悠久の丘で
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俺の世界をゆっくり壊す

 親が死んだ。AKUMAに果敢にも向かって行って、だ。
 俺だったら、殺せたのに。
 血の海の中で、俺は初めて戦う、という事を知った。

 早く、早く。―――早く俺をあの子の元に返して。


  *


 街に下りるまでに、奴のプライドが許さなかったのか俺に脅された男の表情は元に戻っていた。それでも最初と異なるのは、やや俺に怯えたような視線を送っていることと、ファインダーに対する見下したような言葉を利かないこと。
 その方が静かでいいから、俺は特に何も云わない。
 此処にはリナリーが居ない。だから、俺はどんな俺でも居られて、リナリーの元に返るまでに流した血もこびりついた血も全て洗い落としておけばOK。

 ―――本当は、幾ら洗い流したってこびりついたものは決して拭われる事なんてないって事、知っているのに。

「それで…問題の歌う城ってのは…」
「あそこに御座います」
 駅を降りてから街に入り、それなりに賑わう小さな街。
 その位置から首が痛くなるくらいあげて、漸く濃い緑の果てに塔らしきものを発見する。
「―――でかいな」
「実際には此処から城までかなりの距離があります。そしてそこにイノセンスと疑わしきものが」
 黒々としたドイツの森は広く、町にいるよりも落ち着くが、それでも広大な森には畏怖すら感じる。教団がある所は確かに修行の場として幾らかの森も有しているが木の種類のせいだろうか。ここまで黒く見えなかったように思う。
 少しだけ、リナリーと任務関係なく来たかったななんて思って首を振った。
 今は少なくともAKUMAが出現するから危ない。

「そう云えば…それには、ちゃんとした形はあるのか?」

 そう云えば渡された資料には仕組みそのものは詳細に(予測の域を出ない限りではあったが)書かれていたが、そのものが何所にあるかは記載されていなかった。
 するとトマや同行した何人かのファインダーが顔を俯かせた。
「―――ないんだな? だからこそ、イノセンスの可能性を疑ってるってのもあるのか…」
「音色は鐘のモノと同じで、ですが近くにはソレらしき鐘は見つけられませんでした」
「うん、問題ない。出来ればすぐにでも行ってソレを見たいんだけど…」
「もう薄暗いのでそれは無理かと…」
「―――此処から城までどれくらいだか分かるか?」

 薄暗いといっても、まだ日が傾いたばかり。太陽を見上げて問えば、ファインダーは申し訳そうに言う。
「此処から歩いて40分は掛かると。ましてやクリス殿の脚では…」
 言いにくそうに言われて、確かに大人祖度体力がなく足が長いわけでもない事を思い出した。
 だから、皆ファインダーは俺が話しやすいようにやや身長を低くしてくれている。

「―――40分以上か…。と云うことは何か交通機関とかがあるわけじゃないんだな?」
「馬車があるのですが、もう最終は出てしまったそうです」
 着く時間が遅かったか。
 時計を見て微かに舌打ちしてから、トマを見る。
「なら、今日は宿に入ろう。あとトマ」
「はい」
「悪いんだけど、そこで女性に声を掛けて迷惑掛けてるバカを連れ戻してきてくれないか?」
 待つ事に飽きたのか勝手に行動を始めたもう1人のエクソシストを顔も見ずに指差して、スタスタ歩き始める。
 他のファインダーが宿まで案内してくれる背中を何所かぼんやり見ながら、少しだけ視線を移して空を見た。

 空が紅い。
 太陽の光が空を燃えたように見せて、とても綺麗だった。
 あれが終わればもうすぐ闇がこの街を飲み込む。
 そうしたら―――、

「クリス殿?」
「…ぁ、何?」
 急に名前を呼ぶ若い声が聞こえて慌てて前へ視線を戻したら若いファインダーが不思議そうに見ていた。
「何か見つけましたか?」
「―――…なんでもない。空が、綺麗だなって思っただけだから」
「確かに! 凄い綺麗に燃えたように見えるんですよねー。今回この街に先に派遣されてちょっと良かった事です」
 って言っても見れたのは1日だけで、すぐに用談にとんぼ返りだったんですけど。
「…そうだな、綺麗だ」
 この若いファインダーにはよく驚かされる。
 別にこの男と任務が被ったのは初めてじゃない。もう何度か被っているはずだが、名前は覚えていなかった。


 ―――ファインダーは、AKUMAから身を守るすべがエクソシストよりは明らかに少ない。
 だから、次も会えるなんて暢気な事を思える訳ない。


「そんな表情をしていると、クリス殿も年齢相応に見えますね」
 あけすけな笑顔。
 まるで子犬のようだ。
 だから、こんな事を言われても特に反感も起きないのだろうか。
「…あんたの歳不相応よりマシだと思うけど?」
「え、俺そんなにですか!?」
「幼い」
「うっそ! 俺そんな事言われないですよ」
「皆遠慮してるんじゃないのか」
 まるで尻尾を振っているようで。

 だから、遠ざける。出来るだけ。
 俺の近くにいたら、死んでしまうから。
 身を守る術もない奴が近くにいたら―――、父さんや母さんのように。

「…それで? 宿は此処でいいのか」
「―――お? あー、もう宿に着いちゃったんですね。此処であってます!」
「そうか。案内ご苦労」
「いえ! 当たり前っすよー」
「そうか。なら俺は疲れたから寝る。入ってくるなよ」
「は……、え?」
「入ってくるなよ」
 コイツの不思議そうな顔が不思議だ。
「え…なんでですか」
「邪魔だから」
「確か俺とクリス殿、部屋一緒ですけど」
 初耳だった。
「…ん?」
「だって、クリス殿がもう1人のエクソシスト殿と『同室は断る、それくらいなら野宿する』なんて言うから」
 確かに言った。言ったけれど。
 ちょっと頭が痛くなった。別にコイツとの同室が嫌なわけではない。
 揺れている尻尾を見ると、此処にリナリーが居ないのにちょっとだけ救われた気持ちになって、リナリーに申し訳が立たないような気持ちになるけれど。


 コイツは嫌いだ。
 俺が、俺で居る為の土台を下から無条件に壊すから。


 俺はリナリーが居ない所で笑っちゃいけない。
 俺はリナリーが居ない所で人間らしくしていてはいけない。
 俺が落ち着けるのはリナリーの傍だけで、俺はリナリーの為に存在している。

 ―――だから、それを突き崩す奴は嫌いだ。

「―――…なら、寝るときに来い。飯、食うだろう?」
「クリス殿は食べないんですか?」
「あぁ、今日はいい」
 腹が膨れると寝てしまう。寝たら、夜中動けない。
 本当の俺ならばもっときつくも言えるのだろうが、なんとなく、コイツには言えない。
「…わかりました。なら、明日は一緒に食べましょうね」
 俺と一緒に食べて何が嬉しいのか、全く分からない。だけど、そう言って、やはりリナリーのように無条件で笑うから断れなくて。
「…暇だったら、な」
「はいっ」
 どうせこうして約束させられる。
 以前の任務でも似たような事があったような気がする。
 だけど、考えても仕方がないので特に考えない事にして、長いコートを翻した。


  *


 この街はおかしい。
 部屋に入ってから、扉が閉まる事を確認してから窓を開けて、口の中で小さく呟く。
「―――…『嗜好と共にその命を狩る死神よ、刃にて首を断て』」
 肌がぴりぴりする。
 人が居るのに居ないようなこの妙な感覚。

 もしかしたら、
 ―――もしかしたら、

「すでにAKUMAに呑まれているのかもしれない…」
『主殿』
「あぁ…、悪いが俺が部屋を抜けられない間、街を見張っていてくれ。なんか嫌な予感がするんだ」
『御意』
 そう言ってから、死神が笑った。

『思い出せないようだな、主殿。教えてしんぜようか』

「…何を?」
『名を』
 また死神が笑った。


 ―――名、
 あの、若いファインダー。


『憶えている筈だよ、主殿』
 忘れられる訳がないから。

 空の紅さが段々と蒼に侵食されていく。


  *


「―――クリス、頑張ってるかなァ」
「さァな。でもすぐ帰ってくるだろうよ」
「だよね。―――…うん。ソレまでに少しでも強くならなくちゃっ」
「少しずつ発動時間も延びてる。お前も少しずつ少しずつ強くなてる」
 くしゃくしゃ、とリナリーの頭を撫でてやった。

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