悠久の丘で
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さらさらと、砂がこぼれるように。
いつだって時間とともに命は流れていく―――…

クリスがタークスに入ってから、もう少しで1年だ。


  *


あまり知られてないことなのだが、ソルジャーや神羅兵は、鍛錬がある以外はたいしてやる事がない。
良い意味でも悪い意味でも、結局は実践タイプなのだ。
こちらに要請がない限りは当番制で回ってくる、タークスとの合同警護ぐらいしか仕事がない。

だから、いつも通り刀の手入れをするセフィロスの隣りの椅子に陣取って、昼寝をしていた。
家では何かと寝れない状況があったりして、極力ここで寝て体力をつけておくようにもしていた。
はっきり言うが、全く一般兵の手本になっていない。
だがそれもセフィロスは許してくれているようで、余程の事がない限り起こされる事はなかった。
過去にクリスとの事で相談した事も関わっているのだろうけど、それなりに応援してくれているのだろう。
…全く実りはないのだが、それでもしかたがない、と思うようにしている。

結局は愛情の縺れなのだろう。

彼が誰であろうと、性別が男であろうと、そんなことは関係なくなってしまっているのだ。仕方あるまい。
そう結論付けるたびに、嬉しくて仕方なくなる。
それでも時折、ミッドガル周辺を警備しているクリスが辛そうな顔をしているときは、反省するのだが。
やはり、男の体では負担が大きいのだろう。
突っ込む所に挿れてるわけじゃないんだから。


電話が来たのはそんな昼寝の途中だった。
携帯が震え、着信を知らせるようにチカチカとランプが光る。
「ん…、んぅ?」
眠い体に鞭打ち、携帯を取り出して耳に押し当てる。
聞こえてきたのは愛しい彼の上司の声だった。
「あぁ…ツォンさん?どうした…」
そこで声は止まった。
耳から入ってくる困惑を孕んだ声がどうしても頭に入ってこない。
ただ一言ようやく理解できたのは。

「クリスが大変な事になっている」

という事だけだった。
近くにいたセフィロスに理由も告げずただ「帰る!」とだけ言って、仕事を放棄して、タークス本部に急いで向かう。
セフィロスならうまくごまかしてくれるだろう、と思って。
「…ザックス?」
「悪い、今日はもう帰る!」
すれ違いざまに両手に呆れるぐらい書類を持ったクラウドとすれ違った。

あーあ、絶対セフィロスの奴嫌がるだろうな。

そんなことが思い浮かんだが、そんな事言っている余裕なんかなくて、そのまま走る。クラウドは驚いた表情を顔いっぱいに浮かべていた。
後で理由を言っても彼は許してくれるだろう。
そんな信頼が少なからずあったから。だから、何も言わず少し手を上げて礼をして走った。

脇腹の辺りを刀の先でちくちくと突かれるような、嫌な汗が背中を伝う。
何かをなくしてしまいそうで嫌だった。

あいつは1度だって俺の所に来てからわがままなんて言った事がないんだ。
いつだって、…うちに来てタークスに入るまでの暇でしょうがなかったであろう専業主夫時代だって、文句を聞いた事はない。
自分の中で溜め込んで、そのせいで…自分を壊してしまうような奴なんだ。


人格の崩壊をきたすまで、何も言わない。

人格の崩壊をきたしたって、何もない、普段のように振舞ってしまう。

それは強さのようで、弱さのようで。

意地のようで、目に見えない優しさだった。


だからこそ、心配だった。
何度外にも出さず、家の中に軟禁してしまおうと考えた事か。
4年前に初めて会った時から、あの光を失うのが嫌で。
一緒に住むように仕向けたんだ。


  *


バンッと、ドアが壊れてしまうくらいに勢い良く開け放った。
跳ね返ってきたドアを手で押さえ、少数の痛いくらいに刺さる視線の中から電話をくれた上司を探した。見つけた。逃がさないように瞬きもせずに問う。
「…クリスは?」
答えは返ってこなかった。
「クリスはどこだ!?」
身近に机がもしあったなら、力いっぱい拳を叩きつけていた事だろう。
いつもの親しみやすいと言われる声は低く、表情も鬼気迫るものがあった。

必死だったのだ、きっと。
失くしたくないモノを失くす怖さが体を支配していた。

「…ザックス……?」
結局は上司からの声はなかった。
その代わりに、聞き間違えようのない声が聞こえた。
「ザックス…なのか?」
「…クリス」
ドアから入ってすぐのあたりからは見えないような位置にしゃがみ込んでいたらしい。頭から毛布をかけられて、それを大事そうに手で押さえている。
「ちょ…、ザックス!?」
「は…、はは。良かった…」
「どうした?大丈夫?ねぇ、ツォン何言ったの、ザックスに」
情けない事だと思った。
フワリと毛布と体温が体に触れる。そして、頭を丁寧に髪を乱さないように撫でられた。
でもどうしても、膝に入っていた力が抜け座り込んでしまったまま立てなかった。
安心して、体に張っていた緊張感が全て抜け落ちてしまったんだろう。
「ねぇツォン、奥の部屋、ザックス連れて行ってもいい?此処じゃ誰か入って来たとき、目立つだろ?」
「ああ…、分かった。私は主任に連絡を付けてみよう、奥の鍵は一応かけて置けよ?レノたちもすぐに帰って来るそうだ」
「うん…、わかった。ザックス、行こう?奥の部屋だったら人目にもつかないからさ」
「あぁ…、いいのか?」
「…仕方あるまい。クリスもこう言ってる事だしな」
ツォンさんの方を見上げて聞いた。
考えてみればクリスのことを見上げるようにしたのは久しぶりかもしれない。
「じゃぁ俺、奥の部屋の鍵開けてくる。ザックスそれまで大人しくしてろよ」
慌しく立ち上がり去っていくクリスの姿が、もう遠い。
だからそのままの体勢でもツォンに聞く事ができた。
「なぁ、クリスが大変な事って?」
「…先ほどまで随分取り乱していた。根本はジル…、と言って分かるか?」
「ああ、前にアイシクルロッジで任務が一緒だった赤い髪の奴だろ?こう、腰の細い感じの…」
「…セクハラ紛いで訴えられるぞ」
「気もないのにセクハラなんてしません。したのがバレたらこっちの身が危ういしな」
それに忘れたくない事もあった。

あんな思いなんてもうしたくない。
あんな…、仲間を助けられなかった事なんて、思い出したくもない。
その少し前には笑って、話ができた仲間だったんだ。
でも。
忘れたくない事も事実だったから、傷をえぐってでも思い出すようにしていた。

ツォンさんは会話を諦めたらしい。
ため息をついて、元の話へと戻す。
「…とりあえず、ジルから連絡が来てだな。…どうやら任務先でドラゴンに遭遇したらしい」
「は?ドラゴン?俺だって滅多に見れねぇ代物だぜー?すげぇ強運の持ち主だな、あいつ」
「…一般人よりは多少頑丈にできてるとは言え、一応ジルは人間だ。普通そういうのは運がないんじゃないのか?」
「…そうかもしんねぇけどさ。まぁ、良いや。問題なのはクリスがどうなったのか、だ」
「クリスが、あんな状態になったから話すんだ。口外はしないでくれ」
「大丈夫だって、そんな事しねぇよ」


なんでも、事の始まりは1本の電話だったという。
ニブルヘイムに行ったジルから連絡が来た。


「…という事だ、クリスの事を頼んだぞ。私は主任に連絡してくる」
ツォンさんは話すだけ話してしまうとそのままドアへと向かってしまった。
綺麗な絨毯が敷かれた床に胡坐をかいて座る。
「なぁ、ツォンさん」
「…何だ?」
急いでいるだろうに、ドアノブに手をかけたままの状態で振り返ってくれる。

良かった、と思った。

「クリスの事、よろしく頼みます。俺じゃぁいつ死んじまうかもわからないから」
「…馬鹿な事を言うな。お前に電話したのはどうしてだと思っている?」
分かってるだろう?
そう言われて、思わず苦笑が浮かんだ。
こんな部署を受け持つ人物だというのに、この人はあまりにも優しすぎるのではないか。
そういえば前任になってしまったヴェルド主任も優しい人だったな。
セフィロスみたいな、責任をすべて負ってしまうような広い人。
優しさなんて、この会社においては邪魔なだけなのに。
持ち合わせていたところで、辛いだけなのに。

それでも持っている。
持っているから、それよりも下の部下が自ら、その命を賭してでも、着いていこうとするんだ。

ガチャッとドアが開いた。
「…へ、え!?」
「…クリス、廊下は走るなと、教わらなかったか?」
「だって、まさかいるとは思わなかったんだもん…、ごめんね」
偶然にもドアがあたらないような位置にいたから良かったものの、いたら間違いなく負傷だ。
いつもだったらこんなに慌てないのに、と思う。
飛び込んできたクリスをツォンさんが抱きとめる。クリスのほうも急な事で思考回路が落ち着かなかったのか、大人しくツォンさんの腕の中にいる。
「クリス、怪我ないか?」
「あー…、うん、大丈夫みたいだよ。ツォン、ありがとう。ザックスも立てるようになったんだ?」
「あぁ、もうずいぶん休んだしな」
緊張感も良い感じに戻ってきた。
「そっか、よかった…」
「じゃぁ、主任に連絡してくる。クリスもザックスに迷惑をかけないようにな」
「はい、いってらっしゃい」
クリスを俺に渡し、ツォンさんは不器用にウィンクをして見せた。

「…ん?今なんか言った?」
「いやー…、そうでもないぞ」


顔を寄せられて告げられた。
『鎖、つなげておくことをお勧めする』
思わず苦笑してしまった。


  *


奥の部屋、というのはどうやらツォンさんが使っている執務室だったらしい。
一番奥に質素な仕事机。
その前にはタークスで小さな会議でもするのか、ソファが向かい合わせになっていた。
その部屋と外とを繋ぐのは仕事机の後ろの窓と入ってきたドアだけで、ソファに置いてあるクッションは恐らく女性社員のものなんだろう、と思わせる。
ツォンさんのキャラではない。

…ブルーと淡いピンクのチェック模様のクッションなど。

「へー…、こうなってたのか」
「うん、そこら辺にでも座ってて?俺、紅茶でも入れてくるから…」
「あ、いや、俺が入れてくる。勝手に使っていいのか?」
「良いけど…、大丈夫?俺行くよ?」
「だいじょーぶだって!休んでろ、クリスは。な?」
立ったままのクリスを強引にソファに座らせ、その腕にクッションを置いてやった。
なかなかそのクッションが似合う。やっぱり女の子みたいだ。
不安および疑問系の視線がどうしても刺さるのを感じて、頭をかいた。
「…だめか?」
口ではうまく言えず、結局はクリスが逆らえないような状況に追い込んだだけだった。卑怯な事だとは分かっていたが、そういう流れしか取れなかったことを悔やむ。
クリスは困ったように笑ってから、躊躇いがちに上目遣いで見上げた後、ゆっくりと頷いた。
「で、でも分からなかったら早く呼んでね?それと紅茶は上の戸棚に入ってるから…」
「ふーん、そこらへんはうちらのトコと大して変わらないのな」
「あとお湯沸かすとき、火傷しないでね…?」
「…それくらいできるって。ほら、野営の時とかちゃんと料理作ってるんだからさ」
「…それは料理って言うのかな?」
「うっ…、とりあえず…!行ってくる」
「うん」
なんか、家みたいだと思った。
結局はクリスは俺がやりたいようにやらせてくれる。その度にクリスは俺を助けてくれた。これからもそうだろう。


ドアを開けて、いつも見る仕事場に出る。
内側から見れば、給湯室なんて簡単に見つかった。
…というか、同じ会社だからなのだろうが部屋の大体の位置や、大きさ、用途方が何処でも同じである。
…もっとも、あそこでは誰も料理なんかしないから新品のように綺麗なままだったが。
「えーっと、これか。うわぁー、紅茶、いっぱい並んでるよ」
棚にはずらーっと、紅茶の缶が。
一応手にとって見て、結局分からなかったのでクリスに聞いた。
「クリス、これってどの紅茶使って良いんだ?」
「紅茶…?あぁ、そういえば沢山置いてあったんだっけ。家にある奴覚えてる?アールグレイの缶…えっとね…、一番右においてある緑色の奴」
くせがなくて飲みやすいんだよね、とつぶやく様に声が聞こえた。
「一番右…と、これか」
手にとって、ふたを開けると直ぐに茶葉の匂いがした。
「えっと確か…」
クリスが家に住むようになって、紅茶が日常的に飲まれるようになった。…というのも、クリスがコーヒーを苦手としていたためなのだが、それでも身近で紅茶を淹れていれば嫌でも淹れ方を覚える。
まずは、水をお湯にするところからだ。
「強火、強火…と」
何でも水道水であっても汲みたてで、強火で沸騰させてしまえば美味しく飲めるのだという。
不思議なものだが、急いでいたせいで中途半端に沸騰させたお湯で紅茶を飲んだ事がある。
そしたら、どれだけいつも飲んでいる紅茶が美味しいのかが分かった。
カップをとり、お湯でさっと洗い流して温めた後、空気泡がでるくらい熱くなったお湯を少し高めの位置からティーポットに注ぎいれた。

あとは蒸らすだけ。


手近にあったトレイにティーポットとカップをのせ、慎重に運ぶ。
ちゃんと、あけた缶は元の位置に戻しておいた。
「クリスー、できたぞっと」
ドアを、トレイを片方の手に持ち換えてあける。
クリスはそのまま大人しくソファでクッションを抱いたまま座っていた。
そして、ドアが開く音で顔を上げ、トレイに視線を向けてから心配するような声音で聞いた。
「火傷とか、してない?」
「…そんな不器用そうに見える?俺」
自分では結構器用なほうだと自負していたのに。
「そんなんじゃないけど…。だって、そんなにキッチンに立たないでしょ?だから心配なだけ。ザックスが器用なのは知ってるもん」
首を振る。
結べるほど長くない前髪が首の動きにあわせて揺れた。
綺麗だな、と思って、隣に座った。
座るのと同時に手が伸びてきて、トレイを自分の膝の上に置いた。だから、両手が開放される。
「ドア、言ってくれれば開けられたのに」
手に持っていたトレイは蒸らし終わる後何分かはクリスの膝の上だ。
細い、足。太ももの所だって少し力を入れれば折れてしまいそうで怖い。
今日はトレイを乗せているからか、膝をあわせて器用に女性のように座っている。
俺なんかは、そんな座り方は中々出来たものじゃない。
内股にたくさん力を込めて、やっとできるくらい。
「それくらい俺だってできますよ、お嬢さん」
クリスの、慈しむようなティーポットを撫でる手つきになんとなくムッとして、じゃれるように肩に頭を置いた。
「…ザックス?」
もしかしたら、それは嫉妬だったのかもしれない。
本当に心が狭くて嫌になる。
「俺、お嬢さんじゃないけど」
「良いのー、俺的には十分お嬢さん」

大事に箱に入れて、守りたくなるような。

「…でも、お嬢さんって…」
「良いだろ?可愛いじゃんか」
お嬢さんだろうとお嬢さんじゃなかろうと、そんな事は関係ないんだけどな。


奥の部屋でじゃれあって。
まるで家にいるような感覚で話をして。
適度に蒸らされた紅茶を注ぐクリスの手を見て、少し悪戯をして。
そして、紅茶を飲んだ。
ちょっと前の心身疲労なんて忘れられるくらい、それは柑橘の香りが甘かった。


アールグレイ セントジェームス紅茶と、言うらしい。


  *


俺を必要としてくれる瞳がここにある。
それがこんなにも嬉しくて暖かくなるものだなんて知らなかったんだ。


少しだけ。
少しだけ音が近づいてくるのが聞こえた。

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