湿原を抜けるのに…って、父さんが飛空挺のチケット失くしたせいなんだけどさ」
思い出したのか苦い顔をして肩をすくめた。紅い顔から熱でも奪うようにぺたぺたと顔を触って、でも眼は輝かせて。
「それで、湿原を抜ける時にチョコボを借りたんだよ。まぁ、無事に抜けて洞窟通ってジュノンに行ったんだけど?
黄色のチョコボが可愛かったなぁー。だから、羨ましいの。
ザックスにカームかチョコボファームの近くがいい、なんて言えなかったからさ? あそこに住ませてもらってる訳だし、それがなかったら家なし子だし、俺」
…っと、これはまた。
ぺち、と顔を手で隠した。
「…ずいぶんと子どもらしい一面もあったんだな、と」
「へ? 子どもらしいって…、確かに嫌味な子ども時代…の、引き続きみたいな感じだけど」
「いや、変にすれた意味じゃなくて、さ。ちゃんと誰でも一度は通ってくるような可愛らしい子ども時代を送ってきたんだな」
ちょっとは安心した。
そんな事をちょっと思って、にへら、と笑ってしまった。
「…レノ、変」
「変て、失礼な奴だな。俺は別に変じゃないぞ、と」
「いや、変だって。だって今自分がどんな風に笑ったか分かってないだろ?にへらだぜ、にへら。熱でもある?」
「…本当に熱も何もないぞ、と。ほら、そんな失礼な事言ってないでさっさと降りる。もう、1階だ」
ちーん、と控えめに1階に着いた事を知らせる音が鳴る。急降下していたエレベーターが止まり、ドアが開いて、見慣れたエントランスホールに追い出すようにして出て、手を引いた。
「レノ?」
「…どうせ迷うんだろ? だったら最初から手でも引いてたほうが俺の負担が少なくなっていいだろうが。それにクリス」
振り返って、確認するように目線を下げて合わせる。
「お前、自分で朝、バイク乗ってこないだろ」
「…うっ」
「やっぱりな、と。ったく、どうやって此処まできてるんだよ」
手を引いて歩き出しながら呆れたように問うと、クリスの小さな声が聞こえた。
「…いつもはザックスに乗せてもらうし、この間はグレンの後ろに乗せてもらって、ツォンは車だった」
「…あぁ、俺ら命かかってる分高給取りだからな、と」
「そう…だね、俺もザックスと同じくらいは貰ってるし」
なんかそう考えると、ソルジャーも可愛そうだな…。まぁ、滅多に大きな事件なんか起きないし、起きたとしても大概事後処理係のタークスと一緒だからか。
うん、可愛そうだ。
「バイク、後ろ乗れるよな?」
「もちろん、毎朝ザックスの後ろにお邪魔させてもらってるから」
「ならOKだぞ、と」
キーを取り出して指の周りを器用に回す。宙にとんだそのキーをキャッチして、いったんクリスの手を放した。
「ほら、ここでちょっと待ってろよ」
「リョーカイ、早くしてね」
「…」
「何でそこで黙る」
「いや…」
あんまりにも待ってることに慣れてしまっている風で驚いただけだ。
「なんでもないぞ、っと。じゃぁ行ってくる」
「…もう、なんか変だなー、今日のレノ」
「だぁーら、変じゃないって」


人の顔を見てまだ呟いているクリスに手を振って愛車の元へ歩く。
ぽん、とシートを叩いたら、なんとなくジルを思い出した。
「あいつはバイク好きだからな。てかそれ盗みにここに来るっつーのも、何ていうか…」
苦笑しか浮かばない。
そういえばあの時まだタークスじゃなかったあいつの相手をしたのは俺だったんだよな、とちょっと懐かしいものを思い出して、笑ってしまった。
素人なんだか玄人なんだか良く分からないような微妙なライン。
でも、喧嘩慣れしていたから闘うのは楽しかった。まぁ結局は荒事への経験の差と、実力の差で勝利したわけなんだが。
あの時はまさかあいつがタークスに入ってくるなんて思ってなかった。
後輩が増える事も。
なんだか忙しい日々が始まったんだよなー…なんて、思う。

「…っと、クリスが待ってるんだよな、と」
一旦考えていた事をすべて頭から追い出し、バイクに跨る。朝乗ってきたはずなのに、何でか懐かしかった。
いつもなら定時で飛び出すように本部から去るのだから、こんな時間まで残っていることはめったに無い。…まぁ、ツォンさんに追いかけられたりするんだが。
少々うるさい音をさせエンジンを奮い立たせ、苦笑した。


「あ、レノ」
クリスの声が聞こえて、バイクを止める。
「待たせて悪かったな」
「いや?ぜんぜん待ってないし、大丈夫」
「そうか、それは良かったぞ、と」
クリスが、何を言うでもなくいきなり自分の髪に手をやった。そして、髪留めで中途半端な髪を上へと上げる。
それが終わるのを待ってから、口を開いた。
「後ろへどうぞ、お坊ちゃま」
「…ふふん、そんな使い古された事言われたってどうとも思わないぞ」
「ったく、ちょっとは素直になれって」
「やーだね。素直じゃないのが俺の売りなんだ」
俺なんかよりずっとずっと素直なくせに。
「…あぁ、そうかよ。どうでもいいけどさっさと乗れ。店が閉まる」
思いはしたが口には出さず、早く、と促してゴーグルを下ろした。
押さえられていた前髪がはらりとゴーグル越しに目にかかった。
紅い紅い、髪。
「はいはい、了解しましたっと。乗ったぞ」
背中に体温を感じた。
走り出そう…として止まった。
「…お前、どうやって乗ってるんだ?」
「普通に背中合わせですが何か」
「…ザックスになんか言われなかったか?」
「んー…、危ないって?」
「良く分かってるじゃないか」
呆れて、そのままの体勢で体をひねる。
「えー…、だって俺上手いよ?この乗り方」
全く答えになってないのを知っているのか知らないのか良く分からなかったが、クリスはそのまま自信たっぷりに笑って見せた。
「……落ちるなよ」
「大丈夫!落ちても怪我するようなヘマはしないさ」
そう返されてしまえば、もうなんか聞く気にもなれなかった。
前を向いて、ゴーグルの位置を確認した。
店はまだやってるだろうか。


  *


クリスは、本人で言っていた様にバイクに背中合わせで乗っていても落ちるようなヘマは全くしなかった。
何とも器用である。
「…着いたぞ、と」
ゴーグルを上げ、髪をそれで押さえ、後ろを見た。
そしてもう1度驚愕する。
「…クリス、まさか、寝てないよな?」
後ろを向いたとき彼は頭を低く垂れ、微動にもしなかった。
不安になって、少し揺り動かす。そこまでして、ようやくクリスは顔をあげ、目を開けた。
「…何? あぁ…、着いたのか」
風のせいで形が崩れた髪を、手ぐしで軽く揃えバイクから降りる。
「…クリスさん?」
「何」
「もしかして、寝てたのか?」
「…寝てないよ」
「目が泳いでるぞ、と」
クリスはつい、と顔をそらした。その目をあえて追おうとせずに、顔を店で明かりがともる町のほうへ向けて、言った。
「何でもいいけど、食材買うなら今のうちだぞ? もう少しすれば閉まっちまうからな」
「それは困る。…ったく、インスタントなんかに頼ってるからだろー? だいたい何食いたいんだよ」
「んー…、何でもいいぞ、と」
「なんだよ、それ…」
クリスが眉を寄せて、唇を尖らせた。
「そう言われると、作りづらいんだって。…じゃぁ、嫌いなものは?」
「ないぞ。好き嫌いはないのが自慢だからな」
ちょっと胸を張って言ったら、少し驚いたように目を一瞬だけ見開いて、ニッと笑った。
手をつかまれて、町の方へと歩き出したクリスに引っ張られる。
「…どうしたんだ? いきなり」
「へへへっ、料理作る方としては、好き嫌いないってのは嬉しいからな。だからちょっと見直した」
「…つまり見直す分だけ、呆れられてたんだな…、と」
「うん、そういう事になるね」
さらっと言わないでもいいのに、なんて、ちょっと乙女チックに胸がズキンと鳴る音が聞こえたりする。足が止まりかけた。
あーあ、本当に痛い。
「…どこか痛い? 顔が辛そうだぞ。最初にレノの家に行って休んでる?」
「大丈夫だぞ、と」
まさか、お前のせいだ。なんて言えない。
「でも…」
「本当に。腹が減ったからな、作ってくれるんだろ?」
そう言ったら、やっと笑った。なんだか今までの笑みには無理をした所が感じられたが、それもようやくなくなった。

「もちろん」


  *


笑って欲しい。
そう思うことは罪ではないはずだ。

<<< 






第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -