悠久の丘で
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黒の居城


 大嫌いだ、と言った君に無理を強いたのは僕だ。
 大嫌いだという所に彼を墜として、今、世界は成り立っている―――。


  *


 高いきりたった崖の上。その上にただ立ち、下の景色なんぞを呑気に眺めている輩がいた。肩の辺りを飛び回るのは丸い胴体に翼をつけ尻尾がふわふわと浮く奴。その色は銀で、すぐ隣に立つ主人の髪の色にそっくりだった。
「もうちょっとだな、キャットニーズ」
 ふわりふわりと風に流れるように銀色の物体は動く。主人の言葉も気にせずふらふら動く。
「…だからお前と2人で回るの嫌なんだよ。せめてもう1人つけて欲しいところだったぜ…、コムイのけちんぼ」
 風が吹いて寒かったのか、銀色のゴーレムの主人は黒のコートの襟を立てて首をすくめた。
「キャットニーズ、行こうか。そろそろ帰らないとユウちゃんが怒るもんな」
 ゴーレムは何も言わずに、1人先に行ってしまう主人の後や前を気ままに飛びながら、ついて行った。


  *


「アウトォオオ!!!!!」
 白髪の少年の前で門番はそう、叫んだ。
 そんな光景をドキドキわくわくしながら見守る幾人か。…実際の所、わくわく所ではないのだが。レントゲン検査でアウトなんて、指し示すモノは1つ。
 すなわち―――
「AKUMA!?」
「単身の乗り込みなんてありえねェだろ…城内のエクソシストは!?」
 映像を見ていた面々は慄きどよめいた。
「安心せい」
「神田がついたわ」
 確かに、外から映像を送ってくるゴーレム達の間に黒の長髪の青年が映っていた。黒のコートの前を閉めもせず素肌に巻かれた包帯がなんとも妙だった。
 色気があるのかないのかわからない。
「1人で来るなんて大した度胸だな」
 すでに戦闘態勢に入り、相手を斬る気満々である。
 そんな時、研究室に通信が入った。ソファに座り前を陣取っていたリーバー班長はその相手を知ると相好を崩した。
なんとなく、ほんわかとしてしまう。そんな状況ではないのは百も承知だったのだが。

「うィーす、久しぶりだな」
『あぁ、今回はちょっと長かったからな。リーバー、元気だった?』
「んー…、あぁ。一応」
『…一応、ね。まぁコムイのせいなんだろうから敢えて何も言わないけど健康は損なわない様に』
「…リョウカイ」
『よし、いい子だな。あ、と、そんでさ。今門のところに白髪クンいるでしょ』
 思わず、モニターの方へと視線が行く。何故かみんなの視線が交互に注がれる。
 モニターと、自分と。
「いる…、けど、クリスお前何処にいるんだ?」
『え、見えるくらい近い所? ほら、白にしたって銀にしたってここなら良く見えるじゃん』
 コムイは興味津々、といったように手に持ったコーヒーを口に含みもせずリーバーのインカムを見る。
「クリス? 僕だけど」
『あ、コムイか。いるんなら話は早い』
「…君が僕につながなかったんじゃないか…」
 コムイの小さな呟きはあっさり無視された。それに泣く所なのか少し悩んで、それは今度にとっておくことにした。
『アレ、正真正銘クロスの弟子だぞ? それに手紙も行ってる筈だ』
「ですってよ、室長」
 リーバーがそう言って見上げる。コムイは先ほどと同じように首を少し傾げ、キッパリと首を横に振った。
 モニターの向こうではすでに神田が白髪に切りかかっていた。
「ん、ない! だって、僕は受け取ってないもん」
『…その手紙、クロスの野郎が出しに行くの面倒くさいとか言いやがるから俺が出したんだが』
「そこの君!」
 言葉は早かった。そして、自分の言葉を撤回するのも早かった。
「僕の机さがして」
「えっ!? アレをですか…?」
 科学班の1人が嫌そうに言った机の上には紙の山。何が埋まっているのか、全くわからない。
 じぃー、と全員の視線がコムイへと集まる。
「僕も手伝うよ!」
「室長、たまには机の上、片付けてくださいよ! …本当に悪いな、クリス」
『んー? その言葉はあの白髪ぼーやに言ってあげてくれ。ユウちゃんってば、切っちゃったみたい…。
俺早急に門に行くから、開門しておいてな?』
「あっ、ありました!」
 可愛そうにも巻き込まれた科学班の彼の言葉で、コムイが顔を上げる。
「読んで」
「はい。
 『コムイへ。近々アレンと言う餓鬼をそっちへやるからよろしく頼む。
 ついでにクリスの奴もそろそろ帰る気らしいぞ。 クロス・マリアン』」
「だってさ、リーバー君間違いじゃない。ほら、神田君止めて」
「俺のせいじゃないじゃないですか! …ったく、神田ァ! やめろ、間違いだ!」
 モニターの中では白髪の少年と神田が戦っている。…正直に言って、神田が一方的に壁に押し付けて刀で喉元を狙っている。
 新入の命が危ない。


  *


「本当ですよ! クロス元帥から手紙がいってるはずです!」
 ピタリ、と神田の刀が止まった。喉元スレスレで、首の皮1枚切れていてもおかしくないくらいに薄い刃が近い。白髪の少年――アレン――は、冷や汗と共に今ここである命に感謝しそうになった。
「…元帥から?」
「はい、コムイって人宛てに」
 神田はゴーレムを振り返り怒鳴りつけようとした所で上から降ってきたモノに潰されかけた。
「ユウ、ただいま!」
 別に肥満体型とかではない。
「…クリス」
 ただたんに勢いの問題だ。
「ユウが帰るっていうから急いで来たんだぞ? わざわざ帰宅時間合わせた奴に対しての言葉じゃないよな?」
 にっこりと笑った。今までの態度はどこへ行ったのか、刀を振り回していた男が急に大人しくなった。
 あれ? と首を傾げるも理由はよくわからない。ただわかるのは、随分綺麗な人だ、と言うことだけ。
 銀色の長い髪をポニーテールにしていて、笑んで細まる瞳は紅。長い、男と似た形のコートを着ている所を見ると、エクソシストなのだろう。
「そっちの子は大丈夫? ごめんね、ユウちゃん任務終わったばっかで気がたってるんだ。いつもはこんな乱暴な子じゃないんだよ?」
 そう言われた瞬間、男は目を見開いた。
「俺はクリス、こっちは神田ユウね。よろしく、アレン君?」
 悪戯っ子のように目を細めて微笑まれた。後ろで門があく。
「どうして僕の名前…」
「クロスから聞いてるから、じゃぁ理由にならないかな?」
 …あの師匠に、物が聞ける?
「…えっとォ、一応本当にアイツから聞いたンだからな? それにぶっちゃけお前がクロスのとこに来てからも何回か行ってるし」
 そう言い訳でもするようにクリスは言った。頬をかいて困った様に言う様子がなんだか可愛らしい。
「…いや、疑ってないですよ? ―――ただ、師匠に普通に話せる人がいたなんて…しかも女性で、なんて初耳なだけで…」

 …金借りる女性は沢山いたが。

 斬りかかってきた男――神田というらしい――は苛立たし気に引いた刀を構え直した。
「…クリス、許可をくれ。許せん」
『神田クンくれぐれも殺さないよーに。半殺しまでは許すよ〜』
 ゴーレムから、声が聞こえた。だけど咎める色はほとんど皆無である。むしろ肯定していて、何が起こっているのかよくわからない。するとがいが申し訳なさそうに言った。開いた門から誰か出てくる。
「…ごめんなァ? 俺、男なんだわ」
「…嘘」
「ほぁーらぁ! 神田も攻撃終わり。おかえりなさい、クリス」
 出てきたのは女の子だった。すらりとした足が美しく、黒の長い髪はツインテール。
 神田の頭に軽く持っていたボードをぶつけると、がいのほうを振り返り、にっこりと笑った。
「ただいま、リナリー」
 それにがいも微笑み返す。


 益々、師匠がここに帰りたくない理由が分からなくなった。

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