悠久の丘で
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この男、収集体質につき
もう日は堕ちて随分暗い路地裏。そんな時間に人気の無い其処で何をしているのか、と問われれば俺は赤面しながら顔を俯くしかない。
それで、ご推察していただければ幸いである…。
それというのもあの鬼畜坊主のせいだ。そしてアレを押し付けた教団の。
俺、そういう趣味はあんまりないんだけどなァ…、なんて、此処においては意味を成さないような言い訳ばかり浮かんでくる。
この野郎、腰に手を回すな。俺にはそういう趣味はないんだ、そのはずだから!
「君みたいな綺麗な子がなんでこの時間になるまであんな所にいたんだろうね。私にはとても不思議でならない」
あァ、俺もなぜ健全な男子であるはずの俺があそこに立たされたのか、俺の体質を熟知して尚不思議でたまりません。
誰か俺が真っ当な道に戻れる術を知っていたら教えてくれ。
「…さァ? 俺もわかりませんけど、ね」
腰に回された手が偶然を装って何度か尻を撫でるたびに、その頭に肘鉄いれてやろうか、と真剣に悩んでしまう。
俺がこの体質に目を付けられて教団に売られて早3年。
確かに周りがAKUMAだらけになっていくよりは確実に売ってくれた方が俺的にも気が楽だ。そこは親兄弟に感謝せざるを得ないが、何故クロスが珍しく教団に帰還している時期に…、とそこだけは恨んでも恨みきれない。
おかげで目を付けられた俺はそのまま右も左もわからないまま頼れるものはあの鬼畜元帥ただ1人のみ、なんて、どう考えても俺の身が危ないだろッ。
あの時ばかりは少し綺麗な顔に生んでくれた母親を恨んだ。確かに得して来た事も多いけどな、買い物行けばおまけしてくれるし。
でも、どう考えてもあのクロスに気に入られるよりおまけの方が安いだろ!
俺は断固拒否するね。無料より高いものはないってのは本当だったってことだ。俺は生まれて24年で悟ったよ。ああ、これ以上ないくらい悟った。脳髄にまでしっかりと書き込まれたさ。
もうおまけなんていらないからどうかクロスとの縁を切ってくれ。
「確か…クリス、と言ったっけ?」
「あ…、はい。そうです」
急に話し掛けられるからどもりかけたぞ。いつの間に移動したのか此処はもう安宿で。おお、ベッドのスプリング弱いな。
ついついクロスのとる宿と比較してしまって俯いた。
ああ、なんか可笑しいぞ、俺の脳みそ。何一瞬でもクロスの方が良いかな、なんて思ってるんだバカ。
あいつが良いのは顔くらいだ。……………………いや、確かに上手いけどさ。
いや、何かとか言わせるなよ、恥ずかしいからさァ!
ベッドをぎしりと軋ませ男も乗り上げてきた。
「クリス、綺麗だね」
「そう…ですか?」
心持後ろへ下がる。
「そうだねェ。真っ直ぐの黒髪に…瞳はアメジスト。肌は抜けるように白い…」
男は溜息をついた。
どうでも良いが言いながら髪に触れたり顎をくい、と持ち上げたり脚に手を這わせたりするのはやめて欲しい。くすぐったいんだよ。
「顔も可愛いね。あァ…歳を聞けば犯罪を犯しているような気がして怖いな」
安心しろ、俺はもう24歳だから一応法律とかには引っかからない。
あ―――…、いや、あくまで法律には、な。俺にもクロスの気まぐれは読めないところもあるからアンタがどうなるのかってのは分からないけどさ。
そう言うならするする登ってくる手をどうにかして欲しい、と俺は思うのだが、やはりそうはいかないか…。
太股を何度も往復する手付きが厭らしくてつい視線を反らした。
男はそれに機嫌を良くしたように笑う。
「ねェ、クリス…」
「は、い…ッ」
耳元で吐息を吹き込みながら喋るな!
身体がピクリと震える。
男は楽しげに笑って俺の首から鎖骨、そして胸に触れる。何度も集中して突起を往復するから突起が硬さをもつ。仕方ないだろ、生理現象だし!
「……っ」
「…おや、敏感だな」
男が舌舐めずりするのを見て、俺は男なんてどれも一緒だな、と思う。
ねちっこいのはなにもクロスだけじゃないって事だな。アイツも下はちゃんと慣らさない内にいじるくせに、ヤケに上は時間をかけて苛めてくる。突起摘まんだり舐めたりされると我慢出来なくなるから止めてくれって言ってるのに。
俺は身体のあちこちをいい様にいじられながら、頭の中は冷静そのものだった。
なにせいつもがあのクロスである。
すでに痛いのも強すぎる快感のも無理矢理とか異常にねちっこいのも経験済みだっての。
なにせ、すべてクロスの機嫌に掛かってるからな。
あァ、一人でいじってイカされたり、まったくイカせてくれなかったり、何回も何回も精液がなくなるまでイカされた事だってあるさ。
騎乗位なんて今更恥ずかしがることもないくらいさせれた。
おかげで鬱血の痕が消えることなんてない。まぁソレが男娼らしくてそそるとか、クロスの大馬鹿野郎は言ってたが、その前に俺は男娼じゃねェんだよ。
そこを気付け、バカクロス。
するりと上衣を脱がされた。少し肌寒い空気が肌に触れて、いじられてない方の突起まで勃ち上がる。
―――…胸触られただけで腰が浮くってのは、やっぱり不味いかね?
まるで俺が欲しがってるようで酷く心外なのだが、クロスに慣らされた身体は俺が知っている以上に淫乱らしい。お前に会う前はあんなに清らかだったのにな。
何故だ?
男の手が俺の胸を揉む。きゅっきゅ、と指先で摘ままれた突起が痛いぞ。
時折舌が絡まり吸うと小さく声を上げてしまう。
「………っ、ん」
あクソ。少し気持ち良い…。腰の辺りがびりびりする。
じれったいようなその愛撫に俺は胸を反らす。男は驚いたように目を見開いたが、すぐに細くして笑い、突起に歯を立てた。
「あっ…」
摘ままれるより刺激が強い。
クロスも少しくらいコイツを見習ってくれたらなァ、なんて思うのは俺だけかな?
「じれったい?」
「ん…、んん」
あァ、男同士でこんな事するのは常識的ではない、とは言え、もっとこう…普通のセックスがしたいよなァ…。クロス、根っからの変態だし、普通のセックスがしたい、何ていったら間違いなく毎日足腰が立たなくなるし、その癖にクロスってば仕事しないわ家事も出来ないわ、どうしようもないからな。
いくら元帥で強くて格好良くてもな、すんげェ悩むよな。
「腰が浮いてる………。淫乱、なんだね、顔に似合わず」
えェ、よくクロスとかクロスとかクロスとかに言われます。すんげェ心外ですけど。
臍の下あたりを指で押され、その下、ジーンズのボタンの辺りを指が這う。
……くすぐったい、ぞ。
「クリス…興奮してる?」
さァどうでしょう? 俺的には結構冷静なつもりなんですけど。
男の手が片手で器用にボタンを外してジッパーを下ろす。そしてそこから手を入れ込むから敏感な所に急に触れられて思わずギュッと目を瞑った。
息が詰まる。
男の手は思いのほか冷たくて……………、そこまで考えて、急に頭だけ冴えてしまった。
あ、そっか。コイツ、死体なんだっけ。AKUMAだもんなァ、死体……で、間違ってはないはずだ。
「……いやッ…ん、じらさ…ないで、」
身体も辛いし。
「…えっち………」
それでニヤニヤ笑ってるお前はどうなんだって。
しかもお前、なんか変なものが当たってるって。
額に唇を落とされて、反射的に目を瞑った。そのまま啄ばむように身体中にキスを降らせる男の背に腕を回して。キスと同時に股間を揉む快楽から目を反らしたくて爪を立てる。
「ぁ……っ、もう…」
出したい、なんて思ってしまって何時もの癖で懇願してしまう。ぁ、いやさ、だってそうしないとアイツ許してくれないから。
「お願い…ッ」
恥ずかしいから相手の首に腕を回して抱き寄せて、その耳元で小さく囁く。
ぁ…、マジで言葉にしたら出したくなった。
そうなったらどうしようもなくなって。
潜り込んで直で先ほどから弄って悪戯している掌に腰を押し付ける。
押し付けて擦り付けると快楽が脳まで直接キて、腰が震えた。
「ん…っ、あ、」
小さく嬌声をあげて、あと数回扱き上げてくれればイケるというのに、どうやら俺は運が相当悪いらしい。
バンっ、と力強くドアが開いて、
そこで見慣れた紅い髪が視界の端で揺れたと認識した瞬間に、俺の上に覆いかぶさっていた男が向かいの壁まで吹っ飛んだ。
…………あーあ、こりゃ散々泣かされて声嗄れて明日立てないくらい犯されてそれでいながら1回しかイカせてもらえない、みたいな展開っぽいですネ。
「…クロス…?」
もう動くのも面倒くさくて、呼んで見上げるとクロスが怒っているのがわかった。
あァもう、お前が来るの遅いからじゃねェかよ。
「よう、クリス。随分楽しんでたみたいだな」
皮肉に唇を歪める。てめ、この、お前、遅い遅いと思ったら見てやがったな、この覗き!
だから俺も皮肉ってやった。
「あァ、滅多に普通のセックスって味わえないからな。新鮮で良いもんだと…」
「…ほう?」
……………げ、思いっきり地雷踏んだ感じ…?
「お前が普通のセックスで満足できると思ってるのか?」
いや、そうやって何かを盛大に含んだ顔で笑うなよ。知らねェよ、お前、どんだけ遅くても挿れられる前には来るもんな。
「クリス」
何を言われるのかおおよそ分かっているだけに、俺は聞きたくないんだが。でも無理だろうな…、だってもう「断罪者」出してるもんな…。
「今日は厭っていうほど普通のセックスをしてやろう」
…おや、少しまともだ。
「1回や2回だと思うなよ。お前がイケなくなるまで相手してやる」
―――…やっぱり全然まともじゃなかったな。
「クロス、それ普通じゃないような…」
「安心しろ、お前が満足するまで付き合ってやるから」
いやいや、普通は精巣空になるまでイカせるとか言っちゃってる人のことは変態って呼ぶんじゃねェのかね? それ、間違いなく普通じゃねェぞ。
つか、普通の人は死ぬんじゃないか…?
「お前なら大丈夫だろう。いつもやってるもんな?」
間違いなくお前の変態嗜好のせいだ。俺はそんな変態的なプレイ、好みでもなんでもないぞ。苦しいし。
「まァ…その前に塵の掃除か」
あ、この野郎、無視しやがったな。
対AKUMA武器の照準を男の脳に当てるクロスを見て、俺は溜息を吐くしかできなかった。
あーあ、俺、いつになったら普通の道に戻れるのかなァ…。
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