悠久の丘で
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1人の人間の思惑と共に
オレの夢は簡単なことでした。
いつまでもこの国と共に生きたい。
それに飽き足らなくなったのは、小さい頃の事です。
次に思ったのは、この国を存続させる事でした。
*
ちょっと天気が悪いな。もしかしたら雨が降るかもしれない。どこかで神様でも泣いているのかも。
空を見上げて、手を伸ばした。
「…抱きしめてあげられればいいのにね。あの子が出て行ってからざわざわしてる…。コールも」
周りを飛び交うコールの骨ばった羽を見て、益々気分が落ちる。
「…コールも騒いでるや。鳥が逃げちゃったから」
テイト・クラインが脱走して、追跡隊が編成された。
「クリス中佐!」
「…ん、ごめんね。何?」
隣を走るホークザイルの上から声をかけられて、意識が一気に戻る。顔を上げて、声の方を見れば一般兵が心配そうにこちらを見ていた。
「…いえ、そろそろテイト・クラインが消失したポイントです。それより、お疲れのようですが大丈夫ですか?」
「うん、ちょっと考える所が多すぎて面倒くさいなーって思ってるだけだから、大丈夫」
飛び交うコールの姿は見えていない。
もとよりクリスの周りにとどまっているコールは人の願いを叶えようとはしないが、きわめて人の目に付きたがらないようだった。
…本当の事を言えば、主の御許へ行きたがるコールは人の夢を叶え、人を道から外したがる。コールなりの欲求で、それは変わらない。
だが、その欲求に打ち勝ってでも夢を叶えようとしないのは、クリス自身の言葉と、アヤナミであろう。
今の上司の下についてから、クリスの周りで、クリスに惹かれてやってきたコールが願いを叶える事はなくなった。
「本当にね、本当に止めて欲しいって思う事、どうして止めてくれないんだろう? 神様も残酷だ」
何の話かもよくわかっていない兵士だったが、神妙な顔で頷いた。
「本当に。…クリス中佐にも、そんな事が?」
「…ん? いつだってそんな物だよ。オレの手の中から零れていくものが多すぎて…、本当に泣きたくなる」
「それは…」
何かを言いかけた兵士の声を、別の兵士の声がかき消した。
「クリス中佐、隊長! 見えました、消失ポイントです」
「ん、分かった。全員降りて調査。いいね? …あ、隊長だけは少し残って」
「リョウカイしました」
一斉に向けられた敬礼を頷いて返し、降下していくホークザイルと、それに乗る兵士の黒い軍服を見送る。
残った隊長だけは訝しげに、こちらを見ていた。
「…クリス中佐?」
「あ…、うん。ここの指揮は全部任せる。オレはアヤナミ参謀からの特令を済ませるから…よろしく頼んだ」
「はっ!」
「それだけだから、ありがとう」
隊長を乗せたホークザイルが高度を下げていく。
それを、どこか覚めた目で見て、ため息をついた。
「あーあ」
顔を手で覆って、頭をたれる。
「嘘ついちゃった」
心配でもしたのか、近寄ってきたコールを腕に留まらせ空を見る。
アヤナミからの特令なんて、嘘だ。彼は命令なんて、滅多な事がない限りしない。
「アヤちゃん、ごめんね」
小さく謝って、酷い事になってそうな顔を軍服の端で拭いた。拭く、というにはいささか力が強くて、肌が少し痛かったが、気にしない事にした。
気が重い。
こんなに重いのは久しぶりな事で、自分でも戸惑うくらいだ。
それもこれも、恐らく根本的な原因は、ミロクのじいさんだ。
「…じいちゃん、知っててアヤちゃんのベグライターにしようと思ってたのかな?」
ホークザイルの上で片膝を抱えると、ホークザイルまでもが不安そうに見てきた。
その頭を撫でて、言葉を紡ぐ。
「なんでもないから、大丈夫だよ。何があったってオレはアヤちゃんについていくだけだし、じいちゃんが何を思ってそうしたのかも、関係ないけど」
コールが華奢な翼を羽ばたかせた。
「オレはオレだし、アヤちゃんはアヤちゃんだ。
…でも、荒れないといいんだけどな」
無理だろう、と予想はついていながら呟いた。
その願いは絶対に無理だ。
彼が本当にアレなら、その願いは叶うわけがない。そして、彼が本当でないのなら、あのじいさんが動くわけがない。
「無理なんだろうなー」
ため息をついて、頭の後ろで手を組んだ。
視界の端に入ったコールの翼を見る。細い、骨のような翼で風を切る。
「間違いなんかないもんね、お前たちに限って」
飛ばしたコールに探らせてはきたが、今まで彼らが間違ったものを持ってきたことなどない。それゆえに信用しているのだが。
でも今回ばかりは、それを後悔した。
「まぁ、いっか。なるようになれ、だな」
何があったって、自分の居場所は決まっているんだ。
*
「テイト=クラインが逃げたとき、一緒にいたんだってね」
椅子に座らされた明るい髪の少年が、身構えるように小さく体を動かした。
「オレは人質に取られただけだ。たとえ拷問されたってオレは何も喋らない!!」
ヒュウガは机に置かれた写真立てに目を細めて、笑った。
「おや、あの写真は君の家族かい? 可愛い妹さんだね」
少年の―…ミカゲの顔色が変わった。
「『家族の為に』軍の志願所を呼んで感動したよ。君は優秀な人材になる」
その表情からは、決して荒事を感じさせない。
が、ミカゲの背にはうっすらと冷や汗が流れていた。
「だから君に選択権を与えよう」
何か理解しがたいものを感じて、体が恐怖に震える。
「家族か、テイトか。好きな方を私の前につれて来い」
アヤナミがミカゲの顎を指で捕らえた。ミカゲは目を見開き、信じがたい事に怯える。
「逃げられないように印を付けておこう」
それを見ていたヒュウガは笑った。
「良く考えろ、どちらも選ばなければお前は死ぬ」
本当に、この上司を怒らせると怖い。
「本当に、良かったね」
ヒュウガの呟きを、アヤナミは眉を上げて聞いた。
「何のことだ」
「クリスちゃんがいなくて。…もっとも、そのためにあの子を行かなくても良い追跡隊について行かせたんでしょ?」
ヒュウガは苦笑して、机に座った。片膝を上げて、それを抱える。
「クリスちゃん、あの子気にいってたもんね。知ってた?」
「…知っていたところでどうにもならないだろう」
「でも、あの子に見せたくなかったんでしょ」
抱えていた膝を離して立ち上がり笑った。
「嫌われたくなんかないもんね」
そのままドアの方へと歩いていき、振り返って手を上げられた。
「じゃ。もう、あの子も帰ってきちゃうから、俺は行くよ。
無理だろうけど、バレないと良いね。アヤちゃん」
ヒュウガはそう言ってから、本当にドアをくぐって行った。
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