悠久の丘で
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04.「初めて」をいただきたい!

 俺の中で、偉大なる酒飲みジジイの孫で良かったと思う事はいくつかある。
 まず、偉大なる酒飲みジジイから様々な知識、技術を学べた事。
 次に、その技術が偉大故に、ジジイが現役を退いた今でも活かせる現場がまだまだ沢山ある。ジジイと違って美食屋とならずとも俺が技術に生かされる事は数え切れない程あったし、これからも当然あるだろう。

「…おーい、鉄平? 聞こえてっか?」
 そして、コレもそう。

 俺が偉大なる酒飲みジジイの孫で良かったと思う事の頻度で言うなれば、技術によって生かされた事と同位くらい頻繁に思う事だ。


  *


「鉄平ー、なぁ、鉄平ってば」
 コレの名前はクリス。
 IGO所属の美食屋で、美食四天王と並び称されるトリコやゼブラ等と幼い頃から共に居たとは考えられない程小さく細い。常に規格外の奴らと一緒にいるから小さく見えるが、それでも背で言うなら比較的高い方。細い所はあれだ。きっと元々の遺伝子がそういう仕様なんだろう。
 細い銀糸は腰の辺りまで。
 狩りをする際は高く上げポニーテールに結い上げるか、何をどうするかは知らないが兎も角クリスなりに邪魔にならないように纏めて上げている。項のラインが綺麗なので俺はクリスと仕事をするのが好きだ。
 勿論、髪なんか上げてても上げてなくてもどちらも好きだ。
 黒のズボンから覗く足首はきゅっと締まり、もう片方は太股の辺りから露わになっているがとても男の脚とは思えないライン。上も似たような服装で首元は隠れているのに鎖骨が見えるタンクトップのような格好。それに薄いすとーる?とか言う薄い透ける布を羽織っている。
 そんな格好で常に狩りをしているのに、初めて会った頃から肌は白いままだ。
 その後の手入れが良いのか、クリスの性格上そんな細かい事を気にするとは思えないから四天王の誰かが人1倍気にしているのか、狩りの際に薄く切れた擦過傷すら全く痕が残っていない。しかしながら巧妙に服に隠された部分に沢山の鬱血を作っているのは、まぁ、きっとそう言う事。
 確かにクリスの肌は吸い付きたくなるような白さ。顔を寄せると土埃にまみれた美食家ならぬいい匂いすらするのだから、それも仕方ないのだろう。
「―――おーい、鉄平さーん?」
 俺を呆れたような表情で見る大きめの瞳は青。
 まるで吸い込まれそうな程深い青はサファイアクラブよりも深い。透明度の高い海を、何メートル下から見上げればあんな風に見えるのか、俺には検討すらつかない。
 それに確実なる意志を持ってじっと見つめられる。
 ある一種の興奮を禁じ得ないのは俺だけか。
「なぁ、鉄平」
「ん?」
 因みに現在クリスは組まれた俺の脚の間にちょこんと座り、胸元に後頭部を押し付けるように俺を見上げている。
「あ、気付いた。なぁ、鉄平、腕貸して」
 漸く構ってくれた、と言わんばかりの笑顔。何をするつもりなのかは知らないが促されるままに腕を貸してやれば、クリスは自分の首の前で手を組ませた。
「へへ、鉄平体温暖けぇからこれ、嬉しいんだ」
 そう言って笑う。
 端から見ると俺が後ろからクリスを抱き締めているようにしか見えないが、それもまた良し。
「鉄平は暖かいけどよ、俺は? 暖かい?」
 安心しきった猫のよう、とでも言うのだろうか。にへ、と笑うクリスは狩り中では拝めるものではないから、殊更貴重に見えてしまう。
「あぁ、暖かい」
 目を細めて、ぬくく伝わる体温を堪能。わしゃわしゃ頭を撫でると銀糸がさらりと指の間から滑り落ちる。
「ぬっくぬく?」
 子どもがするように口調が幼いのは眠いからか。クリスがぎゅっと掴む指先は確かに、普段より高い体温を感じ取っている。
「ぬっくぬくだ。クリスは柔らかくていい匂いもするし、気持ちいいよ」
「へへ、鉄平好き」
「俺も好き」
 少しドキドキしながら軽く額にキスを落とした。

 願わくば、何か1つでも。
 貴方の「初めて」を頂きたい。

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