悠久の丘で
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星痕症候群

ライフストリーム
それは星を巡る命の流れ
星と、星に生きる全ての命の源です

神羅カンパニーは、ライフストリームを資源として使う方法を見つけました

そのおかげで、私達の生活はとても豊かになりました
でも、それは、星の命を削ること
そう考える人も大勢いました

神羅は、自分達に反対する人を力で抑えようとしました

神羅には、ソルジャーという、特別な兵士達がいました
大昔に空から降ってきて、この星を滅ぼそうとした災厄、ジェノバの細胞を埋め込んだ人たちです

その中にセフィロスという、とても優秀なソルジャーがいました
でも、自分が恐ろしい実験で生まれたことを知って、神羅を憎むようになりました
そしていつしか、全てを憎むようになってしまいました

神羅と神羅に反対する人たち
憎しみのあまり、星を破壊してしまおうとするセフィロス
セフィロスを止めようとする人たち
いくつもの戦いがありました

戦いの数だけ悲しみがありました
私が大好きだった人も、ライフストリームになってしまいました


そしてあの日
運命の日
全ての戦いを終わらせたのは、星自身の力でした
星はライフストリームを武器として使いました
地上に噴出したライフストリームは、争い、野望、悲しみ、全てを飲み込んでしまいました

悲しみとひきかえに、全部終わったんだよ。
そう言われたのは2年前でした




街がようやく活気を取り戻し、世界が受けた傷がようやく癒え始めた頃。
その頃の、お話です。


  *


 紅い色が目に痛かった。
「…なんで此処にいるんだ、ヴィンセント」
「いやー、仮にも助けてもらったんだからさ? そういう言い方は無いんじゃないかなー、なんて」
「クリスもクリスだ、なんであんな奴らに甘い事を言うんだ」
「…ねぇ、ヴィンちゃん。クラウド、もしかして酔ってます?」
 クリスは呆れたような視線をやって、隣にいる紅い色を見上げる。紅いマントを変わらず纏っていた男は肩をすくめた。
「…知らん。一応、ここまではクラウドが運転してきたのだろう?」
「そうなんだけどねー」
 クリスはスーツのジャケットを脱ぐとマリンにかぶせ、Yシャツの袖をまくると溜息をついた。マリンに視線を合わせ、頭をなでる。
「なぁー? クラウド、マジで酔ってるみたい」
「ねぇー?」
 2人して首を傾げたクリスとマリンは、ヴィンセントに促されて立ち上がった。
 クリスが落ち葉やら枝やらを踏み鳴らして近付き、頭をなでた。暖かな手が、髪を通して体温を届ける。
「ほら、クラウド。ヴィンセント助けてくれてよかったじゃん。あそこでトドメさされたくなんかなかっただろ?」
「…そうだけど」
「だったら、お礼言おうぜ? な?」
 小さい子に言い聞かせるように言われて、なんだか怒りも冷めて、頭を下げた。
「…ありがとう」
「ってな訳だからさ、ヴィンセント。出来れば知ってる事教えて欲しいなー。散歩なんかしにきた訳じゃないだろ? こんな奥まで」
 左腕をさすった。痛かった腕も、そろそろ痛みが緩和されてくる。
「私はよくここにくる。だからカダージュたちの事は見ていた」
 サクリ、サクリ、と軽めな音がして、ヴィンセントが近付いて膝を折った。
「…っ」
 左手を強く握られて痛みに顔を顰める。
「星痕は体内に巣食った異物を排除するシステムの過剰な働きが原因らしい」
 クリスは1人だけ話のわからないマリンの元へと行ってその相手をしているらしかった。ヴィンセントが僅かに顔をあげ、眩しそうな顔でそちらを見る。
「…敵だったとはいえ、良い男だな」
「あぁ。クリスだけは敵とか敵じゃないとか、関係ない気がしてくる」
 クリスの視線が、背中に刺さる。きっと、雑談しているのがバレたんだろう。
「…身体の中にもライフストリームのような流れがあり、それが侵入してきた邪悪な物質と戦うわけだ」
「…邪悪な物質」
「セフィロス因子、ジェノバの遺伝思念。好きに呼べ」
 セフィロスの名前が出たときに、無意識にでも頭が強打されたような感じがした。
「…詳しいな」
 ヴィンセントの視線が、気遣うように後ろを気にしたのが分かった。そして、それの理由がすぐにわかった。
「…ツォンとイリーナ」
「ツォンとイリーナちゃんっ!?」
「…が、此処に運ばれてきた。その…」
 言い難いのか言葉を切ったが、クリスはすでにマリンを連れて近くに着ていた。目にありありと怒りが見て取れる。
「…死にかけの状態だった」
「死にかけっ!? イリーナちゃん、嫁入り前なんだぞ!?」
 ヴィンセントも気が気じゃない。後ろを気にして、続きがいえない。
「…クリス、続けてもらって良いか?」
「…あぁ」
 きゅっと握りこぶしを作った。爪が肉に食い込んだのか、白い手からは血が流れているように見える。それでもマリンの頭を落ち着かせるように撫でる右手には力が入っていないように見える。
 どうしても気になったのは、彼が1度もツォンの事を口に出してない所だった…、が、深く突っ込まない方が良いだろう。可愛そうだ。
「随分酷い拷問を受けていたらしい。助けてやったが…どうだろうな」
「拷問?」
 クリスでなくたって眉を寄せるような単語だ。クリスは相も変わらず血の気のない左手を握っていた。
 マリンが心配でもするようにその左手を取って、込められた力をほぐしていった。
「…自業自得、だろう」
 ヴィンセントは視線を下げて、クリスの顔を見ないようにして小さく言葉を紡いだ。
「ジェノバの首を手に入れたらしい」
 バチッと大きな音をさせて、頭の奥のほうで何かがはじけた。
「じゃぁ、母さんっていうのは…」
 ようやくつながった。
 俺を兄さんと呼ぶ理由も、かつての彼に似たその風貌も。
 唇を、血がたれるほど強く噛み締める。

  これだけ経ってもアレはまだ俺を、彼らを解放しようとしないのか。

「天が送りし、忌まわしき者、ジェノバ。その気になれば再びセフィロスを作り出す事ができる」
「…だからセフィロスには分かってたのか」
 クリスが半ば呆然としたように呟いた。思わず顔を凝視してしまう。
「…だから殺してくれって、そんな事……」
 険しかった顔を一瞬和ませて。そしてそのまま無理矢理笑顔へと作り変えた。
「ヴィンセント、ツォンとイリーナちゃん、助けてくれてありがとう。2人が降りて任務こなしてたからさ。心配だったんだ」
「…本人の体力次第だが…」
「それでも、手当てしてくれたんだろ? サンキュウ」
 満面の笑みを浮かべて、マリンにほぐされる左手の力を抜いた。
 爪に紅がこびりついて、裂けた皮が手のひらに申し訳程度にくっついていた。
 マリンは微笑むと、張り詰めていた気が抜けたのか大きく肩で息をした。
「クラウド、ティファと話したい…」
 そういわれて思い出す。ティファと一緒にいたところを拉致されたのだった。彼女なりにティファが心配で、心細くても男だらけだから気を使っていたんだろう。服のポケットに手を探らせて、なぜか空を掻いた。
「…ない」
 どこかで落としただろうか? そう思って確認の意味をこめてもう1度手を探らせるも見つからない。マリンに向かって首を振った。
「持ってる?」
 マリンがクルリと振り返ってヴィンセントを見るが、ヴィンセントは芝居がかった仕草でマントを翻して見せた。
「信じられないっ!」
 力強くそう言われてヴィンセントは情けない顔をして、クリスは苦笑して聞いた。
「ティファの番号分かるなら、携帯は持ってるけど」
 スラックスのポケットから黒の携帯を取り出して、見せてやるが、マリンは少し迷った顔をして、泣きそうに首を振った。
「わからない、か。しょうがないとは言え、それじゃぁ電話できないな…」
「ヴィンセント、マリンを店へ送ってくれないか? 俺はクリスと神羅の連中に話を聞いてくる」
「クラウド、それは…っ」
 泣きそうな視線を一身に受けたクリスが声を荒げた。
「それはいくらなんでもマリンちゃんが…」
「賛同しかねる」
「ヴィンセントだってこう言ってるし! ルーファウスのところに行くのはマリンちゃん送ってからでも良いじゃないか。レノだってルードだってまだいるかもしれない」
「でも…」
 煮え切らない返事を遮ったのは高い、涙交じりの声だった。
「クラウドはもう良い! どうしてあたしたちの話、聞いてくれないの?」
 逃げ込むようにヴィンセントに走っていったマリンを、ヴィンセントがマントを広げて覆い隠してしまった。すっぽりと入り込んで、足しか見えない。
 溜息をついた。
「…マリン、もう少し待ってくれ。もうすぐ戦いが始まるはずだ」
 弁解するように腕を広げても、マリンはこっちを見ようともしない。
「…でも、ただ戦えば良いだけじゃない。わかるよな?」
「わかりません!」
 悲鳴のようなマリンの声に、クリスまでが頷く。
「わからねぇよなー、普通。俺だってわからないし」
「…クラウド、これは戦いの話か?」



『わかるよ、子供たちを見つけても何も出来ないかもしれない。また、繰り返しの付かない事をするかも。
 それが怖いんでしょ?でも、今はもっと色んな事を受け止めてよ。
 重い?だってしょうがないよ、重いんだもん』
 真っ直ぐに向けられた視線と、行きかう視線。
『1人で生きていける人意外は我慢しなくちゃ。ひとりぼっちは嫌なんでしょ?』
 言葉が重かった。
『だって、出ないくせに電話は手放さないもんね!』
 視線の数が減った。
『私たち、思い出に負けたの…?』



 だって、見殺しにしたんだぞ?
 彼女が祈りを捧げる祭壇を、目の前で見ていたのに。
 俺は彼女を助ける事も、救うこともできなかった。
『ホント、ズルズルズルズルっ! ねぇ、もういい加減、許してあげたら?』



「…罪って」
 顔を上げた。
「罪って許されるのか?」
 クリスの驚いたように見開く目と、ヴィンセントの首を振る様子がやけにはっきり見えた。
「…試した事はない」
「試す?」
 ブチリ、と切れた。何か重いものが、しがらみが、今まで縛り付けていた鎖が、落ちてただの金属音を発した。
「…試す、か」
 クリスの方を見て小さく頷き、マリンに視線を向ける。
「マリン、帰るぞ」
 マントから勢い良く現れた頭に苦笑して、駆け寄るマリンの手を引いた。
 歩きながら後ろのヴィンセントに向かって、耳に携帯を当てるフリをして言った。
「やってみるよ、結果は連絡する」


  *


 恐らく自分で枷をして。
 それで責任をとったフリをして。

 でも、鎖は落ちた。

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