悠久の丘で
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紅の賢者

 ボクはエクソシストです。イノセンスに見初められて戦場に立つ資格を得ました。
 だけど、今は――――…、今は此処にいさせてください。

 ハートを持つこの少年を、戦場を知らずに育てたいのです。
彼が戦場に立たずにいられるならボクはどんな事でもしましょう。


  *


 当たり前といえば当たり前。
 僕の新しい生活。

 マナと住んでいた家は売り払った。もうそこへ住む気が無いし――住めないし、かといって家の維持費も馬鹿にならないということで、出発の日に売りはらった。
 僕はクロス、という紅い髪の人を師匠と呼び、クリスはマスターと呼ぶようになった。

 出発の前の日。
 クリスはやたらと師匠に呼ばれていたので、僕は自分の荷物をつめていた。大きなトランクは僕が持つには大きいけれど、クリスが持ってあげる、といったから自分で持つ予定だ。
 たとえそれが好意から来た言葉でも、好きな人に持たせるのは小さなプライドが許さない。
 トランクの上に乗った。
 荷物が沢山入って口が閉まらないトランクも体重を掛ければどうにか閉まる。
 師匠とクリスはなんでも大人な話し合いとかで、来るなと言われたから、クリスが来るまで僕はクリスに会えない。
「…クリスに触りたいな…」
 師匠が着てからあまりクリスに触ってない。一緒に寝てるから夜中は触れられるけど、それでも足りない。
 クリスはきっと分かってないんだ。
 僕がクリスと一緒に寝たい理由とか。

 本当はクリスに触れて…、滑らかな肌を愛撫したい。綺麗なクリスの肌に唇を落として自分のものだと主張したい。師匠がクリスの髪に触れるだけで嫉妬で胸が焦がれそうになる。
 クリスの乱れない吐息を乱したくて、肌に触れて味わって犯したくなる。

 今はまだ何もできてないけれど、僕がクリスにしたいことはそういうことだ。
 クリスは綺麗だから不安になる。僕の知らない間に別の男に犯されていたらとか、そういった類のことを考えると、その相手の男を殺したくもなる。
 いっそ、今日にでも彼との今の関係に終止符を打ってしまおうとも考える。
 それが出来ないであろう理由は彼が好きだから、の一言で終わるが、それでもやはり師匠が気になる。
 あの人は、なんとなく危険な気がする。
「…師匠なんか嫌いだ」
「あれ? アレン、マスターのこと嫌いだったのか?」
 後ろから声が聞こえて、振り返る。
「クリスっ!」
「…アレン? どうした? 大丈夫か?」
 名前を呼んで抱きついた。腰と首が細い。眺めの髪も手触りがすごくよくて、気持ちいい。
「師匠とのお話終わったの?」
「うん。一人にしてごめんね」
 頭をなでられた。本当は子供にするようで嫌なんだけど、クリスだから好き。
 クリスに触れられると気持ちいい。
「クリス大好き…」
 ぎゅっと抱きしめる。もっと身長があればクリスとキスだってできるのに。
 身長が低い僕はいつも思う。
「アレン…。ボクも好きだよ」
 だから、クリスからしてくれるキスはたとえ頬でも貴重だ。
「クリス、師匠に変な事されなかった?」
「変なこと? …されてないよ」
 後で師匠に制裁を加えておこうと思った。クリスは嘘がつけないから、今の間に嫌な予感がする。
「クリス、大好きだよ…」
 クリスの為だったら誰だって敵に回せる。
「アレン…」
 クリスが僕の背に手を回した。
「マスターはね、…そりゃぁ悪魔だとか言われてたりもするけど、基本的には良い人なんだよ。これから一緒に旅をして、アレンの左手の特訓もしていかなきゃね…」
 クリスの手がそっと僕の左手の手袋をはずした。そして、紅く変色した気味の悪い手の甲にキスを落とす。
「ボクは、アレンの所にイノセンスのおかげでこれたんだ。大事にしてあげて?」
 何を、とは言わなかったが、手のことだと悟る。

 気味の悪い、親にも捨てられた――

「…大事に?」
「うん。アレンがその子と一緒にいたからボクはここにいるんだよ」
 ボクをここに連れてきてくれたのは、と優しく手の甲をなでられた。
「…うん、わかった」

 なんでも良いよ
 クリスが一緒にいてくれるなら

「それに、もう少し大きくなればもうちょっとどうにかなるよ、ボクみたいにね」
 そう言ってクリスは自分の右肩を押さえた。
「ここみたいに、あんまり目立たないようになる」
 クリスの右肩には刺青みたいな黒い線がある。曲線を描いて3本。
「これは、アレンを護るためにあるんだから」
「僕のため?」
「そう。アレンのためにあって、アレンがどこにいても大体の位置はわかるんだ。ボクは―――アレンの、『神ノ道化』の従者なんだから」
 僕にはよく、意味がわからなかった。
 ただ、クリスは僕を置いて行かないって事くらいしかわからなかった。

「クリスはずっと一緒にいてくれるってこと?」

 聞いたらクリスは僕に視線を合わせて、笑った。

「そうだよ、ボクはずっとアレンと一緒にいる」


  *


 呼んだら嫌な顔をされた。そんな表情すら癖になりそうで、にぃと笑った。
「…なんですか、マスター」
 口調からすでに、馬鹿弟子との会話をジャマされたことに気が立ってる。
 本当にアイツ以外には愛想が薄い奴だ。
「アレン、上に行っていろ」
「…それは何かボクに用事で?」
「これからのことだ。子供に聞かせたくないんだろう? 大事な王子様に」
 クリスは唇をかんで睨んでから、俺には決して向けないような笑顔と声で、アレンに上に行って準備をするように言った。
 小さな音で弟子が上に行った事を確認する。
「…アレンは上に行った。あの子、あんまり1人にしておきたくないから話が早いと助かるんですが」
「ずいぶんと温度差があるな」
「ふん、冷たい女は好みでしょう」
 そんな切り替えしが来るとは思わなくて驚いたし、あいた口がふさがらないかと思ったが、案外おもしろかった。とらえず、聞いてすぐではなく、ちょっと考えれば。
「クリス、マスターという呼び方はそそるし何も言わんが、その敬語混じりな他人口調はやめろ」
「確かアレンの今後にかかわる話だったと」
「あぁ、そうだ。その前にお前にかかわる話を」
 クリスは相もかわらず冷たい視線を送っていたが、あきらめたようにため息をついた。
「…わかった」
「んで、お前はアレンがお前に対して抱いてる感情を的確に知っているか?」
「…はァ?」
 眉が、不快そうに歪んだ。

 この様子では気づいていないだろうと、思う。
 弟子も可愛そうに。
 所詮他人だから笑ってもいられるが、本人からしたら気が気ではないだろう。


 なんせコイツは日本にでもいれば蔭間として売られていても可笑しくないぐらいに線が細くて綺麗な顔だから。


 さっきも一人前に睨んできたな、と相手にとってはおもしろくもなんとも無いような感想を漏らしてみる。
「うちのアレンをマスターと同じような目で見ないでください」
「…本当に気付いてないんだなァ」
 頬を撫でれば顎を反らした。
「アレンはすごく良い子だ。マスターみたいに女遊びが過ぎるわけでもない」
「そりゃそうだろ」
 アイツの狙いは女なんかじゃあるまい。
 教団でも1位2位を争うほどの人気者が目当てだ。
「知ってたか? お前、教団から出てってから何回も連れ戻すために隊が組まれたの」
「…知らない」
 クリスの瞳がいぶかしむ様に細まった。
「まぁエクソシストは割けねェからほとんどが探索部の人間だったわけだが」
 ウソだ、と唇が音もなく動いた。それを見て哂う。
「嘘じゃねぇ。まぁ…全部の隊がお前を見つけられずにいたわけだが」
「だいたい…ッ! そんなことして何が…」
「さァ? 室長が望んだんじゃないのか」
 前の、室長。
 今の室長は随分と子煩悩な、だがイノセンスに関しては随分と頭の切れる男だ。
「豪くお前を気に入ってたそうだな」
「…そんなんじゃ、ない」
 ほう? と目を細めてみれば悔しそうに唇をかんだ。
 銀色の髪が綺麗だ。睨み上げているんだろうが紅い瞳じゃぁそんな迫力もない。ただの綺麗な泣きそうな瞳だ。
 そういや教団で誰かが言っていた。
『クリスの瞳はじっと見ると誘われてるんじゃないかと思う』と。
 本人にはそんな気はないのだろうが、そのせいで随分な目にもあったんだろう。
「…そんな目で見るな」
「…?」
 嫌がっていたようだから頬に触れる手をどけてやった。
「あくまで教団連中の言ってた話だが…」
 意外そうな顔、たとえば百獣の王が晩飯の獲物から手を離したときのような、で見上げてくるから少し意地悪をしたくなった。
「お前のそういう目で見られると、誘ってるんじゃないかと、思うらしい」
「…うるせェ」
「はははっ」
 殺意のこもった、鋭い瞳で見られて笑みが浮かぶ。

 あぁ、こういう奴になら殺されたい

「そう睨むな。あくまで教団の連中の事だ。俺じゃァ、ない」
「ンなもん知るか」
 髪が黒に変わっている。
 日本には黒髪の奴なんてゴロゴロしてるが、こんだけ綺麗な漆黒も珍しいだろう。
「それ以上セクハラ紛いの事を口に出してみろ」
 クリスの黒髪はイノセンス発動の合図。
「たとえマスターだろうがその脳、飛ばすぞ」
「弟子の前での口調より、そっちの方があっているな」
「うるせェ。アレンには汚い言葉なんか覚えて欲しくない」
「まぁ…、そうだろう。お前が言うから似合うんだろうな」
 こんな綺麗な顔でそんな言葉を言うから燃える。
「…マスター、あんたもアレンの前で汚い言葉使うの禁止な」
 溜息をつかれた。考えてる事でも分かったのだろうか。
「ボクはあの子を綺麗に綺麗に育てたいんだから」

 もう遅い、と告げるのは優しさだろうか。

 とりあえず、告げなかった。コイツがもう取り返しがつかない時に知れば良いと思った。
 それはすごく楽しい事だ。
 その時に、弟子がどんな顔をするのか、クリスがどんな顔をするのか。
 想像は尽きない。
 笑いそうな顔でもしていたんだろう。
 クリスは不審そうな目で見て、何を考えてる? と聞いた。
「…なんでも」
「なんでもない、じゃないだろう」
「聞いてどうする?」
「文句を言う」
 サラっと言われた言葉に笑った。楽しそうだと思った。
「貯金はどれくらいある?」
「…いきなり話が変わったな…」
「さっさと言え」
 ぶつぶつとクリスは何か言っていたが、観念したのかその金額を言った。
「確か今は…6000ギニー…」
「随分あるな」
「浪費家、使うなよ。あれはアレンに苦労させたくなくて貯めてる奴だ」
 びしっと指を突きつけられた。
「知ってると思うが…」
「あんたと一緒に行動するなら請求書は教団に送れない。そんなコトは知ってるし、だけどボクは室長から連絡が来たときに思ったんだ」
 通帳はマスターだけには渡さない、と言われて苦笑したが声のトーンが下がって笑うことを止めた。
「マスター以外のエクソシストだったら、アレンを有無を言わさず連れてってた」
 細い腕が首に回る。帽子が、落ちるかと思った。
「だから、ボクは来たんだったらマスターがよかったんだ、マスターの事は教団にいたときに聞いてたから」
 彼が教団にちゃんといたのはもう5年も前の事になる。その時から1度も連絡を入れていないのだからクリスだって、同じだ、と思う。
「マスターだったら、アレンをあんな牢獄に入れることもしない。教団嫌いはそれくらい有名だったから」
 知ってるか、と問われた。
「…何が」
「マスター、ボクが教団にいた8年間、1回しか教団に帰ってきてないんだ」
 勿論、ちゃんと教団にいたときにだ、と付け足される。
「マスター、あんたでよかった…。アレンと一緒にいられる」
 きゅう、と腕に少し力が込もる。最初に頬に触れたときの嫌がりようからは考えられない。そして、同時にクリスに入れ込んでいたらしい前室長の気持ちが分かった気がした。
 相手は19の男だ。
 そんなコトが脳から抜けてしまうくらいにこの体は柔らかかった。
 筋力がない訳じゃない。なのに、柔らかい。
「マスター、ありがとう」
 頬に薄い唇が押し当てられた、と思ったら、クリスは腕の中から消えていた。
 階段を上がる小さな音がするということは、彼の大好きな王子の所にでも行ったのだろう。

「…ったく」
 弟子の彼に対する愛情は肉親のそれとは違う。明らかに違う事を、分かっている。…本人以外は。
「弟子も可哀想に」
 小さく呟いたが、それは同情なのか励ましなのか分からなかった。


  *


 差し伸べた手は空を掻いた。
 かわりに優しく抱きしめられた。

 新しい、日常がまた3人で廻る。

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