悠久の丘で
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03.不純な議題、だけど正論

 目の前の布の山。
 俺に何をしろと言うのかすら理解不能。


  *


「なぁ、サニー」
「……クリス、この大量のよくわかんねーもんは何だ?」
「あ? 服だよ。ぜーんぶ貰ったんだ」
「持って帰れ」
 どっさり服だと言う物を床に落として首を傾げる仕草が可愛いとか、本当に腹立つ。
「えー、何でだよ、サニーちゃんも手伝って!」
「お前、断言か」
 何でだよも何もない。
 此処は俺の部屋で間違いないし、クリスの部屋は別にある。さして広いとは言えないがそれでもIGOから与えられた部屋の床、殆どを覆い尽くす布を見たら、誰もがこう返すに違いない。

「断言だ」
 しかし唯一その返しを受け入れないクリスはどや顔で胸を張る。その笑顔と言ったら……俺の美しもん好きも醒めるくらい。

「…トリコとかココが居んだろ」
「ダメなんだよ、あいつ等のプレゼントも混じってんだもん」
 あっさり返された言葉に頭が痛い。
 けろりとした顔で返した言葉が一体どんな意味を持つのかコイツは本当に考えた事がないのだろうか。
 昔から俗に言うアレ。
「それにさ、届いてる奴の殆どがIGO加盟国のバカ共なんだぜ? すっげー金掛かってそうな石付いてんのもあるし」
 ひょいと細い肩を竦ませ。
「俺に服贈ってナニしたいんだか」
 やーらしい、とけらけら笑う顔。
「俺、男なのになー?」
 若いからかな、なんてなんの冗談か呟くコイツが怖い。
 漸く肩を過ぎたくらいの銀糸を掻き上げくるっと纏める。纏めきれなかった分が1房クリスの肩に流れた。
「それに俺じゃ上手く着れねーし、サニー、美しいもん好きだろ?」
 な、お願い、と顔の前で合わせられる手の平に弱いだなんて、誰に言われずともわかっている弱点。
 こうして毎回恒例行事に片を付ける羽目になるのだが、果たして俺はいつになったら悟れるのだろうか。

「……今度なんか奢れよ、クリス」
 じーっと見つめて拗ねたように言えば、ぱぁっと顔を輝かせ抱き締められる。
「流石、サニーちゃん! ありがと、恩にきる!」

 溜息しか出ないが、俺らよりもあどけなさが残る最年長には勝てない。
 きっとこんな事がこの先も遠慮なくあるんだろう、なんて、まだ1人立ちさせてもらえない束縛された動物にだってわかる。
「サニー、サニー、似合う?」
 がしがし髪を掻いてから、にやにや笑いながら服を当てるクリスに向き直り、即刻趣味の悪い服を捨ててやった。


  *


 あれから10数年経った。
「サニーちゃん、また溜まっちった」
 へへ、と笑みながら、今度は俺の自宅に服をぶちまける。
 少年期の線の細さを記憶しているから大分成長したとも思うが、如何せん周りに居るのがココやトリコ、ゼブラではまだまだ細いまま。
「…で? なんで俺ん家に来るんだ?」
「サニーが好きだからー」
 そんな戯言まで言うようになって、確かに成長はしている。しかしもう少しで三十路の四天王最年長者がこれでは、と脳の隅で思ったりもする。
 ここで、俺だって好きだし! と言わなくなった俺も、大分成長した。
「で、今回は何してくれんの? クリス」
 途中から、この時間と引き換えにクリスにご褒美を貰うようになった。
「何でも良いぜ。サニーのお好きなように」
 前回はキューティクルベリー、一緒に取りに行ったよな? なんて首を傾げる。
 なかなかクリスと狩りに行けないから、なんて考えてその条件にしたが、捕獲レベル20の筈の野生のキューティクルベリーは、クリスの食運であっさり見つかってしまった。
「……ンじゃ、俺と一緒にライフに行くって条件で、引き受けてやってもいーけど?」
 極力平静を装って言う。
 ココがいると折角装った平静もあっさりバラされるから嫌いだ。
「ライフ…? サニー病気…怪我…、じゃなさそうだから美容か? ま、良いぜ、一緒旅行な」
「約束守れよ」
「なんだよ、破った事ねーだろ?」
 ライフにゃ鉄平も居るしな、なんて呟きは聞かなかった事にして。
 嘘は吐かれた事はなかったが、約束が思ってもみなかった結果になって帰って来ることは多々ある。
「―――…破った事は、な。いーか、2人で、だかんな!」
 指を突き付けて告げれば苦笑しながらもこくりと頷く姿が確認できた。
「おう、サニーと2人で」
 にこっと微笑まれるから、何度も何度も繰り返されるこの行事も楽しみとすら感じられる。

 しかしながら、毎度急に来て不純な正論と服をぶちまけていかれるのも困る、なんて思った。

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