悠久の丘で
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拉致監禁上等!
俺もいい加減むしゃくしゃしていた。何せ今日は2回も同じ人間に肩からぶつかられるし、背のことでからかわれ、10も年下に見られた。
26の男を捕まえてあたし年下好きなの、と迫ってきた勘違い女はどう見積もっても20ちょっと。
誰が年下だって?
悪かったな、成長期の途中で。まだ年に3cmは伸びてるんだよ、うるせェな。
だから、本日2回目にぶつかってきた髪を後ろに撫で付けた色男に文句を言ったのだ。「お前、同じ日によく2回もぶつかれるな」と。
朝見たときには浮浪者と見間違うような恰好だったくせに、随分変わったな、と心の中で付け足して。
「…あれ、あんた俺のことわかるの?」
男は不思議そうにそう聞いて、俺は憤然と頷いた。
すると背の高い男は形の良い唇を半月に歪め――――…、俺の記憶はそこで途絶える。
何が起こったのかまったく覚えていないのだから致し方ない。
―――…そして起きてみれば手に枷填められて、脚にもじゃらじゃらと音鳴る鎖を付けられたこの状態だった、という訳である。
*
「おい」
声が低い。首が回る範囲で見たところ品のいい調度品や、清潔感あふれる白のレースのカーテンが風に揺れるなどこんな状況でなければ嘆息していたところだろう。
あくまで、こんな状況でなければ。
記憶を辿りに昨日のことを思い返してみても覚えているのはあの男に会ったところまで。
あまりにも穴抜きの多い自分の役に立たない記憶に文句をつけたくなって、耳元で鳴った鎖にはそれ以上に喚き散らしたい衝動に駆られた。
しないのは偏に俺が良い歳した大人だからで、外見年齢と精神年齢が合致していたら間違いなく騒いでいたぞ。
2、3度腕や足首を持ち上げてみるが枷が重すぎる。さして体力のあるわけではない俺がいくら頑張ったところで軽々しく動いてくれるような拘束具ではなかった。
それでも鎖はじゃらじゃらと鳴る。
その腕や脚の重さが筋肉痛に見舞われた朝のようで思わず眉を寄せる。
筋肉痛だと? 俺が嫌う言葉のベスト3にはランクインしているぞ。
「誰かいないのか!」
声大きく言ったと思ったのに、ベッドにくくりつけられた体勢のせいかあまり声は通らなかった。
腕が痛い。
人間の体の構造的に、明らかに無理のかかる腕を上に上げた体勢。勿論出来ることならとっくに下ろしているのだから鎖の長さのせいでそれが叶わないのだと、分かっていただけるだろうか?
ああ腕が痛い、痛い、痛い。
俺は昔から痛いのだけは嫌いだったのに誰だ、この野郎。だいたい一般家庭に鎖とか枷とか普通ないだろ、マジで、一回で良いからその顔面ぶん殴らせろ。
その時かちゃり、と小さな音がした。
俺は当然首が回る限りでドアの方を見たとも。尤も俺の位置からではドアを確認できなかったので音がした方向を頼りに首を回しただけだが。
「…………あれ、もう起きてたのか?」
その声だけ聞くと昨日の色男であることは間違いない。
だが、昨日と違うのは野郎がわざわざ俺が見えるようにベッドの端に腰を落ち着けて分かった。
「腹は? 減った?」
にこやかに聞いてくるがそんな問題では決してないはずだ。
最初にお前を殴らせろ。
「あはは、なんかすっげェ目で見つめられてる。そんなに腹減ったのか」
違ェよ、クソ。とりあえず殴らせろ、それから殴らせろ。
「何食べたい? 俺不器用だからそんなに作れないけど」
いや、人の話を聞け。
「ん、何。俺、今食べたいもの聞いてるじあゃん」
―――いや、それよりも俺の問いに答えるそぶりを見せろよ。
「お前か、人のこと誘拐しくさったのは!」
「誘拐?」
昨日は上げていた髪を下ろした色男は下ろしても色男で、残念そうに頬を膨らませると何故だか怒鳴りたくなる。
「俺をここに連れてきたのはお前じゃないのか―――…?」
だが我慢した。実際は違う、とか言ったらコイツに悪いし。それに、一応…恩人…に、なるかもしれないからな。
しかしコイツは首を傾げた。
「連れてきたの? 俺だけど?」
お前かよ、この誘拐魔がッ!
「鎖をはずせ」
「……良いけど…」
「早くはずせ」
「綺麗なのに――――」
何を言うのかと思えば男はそう言って頬を膨らませた。
「良いから早く外せ」
だが俺は一向に構わない。こんな変態趣味を持った男に無理矢理付き合わされる意味も無い訳だし、寧ろなんか訴えたら勝てそうだった。
俺の視線が届かない頭の上、男がポケットから取り出した鍵のおかげでかちゃり、と軽い音がして急に腕が軽くなった。
まずは左腕。
次に左腕に嵌る枷の鍵が開いて久方ぶりに手首が軽い。一応動くかどうか握っては開いてみた。
とりあえず問題はなさそうだった。―――豪く痺れたように力が入らないだけで。
「ンで」
「うん?」
右腕の鎖も落ちて、意外と枷だけだと軽い。恐らく昨日ぶりに自由になった手をお互いが引っ張って伸びをした。
そして苛立ちや色んなものが含まれた拳を相手の鳩尾に叩き―――
「うわっ、危な」
―――…込もうとしたらとめられた。この野郎。
「何でいきなり殴ろうとするンだよ、危ねェなァ」
「俺はよっぽどお前の思考回路の方が危ないと思うけどなッ」
見事な不意打ちで、決まると思っていただけに決まらないとショックが大きい。頬を膨らませて指をポキポキ鳴らしながら聞いた。
「つかお前誰だよ、変態」
そういえば相手は酷くショックを受けたようだった。
へーん、良い気味だっての。
ちっとも反省の色なんてなく、俺は男を観察した。
恐ろしく猫ッ毛。黒の猫ッ毛は水に濡れると少し伸びるらしく、毛先がやけにくるくるしていた。耳元を掠めるくらいに長い髪。それに金色にも見える瞳の瞳孔が気のせいかやけに縦に長い気がする。
そして向かって右側の目に泣き黒子がある。
男は何故か照れるように頬をかいた。
「俺はティキ。ティキ・ミック」
お前は、と続いた言葉はまるっきり無視しておいて。手枷を外し終わった男に今度は軽く脚を上げて見せた。ティキと名乗った男のなんともいえない視線が刺さるが、俺は端から気にしちゃいなかった。
お前が勝手に嵌めたんだろ、と視線で言って。
「ぁ―――…はいはい、分かったよ、はずしゃいいんだろ」
折れたティキの手が足首に触れたのが分かるとふわふわする枕に顔を押し付けた。
「ンでお前の名前は?」
ティキの手が暖かい。脚に触れるその手が睡魔を連れ立った眠気をつれてきて、俺は枕に顔を半分くらい埋めて、反射的に答えた。
「…………クリス。クリス・リーフィル」
「へェ、クリス、か。可愛い名前だな」
その言葉を聞いたとき俺は懲りずにもう1度拳を作って、叩き込もうとした瞬間に逃げられた。だから怒気露わに低い声で言っておく。
「―――てめェ、もう26になる男に向かってその言葉を言ったらぶっ飛ばされるぜ? 勿論俺もぶっ飛ばしたい」
「ははは、気ィ強いな。ぁ―――…、クリス、お前これからここに住むからあんまやたら滅多ら外に出るなよ。誘拐されるから」
何か重大な事をサラッと言われた気がする。
「…なんだって?」
「だから、お前、昨日からここに住むことになったから」
ティキはやたらと明るい顔で言い切った。
俺の耳に聞き間違いは無い様である。
「―――はァ!?」
ティキはけたけた笑うだけで、これからヨロシクな、と言って額にキスしてきた。
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