悠久の丘で
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銀色の天使
ボクはエクソシストです。イノセンスに見初められて戦場に立つ資格を得ました。
だけど、今は――――…、今は此処にいさせてください。
ハートを持つこの少年を、戦場を知らずに育てたいのです。
彼が戦場に立たずにいられるならボクはどんな事でもしましょう。
*
「…マナ、アレンは何処に行った?」
午前中から姿を見ていない。キョロキョロと辺りを見回して、彼の養父であり、ボクを家族のように扱ってくれるマナを、呼んだ。
「ん? アレンかい? たしか…今日は川の方に行くって言ってたなぁ」
「リョーカイ」
そう言うと、家事の最中でしていたエプロンをはずした。
「じゃ、そろそろ御飯にするでしょう? アレン、呼んで来るね」
「あぁ、いってらっしゃい」
マナは大道芸人だ。
ボクとアレンはマナに拾われて、――最もボクは帰るところが、帰るべき所があるから拾われたと言うには少し違うけれど――一緒に住んでいる。
ボクがここに来た理由は簡単だ。
ボクのイノセンスはイノセンスに魅かれる。
イノセンスが、ボクのイノセンスに惹かれる。
ボクに大元帥から与えられた指令は―――…
*
寒い。もう冬が近いんだ。暖房の入っていた家から出るなり冷たく身に刺さる冷気に首を竦める。
アレンの姿を探してコートを翻らせ早足で歩いた。最近マナの体の調子は良くないらしく良く咳き込んでいるし、アレンには悟られないようにしてはいるが、時折血も吐いているようだ。
体の中の…肺か。もともと余り体の強い方ではないマナにとって、冬は一種の山場らしい。
酸素を空気中から摂取するのと同時に刃のような冷気が体中を刺す。
コートの襟を立てるが白い息は止まらない。
恐らくは部屋のクローゼットの奥底の方に押し込んで人目につかないように封印してあるあの”コート”なら、寒さを感じることもないのだろうが。
だが、寒さを感じたほうがましだった。
あんな、神の使徒の証などこの身だけで十分だ。
アレンと対になる右腕にはまった十字架。もっともシンクロ率が限りなく高められたので、あれほど目立つわけじゃない。それどころか、腕自体は左右どちらとも見た目は変わらなくて、1つ違うのが甲にはまった黒の十字架だ。
ダークマターに作り変えられし、イノセンス。
これはAKUMAを破壊した際にイノセンスに戻ったが、それでも業は消えず、黒ずんだ色をしている。
それが、2個目。
もともとこの世に生を受けたときから好みに宿るのは咽喉だ。
咽喉に埋め込まれるようにしてあるイノセンス。
寄生型イノセンス2個に犯された体だけで十分だ、神の使徒と証なんて。
おかげでやたらとイノセンスに惹かれるようになってしまった。
それが未発見のイノセンスであれ、すでに持ち主を決めたイノセンスであれ、この体は反応する。
逆に言えば、そのおかげでアレンにあったのだ。
自分と同じ、イノセンスを身に持ち生まれし幼子。
「アレンどこまで行っちゃったんだ…?」
川の周り。
いくら見渡しても彼の綺麗な茶髪は見えない。アレンにおいて黙ってどこかに行ってしまうなんてことは考えられないし、それなら考えられることは1つだけだ。
「…ッうるさいんだよ! いっつも女男の後ろに隠れてるくせに」
耳を澄ませば、浅はかな子供のことだからすぐに居場所なんてわかる。
時と場合を考えて場所も選ばずに、声のトーンも変えない。
こういうとき、そんな子供の浅はかさがクリスには愛しく、そして目障りだ。
アレンの居場所。
「…またあの糞餓鬼ども…」
いない時のたいていの居場所は知っている。
アレンはいないのではなく、連れ去られたのだ。
クリスは走った。愛しい我が子の為に。
*
さて、問題といえば1時間ほど前。
アレンは確かにマナへ言ったとおり川にいた。川にいて、集めものをしていた。
それがなんだ、急に周りを大勢の自分より少し年の上な少年たちに囲まれたかと思ったらこんなところまで。
人知れず舌打ちをした。
もう、陽は落ちかけている。いつもならクリスがそろそろ迎えに来る時間帯だ。
「…クリスが心配するのになァ」
ぼんやりとそんな事を考えた。
「聞いてんのか?」
ぐぃ、と何の遠慮もなく髪を掴まれイライラしていたから睨んだ。
「…なんだよ、1人じゃ何も出来ないくせに!」
あぁ、子どもってバカだ。
「…何も? 笑っちゃうよね」
本当はクリスがそろそろ来るだろうからやりたくないんだけど。
「本当にさァ」
脅えたような顔をした。
そりゃそうだろう、いつも大人しくしてやっていたんだ。
何も口答えせずに、クリスの事を待って。
クリスはそうしたら必ず優しく抱き占めてくれるから、利用していたのだけど。
だけど、今日は限界だ。
「クリスの悪口言ったね…?」
にっこりと微笑む。
クリスほど綺麗な人はいない。きっと彼の涙なら真珠にだってなれるだろう。
「僕、いい加減手ェ出していいよね?」
自分の事だけならまだしも、クリスの事を言われて我慢しろだなんて。
そんなの無理だ。
僕の大切なクリスに手を出したんだ。
覚悟はしてもらわなきゃ。
「…アレンっ!?」
大好きな声が聞こえて身を縮ませた。びくりとして振り返った。
幻聴かと思ってびくりとするけれど、愛しい彼の姿が視界に入って幻覚でもなんでもないことがわかった。
「クリス!」
名前を呼ぶ。
相手側に伸ばされたては引っ込めた。
いつもの顔でクリスを見る。
「なんでそんな所にいるの!」
「アレン、何もされてない?」
クリスの声は凛と、通る。クリスが来てから取り囲んでいたはずの少年たちの反応がおかしい。
何故か廃工場の高い位置にある窓の桟に足を乗せたクリスを見上げる。
「大丈夫だよ」
心配なんてさせたくないから首を左右に振る。
そんなことよりも、何であんな高いところにいるんだろう。
そう思っていたら、クリスがそのまま工場の中に入ってきた。
「…クリスッ!?」
長い髪と黒の細身のコートが舞い上がる。
「アレン、怪我とかない?」
器用に地面に降り立ったクリスは、本当に綺麗だった。
やっぱり、僕は彼が大好きだ。
親族の情ではなくて、もっと、違ったどろどろしたもの。
きっとクリスは知らない。
「…あぁ、アレン怪我してるじゃないか」
「え、何処に?」
「ここ…」
そういうと、頬に唇が押し当てられた。その時に頬に引きつるような痛みが走る。
「…こんなに器用に、綺麗な一の字を自分じゃァ書けないよねェ?」
クリスの周りの空気の温度が下がった。
「ね、糞餓鬼共」
クリスが微笑む。本当はそんな笑みでさえ見せたくなくてどうしようもないのに、クリスに知られたくなくて諦める。
だって、クリスが困ってしまうだろう。
僕はクリスの事を1人の男として好き、だなんて。
今は護る力だってない。
「…俺らはやって…」
「はぁ?」
1言で黙らせた。
「ボクは、ボクが攻撃対象になるなら何も言わないんだ」
脅えたように1歩引く少年達。
「でも、ボク以外の誰かに手を出したら許さないって、言ったよね?」
「に…、逃げるぞッ!」
そんな陳腐な言葉が最後だった。
クモの子を散らすように逃げた少年達を追う気はさらさらないらしく、クリスはすぐにこちらを向いて膝を折った。
「…アレン、痛い?」
クリスの方が、よっぽど痛そうな顔をしている。
彼の頬に触れた。
「大丈夫だよ、クリス。僕はクリスが来てくれたから大丈夫」
「怪我は…少し残っちゃうかも知れないね…。綺麗な肌なのに傷でも残ったらどうしてくれるんだろう」
「クリス、僕、男だよ。それより僕はクリスに傷が残る方がイヤだな…」
さらさらの髪の中に手を入れて。大好きで大好きで体を繋げてしまいたいほど好きな彼を小さな手で抱きしめる。
彼の背はボクが首を真っ直ぐ上げて見なければならないほど高くて、でも、マナよりは小さい。
小さい自分の手を、体を恨みそうになりながらクリスの体温を感じる。
すごく、暖かい。
「…なんでボク? ボクは残っても大丈夫だよ」
「僕が嫌なの!」
綺麗なクリスに傷なんて。
ぎゅう、と抱きしめると、そのままクリスは僕を持ち上げた。
「…わかったよ、怪我はしないように気をつける。ほら、アレン、もうご飯の時間だ」
一気に視界が変わって、恐らくはクリスの視線と一緒の所まで上げてもらった。
「今日は何?」
「今日はお魚。バターで焼いてみた」
「へー、美味しそうだねぇ」
「うん、美味しいといいなって思ってる」
クリスが可愛らしくえへへ、と笑った。
ご飯とか、そういうのはどうでも良くて。
クリスが笑ってられるなら、なんでもいいや、と思えた。
「クリス、今日も一緒に寝ようね」
「ん? いいよ、寒いもんね」
他愛もない約束をして、家路を歩いた。
明日も今日みたいな日が来ると良いね。
僕とクリスとマナがいて、今日みたいに幸せに暮らして。
夢物語だと、気付けなかった僕は、愚かだろうか?
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