悠久の丘で
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再会はあまりにも突然

さらさらと、砂がこぼれるように。
いつだって時間とともに命は流れていく―――…


  *


最初に見たのは確か、ザックスの後ろに隠れるようにしてついてきていた、まだ名前も知らなかった頃。
なんでもセフィロスに会いに来たとか何とかで、そういうのは外でしろよ、と言ったら笑って答えられた。
「だってあいつ、今外出れるような状況じゃないだろ?だから連れて来たんだって」
それに俺がいるから質問も何もねぇしな。
短い銀の髪が、首をかしげて隣に立つ年長者を見上げたときに揺れた。
長さも色も違うのに、何故かセフィロスを思い出した。
「で?そっちのおチビさんは英雄に何の用なんだ?」
背が小さかった。
ザックスよりも顔1つ分ほど小さい。だが、それなりに出来る奴なんだろうな、と直感したのを強く覚えている。
控えめな露出だったが、肩の所で切られたハイネックの服から覗く腕には、細いながらもちゃんと筋肉はついていたし、何より、肩で呼吸をしていなかった。
荒事には向かないような、体の動きを制限する上着を肩から落ちた所で器用にまとい、見慣れたものとは違う蒼が、控えめに此方を見上げた。
蒼の中に紅が映りこんだのを見て、その向こうの俺が口角を吊り上げてニィ、と笑ってみせた。

代わり映えのない会社の廊下で、こんな風に笑ったのは久しぶりかもしれない。

人見知りをする性質なのか、少し不安そうにザックスを見上げた視線が、段々と降りてきた。ザックスは笑っている。
笑って、自らのみを頼りにするように隠れるようにするおチビを楽しそうに見て、そっと、その背を押してやったのが、視界の端に入った腕から分かった。
「クリス、レノだ。俺らソルジャーと同じ部署にいる、タークスって奴の」
クリス、とその背を優しく押し出してやりながらザックスが言う。
それを聞いて、そう言えばウチの部署はガハハのおっさんが一応トップで、ソルジャーも同じだったんだっけか、と思い出す。
別にあんなおっさんになんて会わないから覚えてなくてもよかったのだが。
でも、キャハハのおばはんとどっちが言いかと聞かれたら、どっちでも良いと答えただろう。
どっちにしたって大して変わることはない。
「…ザックスと一緒なのか?」
「ああ。そうだぞ、と」
実は忘れていたんだけれども。
「そっか、俺はクリス。レノ…さん、その髪、綺麗だな」
ここで初めて、俺は笑顔を見た。



次に会ったのは、ツォンさんの後ろを歩いてる姿。
少し伸びた銀髪が後ろでくくられていた。
黒の似合わないスーツに身を包み、ポケットに貰ったばかりの汚れてもいない社員証を忍ばせて、手にロッドを持って。
扉をくぐって敬礼するツォンさんからヴェルド主任の前に立ったとき、彼はちゃんとしたタークスの顔になっていた。
初めて会った時のように誰かの後ろに隠れるような事も無く、ちゃんと自分の足でこの社内で立っていた。

細い体で細い腕で、小さい背。

1年じゃちっとも変わっていなかった。
ちょうど新人たちが増えてくる少し前。彼が15歳の時のことである。
短くて、肩に付くか付かないかくらいな髪は柔らかそうだった。
まだ自分の髪も短かった。
紅い髪は短くて、少しうざったかった。
スーツの襟のところではねて首をくすぐる。凄くくすぐったかった時期だった。
彼が入ってきたから覚えている。
そして、いつかのように目の前に来て立ち止まって、じっと瞳を見られた。
「あぁ…、レノ…さん」
まだ名前を覚えていたらしい。1回しか会ってなかった筈なのに、と、少しドキリとした。
「今度は後輩なんで、よろしくお願いします」
「…おチビちゃんも大きくなったんだな、と」
「…チビって言うの、止めてくださいね。俺、ただでさえザックスより小さくてセフィロスよりも小さくて、コンプレックスになってるんです」
クリスの笑みはグレードアップしていた。
2回目に見た笑みは、有無を言わせないような笑みだった。
「ってぇ、言ってもしょうがないんで。レノ先輩はからかわないでくださいよ?
そしたら俺、会社で知ってる人全員にからかわれてるって事になっちゃうんだから」
今度は柔らかな微笑だった。
なんだ、と思った。
チビって言われてるのがコンプレックスだと言っていた。
でも、結局は。
完全に嫌なわけではないんだな、と。逆に好きだから背伸びでもしたい年頃なのかな、と。
「…お前が」
「うん?」
首をかしげたときに銀髪が揺れた。
背が低いから見上げられる。蒼い目が綺麗だった。
「お前が…」
「…だから?」
なかなか言葉が出てこない。簡単な事ではあるんだが。
「ここじゃ誰も先輩なんて呼ばねぇからな」
「ふーん」
「だから、名前で呼ぶんだったら良いぞ、と」
完全に言い訳のような前置きをしてから言った。
新しい後輩はきょとんと見上げたまま、何かを考えているみたいだった。
「…別に、そんなに悩むんだったら良いぞ、と。からかわねぇし」
「いやぁー…、そういうんじゃなくて」
「…じゃぁなんだよ、と」
彼は少し気まずそうに笑ってから、意を決したように苦笑と共に言った。
「…ザックスに」
「ザックス?」

「孕ませられるから近寄るなって」

何も…、飲んだり食べたりしてなくて良かった、と切実に思った。
「…あいつ、今度あったらぜってぇシめる…ぞ、と」
「で、でも絶対冗談だからな、俺男だから!
だいたい、あいつは必要以上に過保護なんだ。…だって俺が買い物行くだけでも着いて来ようとするし…」
パタパタと慌てた様に手を振って、必死に否定する。顔を真っ赤にさせて、どれだけ必死なのか良く分かる。
なぁ?と問われても、どう答えて良いのか分からなかった。

…知らなかったぞ、と。あいつ、あんな変人になってたのか…。

「ちょ…、そんな酷い目するなって!ザックスだってすっごく良い子なんだから!」
真っ赤だ。色が白いから病気なんじゃないかって思うくらいに真っ赤だ。
「…なんていうか」
肩をポンッと叩いた。
「お前も大変なんだな、と」
「…その声がすっごく同情じみてて嫌だ…」
その声が妙に疲れているような気がした。
でも、案外見てるところはちゃんと見ている。
その証拠に…
「こらレノ、クリスを虐めてないでさっさと仕事しないか」
「あ、ツォンさん!」
ポン、と後ろから肩を叩かれた。そのまま手を乗せられ続けている肩が痛い。
ビキビキと肩が悲鳴を上げてきそうだ。
「…つ、ツォンさん、痛いんだぞ、と…」
「知るか、さっさと仕事をしろ」
そう言った後ツォンさんはクリスの方へと向き直って、ニコリと笑って見せた。
「さぁクリス。仕事の説明をしよう、ついてきなさい」
「はぁーい」
クリスがそれに笑い返して俺の脇を通り過ぎていく。その時に少し足を止めて、腰をかがめた。
「えーっと…、大丈夫か?レノ先輩」
「…何とか…」
「そう?じゃぁ、帰ってきたら打ち身にでも良さそうなもの用意するから、待っててくださいね」
「そんな事しなくてもいいぞ?」
てか、打ち身…ではない気がする。これは何に部類するんだろうか?
「いや、ザックスにも体は大事にしろって言われてるからさ?あと、人には優しくって母さんに」
体は大事に…。その後になんか余計な言葉がついてそうで怖そうだな、と。
たとえば…、「お前だけの体じゃないんだから」とか。
そんなことを思ったが、あえて言わずに礼を言って、ツォンさんを追うように告げた。
「あの人、結構スパルタだけど根は良い人だから頑張ってこいよ、と」
「………」
ドアの前でツォンさんがクリスの名前を呼ぶのが聞こえた。
手に持っているファイルの角が本当に痛そうだ。…俺だったら間違いなく飛んできてるぞ、と。
そんなことを思っていたら、頭の上に暖かい何かが置かれたのに気づいた。
「ん?」
「…大好きなんだ?」
「はぁ?」
「ここ、好きなんだな」
置かれた手が、紅いトレードマークのような髪を撫でる。クリスの表情は穏やかな微笑だった。
俺が今までに見たことがないくらい、優しそうな、いるんだったら聖女とか神父とかみたいな。
「じゃぁ、行ってきますよ、レノ」
2回ほどポンポンと頭を柔らかく撫でられた後、暖かい体温が離れていった。
敬語交じりではあったが呼ばれた名前のほうに衝撃が大きくて、その後ヴェルド主任に頭を叩かれるまで動けなかった。

わぁお。ザックスが羨ましいな、と。


  *


名前を呼んだ。
出る途中、…というかその前から紅毛の後輩に捕まって、新しい歳若い後輩が少し苦味の混ざった笑みを浮かべていた。だがその後直ぐに微笑みに切り替わる。
それを見たら少しばかり辛くなった。

あんなに白い子を、ここは黒に染めていこうというのか。

それが、例え自分が通った道であっても眉をひそめずにはいられない。
とても、罪深い事のように思えた。その理由としては、大きいものがあった。

いくらなんでも年齢が違いすぎる。

彼の歳ならまだこの世界の、社会の黒さを知らずに育っても十分に許される時期だ。
…いや、まだ世界はその黒さを伝えようとすら思っていないだろう。
そんな年齢なのだ。
それなのに…、彼はこの会社に渦巻く黒の部分しかないような場所で、働こうというのだ。

そういえば、彼の売り込みはセフィロスがしたと聞いていた。
そのときは耳を疑ったな。
あの英雄がそんな事をするとは思えなかったが、だが、共にお互いを同格と認めた様に会話しながら歩く姿を見ていれば、そんな反論も生まれない。
生まれたとしても、口から出せない。

「ツォンさん!遅くなって申し訳ありません」
いや、問題ない。レノに捕まってたんだろう?」
「そんな事ないですよ、ちゃんと、忠告していただけましたし」
「…忠告?」
身長のせいなのか、普通に歩いているとこの新人を置いていってしまう。
だから、少しゆっくりめに歩いた。
「ええ、忠告です」
クリスは楽しそうに唇に人差し指を当て、笑って見せた。
「ツォンさんは『結構スパルタだけど根は良い人だから頑張ってこいよ、と』だそうです。立派な、忠告ですよね?」
「…レノか」
特徴のある語尾を真似て、息を吸う。
それを聞いてもレノ以外が思い浮かぶというのなら、長年やってきた先輩は無能だったんだろう。
ため息を吐き出し、右手の脇に持っていたファイルを左脇に移動させた。
「まぁいい。あいつの軽口はいつものことだからな」

右手にいるクリスを見下ろすような形になる。そして、クリスは私を見上げるような形だ。

「これからある程度必要になるであろう所へ連れて行こう。広いから迷わないようにな?」
「了解です!」
右手をひさしのように額に当て、笑う。
本当に良く笑う子だと思った。


「ややっ!ほな、そこにおるのはツォンじゃないんか、どうしたん?」
歩調をあわせるのに横を向いていたので、前から来ていたのが誰だか気付かなかった。
だが、その特徴のある喋り方で気付く。
「リーブ部長…!…と、ケット・シーじゃないですか。そちらこそどうしたのですか?」
身長が決して低くないリーブ部長とケット・シーの組み合わせ。
あまり進んで見たいものではない。
「散歩ですわ。ボクずっと部屋ん中おったらカビちゃうやろ?せやからたまに、散歩しよるんですわ」
「…はぁ」
…ケット・シーを散歩させて歩いているリーブ部長。
都市開発部門の皆さんには決して見せられないな、と心の隅に書き留めておいた。
あと下っ端には見せられたものじゃない。
ここがある一定以上の資格がないと入れないフロアでよかった、と本当に思った。
「どうしたんです?隣の彼は」
「こっちは本日付でタークス所属になったクリスです。クリス、都市開発部門のリーブ部長だ」
「…リーブ部長?それに都市開発部門って、真面目な人のところだったよな?」

なぁ、セフィロス。ザックス。
お前らはどんな教育をしてきたんだ、クリスに。

それも小さい声で漏らされたので相手には聞こえなかっただろう。その点で少し安堵する。
「はぁ、クリス君ですか。よろしくお願いしますね。リーブといいます」
「クリスです、本日付でタークス所属になったので、もし入用でしたら申し付けください」
「ふふふ、頑張って下さいね」
「ありがとうございます、リーブ部長。それに、呼び捨てでかまいませんよ?
この都市の1番の功労者に敬称付きで呼ばれるほど、人間できてはいませんので」
クリスが丁寧に胸に手を当てて答える。
…かつてタークスにこれだけ礼儀に注意した人物がいただろうか?
少し感動して泣きそうになった。
「功労者、だなんて…、そんなことないですよ。
私はこの街を子どものように思っています。愛する子どもを育てるのに、手を抜く親はいないでしょう?」
それと同じです。
リーブ部長は照れくさそうに笑って、腰辺りまでしか背がないケット・シーの頭を撫ぜた。
ケット・シーがくすぐったそうに上を見上げる。
「この街が、大好きなんですね」
嬉しそうに目を細めた微笑にリーブ部長は驚いたように瞳を大きく丸くした後、頬を僅かに紅く染めて言った。
「…はい」
「それは良かったです」
言葉がどこか温かい。
そのやり取りを見ていて思い出した。


とある書類の中に見た一文。確か書いて提出したのはセフィロスだったか。
その書類は彼がこの部署に来たときについでのようにクリップで留められていた。
その当時の顔写真は勿論、その後の経歴に至るまで事細かに書かれた書類がその後にまとめられていて、それらの書類の1番上にセフィロスの筆跡で短く書かれていた。

”12歳当時、異常発生したモンスターにより村は壊滅。両親共に本人の近くに無残な死体となって発見された”

その後に続く文から推測するに、彼はその後1人でミッドガルに現れる1年前まですごしていたらしい。そしてその後はザックスの家で暮らしていた、と報告書には書かれていた。

先ほども母、と言っていたか。
レノに言っていた言葉。
余程両親に愛されて育ったのだろう、と思った。
12、13と思春期の真っ只中を両親と死別して、引き取られる事も無く1人ですごしてきたのだ。
たった1人で。
もっと性格が荒んでいてもいいと思う。
いつでもいると勘違いしがちな両親を、守ってくれる者を、まだ守られる立場にある時に亡くしたのだ。
恐らく両親は願ったのだろう。

限りある愛を、その限りある時間の中ですこしでも注いでやろう、と。
限りある命なのだから、それが費えるまで少しでも多く。

結果から言ってしまえば、それはかなり早かったのだろうが。
それでも彼はこんなにも真っ直ぐに育った。


良かったですね、顔は存じ上げませんが心からそう思います。



「…ツォンさん?大丈夫ですか?」
「元気ないんやったら、早ぅ帰った方がええんとちゃうんか?」
名前を呼ばれて気付いたら、ケット・シーの顔が間近にあった。
「……!!?」
心臓が口から飛び出るかと思った。
「……あれ?ツォンさん、大丈夫ですか?やっぱ具合悪いんじゃ…」
「ヴェルドさんに伝えておきましょうか?」
「…いえ、急な至近距離のケット・シーに驚いただけなので問題は無いのですが…」
クリスを見れば、その腕にふかふわな毛皮を持つケット・シーを抱いている。
さりげなく失礼な発言だった気がしてならないが、それは流してくれたらしい。
リーブ部長も少し離れた位置で心配そうに、顔色が悪いんじゃないですか?と言ってくれた。
だが、それでようやく思い出した。
私は確か社内案内をしている最中ではなかったか?
「申し訳ありませんが、用事がありますのでこれにて失礼します。…クリス、そろそろ行くぞ」
「うぃーっす!じゃぁケット・シーとリーブさん、また今度」
軽く会釈をしてからその横を通り過ぎた。
ケット・シーが呑気に手を振っているのが横目で分かった。
本当に、あれは何で動いているんだろう?


  *


あの時の君は本当に良く笑っていたよ。
笑った表情しか見たことがないくらいに明るく、どんな任務の途中であっても。


まだ大丈夫。
まだその手から零れ落ちるものはない。

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