悠久の丘で
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家出4日目

さらさらと、砂がこぼれるように。
いつだって時間とともに命は流れていく―――…

もう、ジルからの連絡でセフィロス率いるセフィロス隊がニブルヘイムに向かって4日目だ。


  *


かちゃり、と小さな音をさせてドアを開けた。
もう、とっくのとうにお日さんは沈んで、ミッドガル全体に淡い白系統の光を放つ街灯が暗闇に浮かび上がる。
ブラインドが降りている窓に近寄って隙間から外を覗けば、仕事をしている人間がいるのにもかかわらず暢気にデートの相手と待ち合わせして、そわそわしている男が見えた。

この野郎、こっちの気も知らねぇで。

八つ当たりだ。
そうわかっていても、なんとなく狙撃したくなる。
最も俺はあまり射撃の腕は秀でていない。そんなこと承知の上だ。
窓の方を見ながら、それでいて窓に映るタークス本部を見る。
もう定時も過ぎた。
日により偏るが、今日はあまり残っていない。
残っているのはなにやら最近(さらに)力を入れて書類を整理しているクリスくらいのものだ。
ツォンさんはもう副社長の所にでも行ってしまったのだろうし、そもそも任務で出ている同僚が多少。
綺麗な顔立ちの青灰色の髪の後輩はすでに帰った。
そういや昨日今日と、随分眠たそうな顔してたな、と。
珍しく目の下にやや現れた熊を控えめに指差して聞いたら、「寝たら何が起こるか分からない状況に陥れられたんだ」と、答えられた。
何の事だかさっぱり、である。

「クリス、もういい加減帰らねぇか?」
「…うん、いいぞ?レノは先に帰ってて」
何度目かのやり取りに肩が落ちる。
「そんな事いっても、なぁ…。いくらなんでもそんなに仕事してる後輩を置いてくほど冷たくないっての」
窓から視線を引き剥がして部屋の中を見る。手の届く範囲にあった、今もう冷めてしまった紅茶で満たされたカップを傾けると、とりあえず乾いた喉が潤った。
「問題ねぇよ?ちゃんと…鍵とかは締めておくし」
「そういう問題じゃねぇんだぞ、と」
先ほどからずっと手が止まらない。
インク壷にせわしなく向かう手にはペンが握られていて、今時珍しいような紙の書類にサインを綴る。
基本的に大方はパソコン処理になっているのに。
それなのに、どんな酔狂か、時折こういった紙の書類も回ってくる。
ツォンさんと逢引してるんであろう副社長に文句の1つも言いたくなる。

少しはこの真面目さを見習えってんだ。

隙あらば書類へのサインを渋る。
彼自身もあの歳であれだけの膨大な量の書類に目を通さなければならないのには同情もするが、人を好んで巻き込む事もないだろうに。
「だってさ、レノ、そうしたら日付が変わるまで此処にいることになるぞ?」
「…いつまでいるつもりだ、お前は」
流石に呆れて、手を止めて、眉をひそめた。

「いくら冷暖房完備だからって、いくら会社内にシャワー施設があるからって、それはいくらなんでも無理だろうよ」
「いや…、家に、帰るつもりがないから」
「…は?」
「だから。家に帰りたくないんだ」

相手の手もいつの間にか止まっていた。
インクがペン先についているから、それを布で拭って、ペンを置く。
ソルジャーのものとは違った色合いの蒼が、じっと俺を映し出した。
紅い髪が変に長い。結べるまでにはもうちょっと時間がかかりそうなくらい。
「ほら、ザックスがいないから。
家に帰っても1人なんだって思い知らされたから、ザックスが帰ってくるまであの家には帰りたくないんだよ」
ちょっとばかし隠し切れずに浮かんだ揺れる瞳が如実に物語る。
「じゃぁ…、あいつが行ってから何処にいたんだ?」
なんだか悲しい。
胸の奥にでも何かが入り込んだんだろうか。
ギュッと、締め付けられて痛い。

あぁ、やべぇ。このまま目ぇ開いてたら涙でてきちゃいそうだぞ、と。
もっとも、閉じたって涙出そうなんだから世話ねぇ。

「…レノ。大丈夫か?なんか痛そうな顔してる」
「大丈夫だぞ、と。だから…何処に」
いたんだ。
そこまで言う前に、クリスが早口で答えた。
勘の良い彼の事だから、わかっていたのではないだろうか。
これ以上、そんな悲しいことを言われたら、柄にもなく似合わないくらいに涙をこぼしてしまう事に。
「えっと、ザックスが行った日は家に帰ってから神羅に戻ってきて、寝泊りしただろ?
で、次の日は最初から此処に寝泊りしようと思ってたんだけど、見かねたグレンが泊めてくれて、昨日は同じような状況でツォンが泊めてくれた」
グレン。
2丁の拳銃を操る、美貌の青灰色の髪…と、社内で噂されてるとかされてないとか。
その真実は良く分からない。
どうも、この社内においてタークスは美形の集団らしいが、中に入ってしまえばそんなものは良く分からなくなってしまうものだ。
だいたい元から遊びの女に事欠くことなんかなかったし、いままで自覚する必要も何もなかったのだし。
それに今はその顔の造形すらも意味がないものにしかなり得ない。
顔の造形なんかで相手が落ちてくれるんだったら、彼は、とっくに英雄にでも落ちているだろう。それに、この部署にいる限り選び放題だ。
「…だから、『寝たら何が起こるか分からない状況に陥れられた』、ね。まぁそういう事にもなるだろうな、可愛そうに」
「…はぁ?俺の方見て何の話?」
「何でも…、ないかな。大人の男の話だぞ、と」
「…へぇ。確かに俺は10と半分しか歳とってないしな」
クリスの眉が片方上がって、挑戦的に見られる。だがそれから逃れるように視線を逸らして窓に寄りかからせた体を少し、動かした。

武器はない。
今日は朝から中の仕事だから、今は持っていない。

「そうそう、俺が年寄りだって話だぞ、と」
Yシャツのボタンは開けっ放し。黒のジャケットの前も開いて、首元に回るはずのネクタイもない。
髪が首元をくすぐった。
「…あっそ」
「なぁ、クリス」
逃した視線をもう1度絡めた。真っ直ぐに前から見つめて、今度は逃がさない。逃げない。

「今日泊めてやるから帰らないか?」


   *


そういえば、家に他人を上げるなんてどれくらいぶりなんだろう?
本部を閉めるために、ツォンさんが戻ってくるかもしれないから一応携帯に連絡を入れたら切られた。
無言でクリスを見たら、にっこり笑って、自らの携帯を取り出して誰かにかけ始めた。
「…誰にかけてるんだ?」
「ルーファウス」
「…おっと。俺だってそこまでしないぞ、と」
目を見開いて隣を見れば、ニィ、とクリスが笑った。
「そんなの知らないなー。だって、今はプライベート時間だし」
副社長はさぞかし怒っていることだろう。
「…あ、ルーファウス?遅かったね、電話出るの。
これがもし急用で人の生死に関係することだったらどうするつもりだったのかな?…え、さっさと言え?そこにツォン、いるだろ?ちょっと代わって。いいから、代わりなさい。
あ、ツォン?俺、今日はレノと一緒に帰るから、もし本部使わないんだったら鍵閉めちゃいたいんだけど。…ん?まだこっちに戻ってくる?分かった。じゃぁ、いつのもの所にでも鍵、おいておくわ。うん、じゃぁね。おやすみなさい」
隣で電話をする相手の顔をうかがいつつ、胸ポケットから煙草を取り出し咥えて、火をつける。
副社長は相応怒るだろう。

だからさっき電話出ればよかったのに。
さっき電話したのは俺だったからそれほど突っ込んで聞きもしなかっただろうに。

出なかったからだ。それで諦めてくれれば幸い。
そんなことでは諦めてくれないだろうが、どうせクリスからの電話をでたんだ。自分の責任だろう。
「じゃ、行こっか?なんかツォン戻ってくるらしいから鍵、いつもの所に置いておけばいいってさ」
「ほう…、やっぱり副社長怒ってたか?、と」
「うん?ルーファウスのせいだし…、問題ないんじゃない?」
「…アバウトだなぁ」
「気にしてないから、だって気にしたってしょうがないじゃんか。ルーファウスが副社長らしくしてないってのもあるだろうけど、俺も俺だしね」
小さく肩をすくめ鍵を指に通してクルクル回していたが、それを抜き取り、いつもの、ドアから入ってすぐの辺りに置く。そして踵で器用に回り、振り向いた。
「じゃ、行こ?別に、此処に泊まるつもりなんだったら俺も書類片付いていいんだけど」
「いーや行くぞ、と。そんな事やってたら体に悪いって、わかるだろ?」
付けたばかりのタバコの火を消し、吸殻を捨ててから、歩き出す。ちょっともったいない気もしたが仕方あるまい。
社内での歩きタバコは禁止されてしまっている。
「分かるんだけどねー、無理そう。…あ、泊めてくれるお礼に料理くらい作るぞ。家に食材ある?」
「…普通の独身男の家には食材なんてインスタントくらいしかねぇもんだ。期待なんかしないほうがいいな」
「それは体に悪いや、俺の比じゃないね。それに、ツォンの家にもグレンの家にも最低限の食材はあったぞ?…いや、ツォンの所にはスパイスから何まで沢山そろってたけどさ」
その言葉に俺は少なからず衝撃を受けた。
…ツォンさんはともかく、グレンのところにまで…。あいつ、意外と料理なんかする性質だったんだな。
料理、まで頭が飛んだところで、どうしても料理のイメージがエプロンになってしまって、吐き気を催した。
思わずいろんなものが出そうになり、口元を手で押さえる。
「…レノ、何やってるんだ?」
「いや、ちょっと…。ちょっとフリフリエプロンの逆襲が…」
「意味分かんねぇよ」
「…こっちの話だぞ、と」
とりあえず、グレンのフリフリエプロンは想像上とっても怖いものになった。…実際はどうか分からないし、エプロンは付けなのかもしれない。
…ギャルソンだったら、合うかな。うん。
「…で、生の食材はどれくらいあるんだ?」
呆れた様に半眼になっていたクリスだったが気を取り直したのか、質問を投げかけてきた。家にある冷蔵庫の中身を頭に思い浮かべて、顎に手をやり、目を閉じる。
何でも人間ってのは考えるとき、目がどっちかに動くらしい、と誰かが言っていた。
「…覚えてないぞ、と。俺はそんなに料理しないから1人で食べるんだったらインスタントで十分だし、誰かと食うんだったら外に行くからな」

「この駄目男」

答えたら速攻で言われた。流石に俺でもショックだって。
「…じゃぁ帰りがけにでも食糧を買い込みまして。鍋くらいはあるよな?」
「それくらいは、勿論」
最低限の食生活はしているつもりだ。
器具も日の目に出ることはなくても、大概揃っている。
そういや一時期料理にはまっていたな。
古い、いらないことまでくっついて思い出した。
「…で、さ」
隣を歩くクリスの足が不意に止まって、銀の髪が揺れて、見上げられた。

「すごい今さらなんだけどさ、レノの家ってどこにあるんだ?」
そういわれて思い出した。クリスは家に来たことがなかったんだ。いや、実際に来たことがあるのは相棒であるルードくらいなものだけど。
「そういや、言ってなかったな。場所はミッドガルに近くて比較的治安も安定した好物件」
クリスの目が何かを考えるように細くなって上のほうを向いた。

「家はカームだぞ、と」


  *


いつもやってる事ができれば落ち着けるのか?
ずっとそうだ。
あの日からずっと、笑ってない。

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