悠久の丘で
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旅立ちを第1歩

 親が死んだ。AKUMAに果敢にも向かって行って、だ。 俺だったら、殺せたのに。
 血の海の中で、俺は初めて戦う、という事を知った。

 彼は行ってしまった。後ろ髪を引かれるように、じっと聖女の部屋の前に立っていたことが、忘れられない。


  *


「あ、クロスさん。おはようございます」
「…よう」
 ドアをノックすると、すぐに小さな頭が出てきた。それにかるく手を上げる。
 朝、しかたなしにリナリーの部屋へといった。いつもならまだ酒を飲んで寝ている時間だ。
 だけれども、今日は活動し始める。
 それというのも、先日泊まっていったクリスが出発するときに起きてしまったのだ。
「クリスの事ですか?」
 小さい、擦れてない視線に心が痛む。
「もう行っちゃったって、事?」
 リナリーの口から出た言葉に驚いた。
「…チビ、お前それ知って…」
「だって、クリスって心配性なんですよ」
 リナリーは微笑んだ。泣きそうに微笑む。
「必ず任務の日は私の所まで来てくれて、だけど顔は見せないし声も聞かせてくれないんです」
 リナリーの手が、コンコン、とドアをノックした。
「ここに、ずっといて、何もいわないで行っちゃうんです」
 だから。
「今日の朝、クリスが行っちゃったことは、知ってます」
 リナリーは泣かなかった。
「そんな事より、クロスさん。今日暇ですか?」
「…あぁ」
「なら、付き合ってください」
 先に続く言葉は予測できた。
「早く、『黒い靴』使えるようになりたいの」
 仕方あるまい。
 多少の溜息をついて頷いた。
 どうせクリスからリナリーの事は頼まれている。
 …厳密に言えば彼がこの世からいなくなってからの事だが、別にかまわないだろう。科学班にリナリーを預けるより安全だと悟ったのだからここにきていたはずだ。
「タバコは吸うぞ」
 リナリーは驚いたような顔をして、そして微笑んだ。

「はいッ!」


  *


「リナリー、まずは体力面からどうにかしないとどうにもならんな」
 修練場に来はしたが。
「…体力、ですか?」
 発動はできる。だが、長い間持続させることが出来ない。
 それの原因の一端を担っているのは間違いなく精神状態だろうが、それにしたって短すぎた。
 溜息をついて、身体の中に含んだ煙を吐き出した。白い煙が形を作ることなく吐き出されて空気に融けた。
「とりあえず発動して…10分を目標にする」
 それだって、実践しようとすれば命を危険の前にさらしているようなものだ、と一応言っては置いたが。
 なんにしたって2分は短すぎるだろう。
「…10分…」
「外で任務に出てるやつらは最低でも5時間くらいの発動はできるようになってるが…」
 そうでもしないとすぐにAKUMAに殺される。
「5時間…? クリスも?」
「あぁ、出来るはずだぞ。…というより『言霊』じゃぁ発動しててもしてなくても分からないがな」
 そういう点においては効率が良いかもしれない。
「…へぇー…、クリス凄い」
 あぁ、と頷く。伊達にあの歳で戦場を駆けているわけではない。
 普通ならクリスぐらいの歳ならまだ教団にいるのだが、なぜかクリスは入ってきてからすぐに任務に出されている。
 やはり、発見されたのがAKUMAの屍骸の中で、しかもそうさせたのがクリスだという事実のせいなのだろうか。
 あの子が子供で、しかも両親を殺された事を失念しているのではないか。
 珍しく現れたすばらしい戦闘センスに力が偏った。
 そして事実、この教団内に任務にてクリスに命を救われた探索班、エクソシストも居るくらいだ。

 クリスはまだ6歳だというのに。

「リナリーだって、体力と練習をつめば出来るようになる」
「本当に?」
 頷いた。根拠がどこにあるのかと問われればない、と答えただろう。
「じゃぁ、クリスを助けてあげられるね」
 リナリーが小さく拳を握って、意を決したように前を見据えた。
「クリスだけ、あんなに傷だらけなの」
 『発動』と小さく口の中で言う。
 『黒い靴』が発動してリナリーの足を覆い鋼鉄の蝶へと変わる。
「クリスは怪我を治す前に外に出て行くの」
 さきほどより、力が強い。
「クリスの怪我、治さないでも良いって思ってるみたいに…」
 確かにクリスの任務は早すぎる。怪我どころか、前回の任務の疲れが取れきる前に出される。
「あんなに血まみれで」
 教団にいるな、とでも言うように。
「あんなに声を殺して泣いて」
 ”幼獣”のおかげでエクソシストを失っていないのに。
「あんなに痛いって言ってるのに」

 ”幼獣”だけじゃない。

「聞こえてないみたいで」

 リナリーだって、戦いたくないのに、それでも戦うというんだ。
 なぜなら

「守られてるだけは嫌だよ。クリスが傷ついて、平気で居られるわけ、ないじゃない」

 クリスが居るからだ。
 その小さな身を戦いに投じて、いつ死ぬかも分からない場所で生きるクリスがいるから。


「だから、私は戦えるようになりたいんだもの」


 時計を見る。
「…2分は、超えたな」
 超えて、ただいま発動から5分ほど。
「身体は大丈夫か?」
 急な発動時間の延長は命にも関わる。
「大丈夫。クロスさん、なんかね、あんまり力を使わないみたい」
「じゃぁその状態を維持してみろ」
 コクリ、と頷いたリナリーを見て、視線を外す。

 あぁ、帰ってきたら怒られるかもな。
『どうしてリナリーに危ないことさせたんだ!』って。
 あいつの過保護もどうにかならねェかな。
 どうにかならないことを知ってるから、そんなコトを思う。
 でも、きっと人間は身勝手でここでクリスがそういう事を言わなかったら変だと思うに決まってるんだ。
 本当に、見習わせたいくらいに頑張ってるよ、お前は。
 それに比べて大人は何て汚いんだろうな。
 綺麗な子供に人を殺させて、何を望むんだろうな。

 きっと、クリスはノアに目を付けられる。
 このまま育ったら間違いなく、このまま育たなくても間違いなく。
 あの子は綺麗過ぎる。黒の中にいたって目立つのに、白の中にいたって目立つんだ。
 汚れている部分が1つもないから。


 それまでに汚すか?
 …汚せるわけがないじゃないか。
 そんな簡単に汚せるなら、とうに穢れてるはずだ。
 せめて1点だけでも。


 溜息をついた。
 リナリーに目をやればまだ発動したまま。
 なんだ、コツでも掴んだのか。
 このまま行けば上手くすりゃぁクリスが帰ってきたときに手合わせが出来るな。

「よし、リナリー。もう良いぞ」
 そんなコトを思って、彼女にストップをかけた。


  *


 風が冷たい。
「…クリス殿、大丈夫ですか。今日は寒い」
「あー、大丈夫。トマ…とか言ったっけ? サンキュウな」
「いえ」
「…あ、そうだ。今回のターゲットとかってあんの?」
 室長はロクなことを教えちゃくれない。
「今回はヴァルトブルク城に伝わります怪奇を…。もともと歌合戦が行われていた事はご存事で?」
「あぁ、勿論」
 トマの目が多少の驚きに見開かれた。
「…随分と」
「歳の小さな餓鬼のわりに知識を持ってるって?」
 トマが押し黙った所を見ると、きっとそういった類の事を言いたかったのだろう。
「知ってるさ。馬鹿にされないためなら、俺がリナリーを守れるためならなんだって」
 嘲笑的に言ってやれば視線を落とした。
「…ウソ、トマを責めてるわけじゃない。で? 城で何があるんだ」


「城が歌うのでございます」

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