悠久の丘で
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Founder in the world

「ミス・ミランダ、お願いします」
「わぁ、すごいねー」
「ありがとう」

 私の中に入り込んで、私の中に私のための完全なる世界と足場を作ったのは、そう言った2人の少年と1人の少女だった。


  *


「お願いです!」
 アレン君が倒れて、黒の教団からコムイ、と言う人と紅い髪の少年が来た。私はアレン君の眠るベッドのそばに座って彼の無事を祈るしかなくて、リナリーちゃんには面接も出来なかった。
 脳への直接的な刺激が原因らしい。彼女もまだ目を覚まさない。
 クリス君はアレン君とリナリーちゃんを病院まで運んでそのまま椅子で眠り続けてしまった。
 あの、非日常が私の世界にやってきて、もう3日もたつ。
「…私がイノセンスの適合者だと、アレン君達に聞きました…」

 全く、どうしてこうも。

「私の時計が、イノセンスだって事も」
 コムイさんの目が驚きのためか見開かれる。

 彼らは私を掬い上げてくれた。
 自分の中にすら居場所を持たない私を助けてくれて、私に居場所をくれた。
 自分の中にすらなかった足場を、彼らが作ってくれた。

 知ってるわよ。
 出来ないくせにいつもやろうとして、そして駄目で、いっつも苦しむんだわ。
 出来合いならやらなければいいのに。
 だけど私は…

 今、私の足場でちゃんと立っている。
「私も、戦わせてください…」

 頭を下げた。
 仕事もろくに出来ない私だけど、彼らは私に「ありがとう」と、言ってくれた。
 私が言われる事のなかった言葉を、彼らがくれた。
 その時、私は嬉しかった。
「…ねェ、コムイ、失礼するよ」
 後ろでドアが開いて、振り返れば銀色が視界に飛び込んでくる。
「…クリス君!」
 彼は、大した外傷もなく原因も分からないまま3日間も眠りっぱなしだった。
「…クリス? 体は…」
「ん、大丈夫。大した怪我もしてねェし、な? 心配してくれてありがとう」
 そう言ったクリス君は確かに、最初にこの町に来たときと大して変わっていなかった。
 唯一小さな怪我すらもなかったクリス君が病院まで来てそのまま起き上がらなかったとき、私はまた世界を壊してしまうところだった。

 全部全部私がいるから。
  だからあの人たちは死んでしまったの。

 それを叱咤してくれたのは病院の人だった。
『貴女が信じてなかったら、この人たちは誰のために起き上がるんですかッ!』
 それ以来、崩れそうになる世界を引きずって3日。
 初めて1人が起きた。
「ミランダ? 言ったろ、生きてりゃいつかは怪我なんか治るんだって」
 二コリと微笑まれる。 
「…クリス、帰ったらユウに怒られるさ」
「…うん。でも…、大丈夫! 俺生きてるから」
 生きてりゃ良いだろ? そう言って笑って、クリス君は歩いてきた。
「クリス君…」
「ほら、見て」
 手をとられた。
「俺に今触れるだろ?」
 手をとられたから、コクン、と頷く。18歳の男の子の手にしては細くて、少し小さい、多くの戦場を駆けて来た手。
「な、生きてるだろ」
 もう1度頷いた。
「あははっ、ミランダ泣くなよ。ここは笑ってくれなきゃ」
 ぽろぽろと零れ落ちてくる涙が邪魔で、手で覆ったら肩をやさしく叩いてくれた。
「てな訳なんでコムイ、ミランダ嬢よろしく」
「…クリス、やっぱりクロス元帥と一緒にいたことで悪影響が…」
「ないない、せいぜいサボり癖とかそんなもんだ」
 優しい、この背中を押してくれる人。
「…これから、よろしく願いします」
「えぇ、ミス・ミランダ。私どもも貴女からそう言ってくれて嬉しいです」
 コムイさんは帽子を取って胸へと当てた。
 そして一礼する。

「ミス・ミランダ、私たちを…助けてください」


  *


『ねェ』
 クリス君が話してくれた。
「ミランダがね、イノセンスに見初められたのも偶然じゃないんだよ」
 何のことかわからなくて、私はただ呆然としていたのだけれども。
「イノセンスが人間の願いをかなえてくれるなんて、そうあることじゃないんだ」
 願い…。

『明日が来なければ良いのに』

「ミランダはイノセンスに必要とされたんだ」
 人には必要とされなかったのに? 私は必要ない人間なのに?
「それは地獄に落とされることと酷似しているかもしれないけれど…」
 口をつぐむ。

 私が必要?

「それでも、俺らエクソシストと教団はミランダが必要」
 つらいかもしれない、と彼は言った。
「…本当に私が必要?」
 でも、そんな事関係なかったのかもしれない。

 私は誰かと一緒にいたかったんだ。
 私は誰かに必要とされたかったんだ―――


 彼は、ニッコリと笑って頷いた。


  *


 アレン君とリナリーちゃんは目を覚まさない。
 それでも、クリス君は目を覚ました。
「大丈夫だね、そろそろ起きるでしょ」
 クリス君はそう言って笑っていたから、信じた。
 信じて、私は私の進む道に1歩踏み出した。

 行って来ます。私をはじめて必要としてくれた人たち。
 また今度、何らかの形で私がお役に立てるように。

 今は一度離れます。


 …ありがとう、私の世界の創立者。

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