悠久の丘で
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お手付きと忠告

 親が死んだ。AKUMAに果敢にも向かって行って、だ。
 俺だったら、殺せたのに。
 血の海の中で、俺は初めて戦う、という事を知った。

 頭が、痛くない。


  *


 朝起きたら、知らない男に抱きこまれていた。
「…ッ、はぁ?」
 何か動きづらいと思ったらそれは腕で。
 しかもリナリーみたいな柔らかくて細くて白い腕じゃない。
 完全な大人な腕だ。
「…ちょッ」
 誰だ、てめぇ! と、言いかけて首を回して、ソイツがあまりにもぐっすり寝入っているから起こせなくなった。
 頭を押し付けていた胸板は厚く、服を脱いでいる事から後ろにいるのが男だと知った。なんで服を着てないと知ったかなんて、簡単すぎた。
 ベッドから見える範囲にYシャツが落ちている。それだけで十分だ。
 それにさっき首を回して見ている。
 軽く頭を振ってみた。

 痛く、ない。

 昨日の記憶を呼び起こしてみて、うっすらとコイツの存在が分かった。
 あれだ、リナリーが連れて来た”かがくはん”じゃない大人。
 そういえば昨日寝る直前、『おとなしくしてろ』とか言われた。あの時は怪我の痛みと、恐らくは風邪の頭痛で意識がはっきりしていなかったから、紅い髪しか覚えてなかったけれど。
 耳元で、安定した寝息が聞こえる。
 心臓が耳に近いのか、一定したリズムを刻んでいるのも分かる。

 俺は抱きこまれて、同じ方向に背中を向けたままソイツの腕によって動きを最小限に抑えられていた。
 俺の頭のすぐ下には腕。
 おそらく枕代わりなのだろうが、触ってみて分かった。
 がっしりしている。指も長い。
 サイドテーブルが視界の端に入って、亀裂が入っている仮面と銀のタライが目に入った。
「…なんで割れてるんだ、アレ」
 割れた部分が顔に当たったら危ないじゃないか。
 6歳児でも分かるというのに。
 どうしようもなくだめなんであろう部分を知って、なぜだか頬が上がる。
 ”しょうがねーな”とでもいうような笑みを浮かべれば、これは大人ではない、と思えてきた。

 きっと、大人になってしまった、子供なんだと。
 大人になれていない、子供。

 リナリーがつれてきて、そんでどんな裏があるのか知らないけれど。
 リナリーに手が及ばないなら容認してやる。
 リナリーにさえ、手が伸びなければ。

 背中に感じる体温は、どちらかというと冷たくて。熱が出て火照った体には優しい。
 腕はおそらく俺が寒がったためで、抱きこむようにしているのもきっとそれだろう。
 毛布はかけられている。
「…不器用って、やつか?」
 独り言でつぶやいたら少し意識を浮上させてしまったらしい。
「…ンっ」
「おい、起きるのか?」
 くっつく体温はお互いの温度差で心地よく、だけれども同じ体勢は疲れる。起きるのならこれ幸い、と声をかけたら腕が動いた。
「…ッ!?」
 とっさに唇をかんだら血の味がした。
「ン、…ッふ」
 頬に触れてくる手が、体の冷たさに反比例して熱い。
「……ふ、ァ…んッ」

 嫌なはずなのに、力が抜けて抵抗できなくなる。


  *


 薄目を開けたら、なぜか子供が荒い息をして兎みたいに紅いルビーが潤んでいた。
「…馬鹿野郎ッ!」
 しかも、起きて早々罵倒された。それでも声は低くない。
 子供特有の高さで何故か嬉しくって、微笑む。
「てめッ、なんでキスなんか…」
 ぐぃっと袖口で口元をぬぐっていた。大きなルビーが落ちてしまいそうで、頭を撫でる。
 何でこっちを向いてるんだと思ったが、あえて口にはしなかった。

 抱き合ってるくらいが何だ。

「どうした、幼獣」
「どうした、じゃ、ねェ! お前どうして…」
 目元がまた潤む。
「俺が?」
 いまいち自分がやってしまったらしい事に見覚えが無くて聞いた。そしたら、泣き出しそうに目元に涙が浮かんだ。
 それを必死に堪えている様子が可愛かった。
「ほら、泣くな」
 涙を舐め採るとやはり少ししょっぱかった。そんなことを考えていると頭を殴られた。
「…いてぇな…、なにすんだ馬鹿」
「てめェが馬鹿だ! …、なんかしやがって」
 頬が紅い。
「あン? 何だって?」
「だから…ッ」
 勢いは所詮ソコまでだった。その後はだんだん声がしぼんでいく。
「なんだよ、言わなきゃわからねぇだろうが」
「…じゃぁ、言う、けどな」
 意を決したようにクリスが握りこぶしを震わせて言う。
「…なんで、俺に……キス、なんてしたんだよ、この馬鹿!」

「…はぁ?」

 眼を見開いてしまった。
「キス? 俺が、お前と?」
 小さく小さく、警戒する様にうなずかれる。

 そういえば。

「…マジか」
「冗談でなんでこんな事言わなきゃなんねぇんだよ!」
 確かに幼獣、小さいとはいえ男だとは言え可愛いとは思っていた。
「だから、お前は泣いてたのか?」
 クリスの答えは詰まった。ようするに、そういうことなんだろう。
「…わかった」
 腕に力を込める。
「はぁ?」
 クリスの驚いた顔は何度見ても可愛い、と思う。白い細い髪がルビーと相まって綺麗だ。

 女だって、こんな誘い方をできる奴はなかなかいない。

「じゃぁ、責任とってやろう」
 にや、と笑った。きっとコイツは泣くだろう。泣いたコイツを見るのも楽しいから、暇つぶし。
 頭の後ろに手をやり支え、今度はちゃんと意識がある状態で口付けた。
 ちょっと苛めてやるつもりだったから、大人気なくとも本気で口付ける。
 クリスの瞳は大きく見開かれていた。
 だが、それも最初の何秒かで、すぐに苦しそうに胸を叩かれるようになる。
「…はッ、ぁ…ん、っふ」
 息継ぎができないらしい。
 そんな奴とキスしたのは久しぶりだったが、内心にやにや笑いながら呼吸ができるように少し手を抜いてやった。
 でもちゃんと舌を絡ませて、吸って、相手にあるはずの快感を煽るように口付ける。

 だんだんと潤んで、ぼうっとしていく相手の反応が面白かった。

「…なんだ、感じたのか?」
 ゆうに1分はあろうか。
 初心者相手によくここまで、と言われるくらいのキスをして、唇を離すとクリスの体には全く力が入らなくなってしまったようだ。
 クテ、として荒い息を繰り返し濡れた唇がやけに挑発的だ。

 誘ってるんじゃないか、と思う程度には。

「…馬鹿…言うな」
 でも口から出る言葉は可愛くない。
「素直になれないのか」
「けっ」
 猫のように微笑んだ。微笑んだというには挑発した。
「誰がそんな事」


 あぁ、

「だいたい素直ってなんだ? 俺はリナリー以外はいらないんだ」

 コイツは

「あんたも知ってるんだろ? 俺の、ここでの通り名」

 きっと。

「”幼獣”」

 ずっと1人で

「俺にぴったりだと思わないか?」

 小さな聖女を護って。

「昔から決まってるじゃないか。醜い獣の役目なんだろう?」
 どこか遠くを見つめて、自嘲するように笑って、でも誇るように胸を張って。

 
 ずっと、1人で
「綺麗な子を、護るのは」


 自分の役目だと、そう理解して。
 不覚にも言葉が出損ねた。

 凄惨に笑う幼い獣を、とめる術は人間にはなかった。

 それ程に重さを伴っていた。
 1人で護って、彼女を癒して。そういった諸々のことが。
 彼の間合いに踏み込ませない。


「リナリーは懐いちゃうかもしれないけどさ、ほら」
 クリスは言葉を続ける。
 さきほどキスでへばっていたとは思えない。
「あんた、俺を治療したからさ」
 口ぶりから『そんな事、しなくても良かった』と聞こえる。
 目が、そう物語っていた。
「俺はさ」
 そのまま、体中の治療した所に張っておいたガーゼや包帯を解いていった。
 とめようとして、止まる。
「お前、怪我…」
「寄生型だから、治癒能力が高いんだ。だから必要ないって言ってるんだけど」
 ぺりぺり、とはずしていって顔を顰めたのは皮膚が引っ張られたからか。
「俺はね、大概の事は容認できるんだよ」
 全部外し終わって、白い、綺麗な皮膚が目に飛び込む。
「リナリーに手を出されなければね、俺は何をされようと許せる。俺に、何をされようとも」
 まるで、先ほどの事を言われているらしい。釘を刺されたのか。
「でもね、リナリーに手を出したら…」
 頬に手を添えられた。
 キスできそうなくらい優しく微笑まれて、真っ直ぐに目を見られた。


「殺すよ?」


 甘く、ゆっくり。
 言葉と口調が全くかみ合っていない。
「だから、覚えておいてね。クロス・マリアン…元帥候補」

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