悠久の丘で
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いってらっしゃい

さらさらと、砂がこぼれるように。
いつだって時間とともに命は流れていく―――…

真っ暗な家は怖い。だが良く考えればそれは、俺らが帰ってくるのを待っていてくれるのかもしれない。


  *


「クリス、着いたぞ」
どこか気分が優れないのだろうか。いつもなら最低限返事はしてくれるのに、今日はそれすらも無い。
俯き加減のクリスをバイクの後ろから抱き上げて家へと入る。
腕に僅かにかかる体重や、髪から香るシャンプーの匂い、肌を、服を通して伝えられる体温のどれもが、ここにクリスが居る事を伝えてくれる。
柔らかい銀色の髪を指で梳きながら足を進めた。

パチパチッとスイッチを押すと、家中の明かりがともった。
今朝出て行ったままの、綺麗な部屋。
クリスが朝のうちに掃除をしてしまうからなのだが、家主があまり日中に居ない割には小奇麗でさっぱりした印象の部屋。
しかしながら、いたる所に揃えられた2人が暮らす生活の痕がどこか嬉しい。
昼間なら日当たり良好で、白いレースのカーテンが透けるリビング。
そこにおいてあるソファにクリスをとりあえず座らせる。
「クリス?大丈夫か、本当に」
目線を合わせるようにひんやりと冷たいフローリングに両膝を突いて、目にかかる前髪をどけてやる。

ずっと、こうだ。
セフィロスがタークス本部に来て、出動要請を告げた後からだんだんと口数が少なくなり、帰ってくる前、神羅ビルを出る前にはもうこんな感じになっていた。
心配にもなる。
”もし声が出なくなってしまった彼でも、彼と言い切れますか?”なんて、無理難題を吹っかけられてる気分だ。

「クリス…」
何かを必死に考えるようにある一点しか見ていない。
だが、1度も合わせられる事がない俺のものとは違う蒼い目が、急に力を持った。
すぐさま近くに焦点が合わせられ、クリスと目が合う。
「クリス!?」
「…あれ、ザックス?…ここどこ?」
「ここは家、もう時間だったし使い物にならないからって帰ってきたんだ。覚えてないのか?」
「…いや、ごめん。意識、飛んでたみたい…だね」
抱きしめて、でもすぐに体を離しクリスの顔を見ると、困惑したように目がきょろきょろと動いていた。状況確認でもしているんだろう。コクン、と頷けば、クリスの苦笑が目の前に広がる。
「じゃぁ夕飯でも作る…。どうせ明日はザックス、任務で長く帰ってこないでしょ?」
任務の前の日だし、手は抜けないよね。
そういってスーツのジャケットに手をかけソファの上に落として、クリスは立ち上がる。

白のYシャツにスラックス。

いつもだったらちゃんと着替えてから料理を作るのだが、今日は時間がないからだろうか?動きやすいように袖をまくって、その上に一応、エプロンをかけた。
「なぁクリスー」
「なに?」
ソファのまん前。フローリングに座ったまま声をかけると、クリスはこっちを向いてもくれなかった。
冷蔵庫に入っている買い置きの野菜などの食材を真剣そのものの顔で見ている。
きっと、今日出てくる料理も美味しいものなんだろう。
クリスの料理を食った後に携帯食なんて食えたモンじゃない。
…それなりにちゃんと調理をすれば文句がたまにもれるくらいで、食えるものにはなるのだが。
でも、普通の食材で、しかも手の入った料理に勝てるわけがない。…持ち運びは便利なんだけどな。

「今日、飯後にしねぇ?」
「…はぁ?」

提案したら、今度はちゃんとこっちを見てくれた。
でも、眉がよってる。よってるよ、綺麗な顔なんだからさ、そういうのはやめようよ。
「…なんで」
「だって、俺明日から任務だもん。簡単には帰って来れないもん」
プゥっと頬を膨らまして講義してみる。そうしたらキッチンから包丁片手に出てきてくれた。
…表情は思いつめてないからそれほど怖くはないけれど。
ってか、別に剣とかナイフとか持ってるのなんて日常的だからな。

「…ヤだって言ったら?」
「力で解決ってのは嫌なんだけどな」
ニッコリと笑って手を広げてみれば、クリスはキッチンに戻ってしまった。
フローリングから立ち上がり、ソファに座る。
はぁ、と一息ついた。
天井を見上げて、物思いにふける。


あぁ、戻ってきたいなと、思う。
そんでまたクリスの料理を食いたいな、と。


確かニブルヘイムだったか。結構ミッドガルからでは遠い。
今日、レノには「しょうがない」と言ったが…。
そんなことで諦められるほど物分りが言い訳ではないのだ。
…そうでもしていないと。

任務になんて行けなくなっちゃうから。

死ぬ可能性は任務にもよるが5分5分くらいだろうか。
1歩間違えれば死んで、もうこの腕に暖かいクリスを抱く事なんてできない。
それどころか触れるだけではなく、クリスと共に笑いあうことだってできない。料理を食べる事も、神羅に送ってってやることも。
そんな、当たり前になってしまった日常を壊すのが怖かった。
当たり前になってしまった日常を壊されるのが怖かった。
自分勝手なんて、百も承知だ。
でも。

「…ザックス、後で飯は食わせるからな」

クリスを置いていくなんて出来ない。

「食うよ。だから…おいで?」
ソファの上で手を広げ、待つ。クリスの手に握られていた包丁は、今はない。


殺されるんだったらクリスがいいのに。
この人にだったら殺されても文句は言わねぇよ。
クリスの腕で死ねるんだったら、少しは後悔しない。

だから…、戻ってくる。


「…ザックス、俺、その後飯作るんだからな?」
「分かってるって、大丈夫」
膝の上に体温を感じて、向かい合わせに視線を真っ直ぐに合わせられた。
寒かったのかYシャツの袖はもう伸ばされている。くしゃくしゃになったYシャツから白い腕が伸びて、首に躊躇いがちに腕が回された。
ソファの上に膝立ちしているから目線はクリスの方がやや上だ。
いつもいつも、こういう時には真っ赤になってうつむいて目線を合わせてくれないのに、不器用ながらも唇をきつく結んで真っ直ぐに見てくれる。
なんか、こういう場面でもなければ見れないような姿だ。

笑ったり、泣いたり。
いろんな表情を見てきたけど、やっぱりこういった真面目な表情もクリスなんだ、と納得させられる。

沢山見たのは笑顔だ。
殆ど見れなかったのは、泣き顔。

全部全部、色あせない思い出だ。

「なぁクリス」
「…何?」
「最初に此処に来た時のこと、覚えてるか?」
なんとなく聞いたら、返ってきた答えは簡単だった。

「覚えてねぇよ」

「…え!?マジで?」
ちょっと凹んだ。
「だって…、過去を振り返るのはたまにで良いから。ザックスとずっと一緒にいたいもん。俺が気になるのはこの先のこと」
だから、忘れるようにしてる。
小さく小さく、耳元でささやかれた。
「過去は?」
「たまーに、押入れから見つける感じで十分。思い出し笑いだって出来るように歩きたいし」
「そっか」
「うん」

コクン、と頷かれて。
納得した。

「ザックスは…、これより先に興味はないのか?」
「そんな訳ないだろ?これからもっと一緒にいるんだもんな」
「…うん」
嬉しそうに目を細めて微笑まれる。

ずっとずっと一緒に居て。
ちょっとずつクリスと一緒に歳を重ねて。
毎日笑って飯でも食えたら。

他には何も望まないな。
贅沢なことなんて、なにも、望まない。
ここで一緒に居られることが、まず、なによりも大きな奇跡みたいなもんだ。

額に軽く口付けると、くすぐったそうにして額を押さえて、クリスは笑った。
「大好き、ザックス」
「俺もだよ」
どっちからとかそんなことは覚えてないけど、2人して「えへへ」と笑った。


  *


「…っ、う」
「何?痛いか?」
息が上がる中でクリスが弱弱しく首を左右に振る。
そんなしおらしい様子に苦笑して少し視線を上げてみれば、シーツを掴む左手が白くなっていた。
相当力を入れている証拠だ。
「辛くなったら言えよ?」
「大丈夫…、大丈夫だから、さ」
右手で髪を軽く握られる。
「もう…、無理そっ」
白い首が仰け反って、唇の端が噛み締められる。
それを、自らの舌を絡ませて止めさせ、下で念入りに解していた指を抜いた。
「ほら、クリス大丈夫か?」
「ん…ぅっ」
「はいはい、もう辛いんだなー。わぁったから、もう挿れちゃって良い?」
体を起こし、膝で立たせて確認する。
そうしたらクリスは小さく頷いて見せた。それを見て笑い、腰を丁寧に押さえ入り口に自身を宛がう。
背に回された腕の熱さを感じて、華奢な体を貫いた。


  *


「ほら、ザックス」
「ん…?」
後ろから声が聞こえて振り返ったら、クリスの笑顔しか視界に映らなかった。
「ね、お守り。不恰好だけど…、もしよかったら持っててくれな?」
ニッコリ笑って手を取られ、下を見たら何かが手首にかけられていた。
「お守り?」
「そう、ザックスがまた戻って来れますようにって、そういうお守り」
手首には真新しいブレスレットがかけられていて、その紐の間に透明な石が組まれていて、石の部分がひんやりとして気持ちよかった。
「へ、ぇ…」
思わず笑みがこみ上げてくる。

「ザックス、いってらっしゃい」
「おう、次は俺が帰ってきたときに神羅ビルで、かな?」
「そうだね、気をつけて」
「おう!大丈夫だって、すぐにジルもつれて戻ってくるさ」

くしゃくしゃと、銀色の頭を撫でて。
笑って家を出た。


早く帰りてぇな。
早く笑って欲しい。


  *


気付かないうちに、少しずつ、少しずつ。
掌から零れ落ち始めた。

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