悠久の丘で
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使いの鳥と籠の鳥
オレの夢は簡単なことでした。
いつまでもこの国と共に生きたい。
それに飽き足らなくなったのは、小さい頃の事です。
次に思ったのは、この国を存続させる事でした。
*
「あれ…?」
1晩寝たら、どうにか自分ひとりで歩けるくらいに回復した。だから今日はハルセや皆と別れ、1人行動をしていた。
その時、学生時代良く外を見てはサボりをかましていた、大きな窓が特徴の、ホーブルグ要塞が見えるテラスに来ていた。
すでに試験の終わった生徒がちらほらいる中、見覚えのある毛色が目につき、思わず声をかけていた。
相手からしてみれば、結構妖しかった事だろう。
「あっ、ねぇ君。今暇?」
陳腐なナンパ文句にしか聞こえない。だが、顔を見たことがあるだけで名前を知らなかったので、それも仕方ないと言えば、仕方なかったのだ。
だが、もう少し言葉を変えることもできたのではないかと、声をかけてから後悔の念にかられて、苦笑した。
クリスは、ヒュウガが何処からか持ってきた士官学校生の制服である、軍服を着ていた。何年か前までは自分だってその制服を着ていたのに、何故かとても懐かしい。
気にかかったのは、どうしてその軍服を持っているか、と言う所と、どうしてサイズがぴったりだったんだろう、という所だったが、あえて気にしなかった。気にしたってしょうがない所に思えてきたからだった。
「あれ…、あんた確か昨日…」
「そうそう、昨日、卒業試験してるときにいたでしょ?」
ニッコリと笑ってやると、金に近い明るい色の髪の少年はあっと、短く声を上げた。
「アヤナミ…参謀長官と一緒にいて、でっかい人に抱きかかえられてた!」
「…いや、そこまで覚えてなくても良かったんだけどね…? オレだって毎日ハルセに抱っこしてもらってるわけじゃないんだから」
「…ていうか、どうしてここの制服着てるんですか」
うん、なかなか鋭いところをついてくる。そんな事を思いながら笑った。
でも、急に敬語交じりになったのが少しさびしくて、相手の鼻先に指を立てて見せた。
「敬語禁止。確かにアヤちゃんは上司だけど、オレと君、きっと歳も大して変わらないよ?」
「でも、確か中佐だろ?」
「…あれ、知ってたの」
階級を言い当てられて、瞳を丸くした。てっきり知らないと思っていたのに。
中佐なんて階級、要塞では珍しくもなんともない。…たしかに歳の面から言えば珍しいのかもしれないが、いかんせん、よく知っている中佐はもっと背が小さい。
どのみち、歳を食えば階級ぐらい嫌でも上がっていくのだ。
「そりゃぁ…有名だから。アヤナミ…参謀長官の所にいる2人の中佐って言えば、さ。名前はクリス、だろ?」
「正解。すごいねー! ってか、そんな無理してアヤちゃんに階級付けなくてもいいよ?」
ちょっとその反応に笑った。やや無理して呼んでいる感があったし、階級を付けて呼ばなかったところで、彼は怒らないだろう。
ぱちぱちと手を叩いたら、相手は少し照れくさそうに笑って頭をかいた。そんな様子にも好感が持てて、えへへ、と笑う。
「…で、そのクリス…」
「中佐なんて呼んだら怒るからね」
「…さんは、どうしてここにいるんだ? 確か今日だって試験がちょっと残ってたはずじゃ?」
「知らないな。あったの? アヤちゃんが見に行かないって言ってたから、誰も行ってないと思うし、オレに到っては知らなかったし」
恐らく、アヤちゃんとカツラギさんとヒュウガは会議にでも出てるだろうが、きっとクロユリは寝てるだろう。
だからこそ、今、自由が与えられているのだ。
「へぇー…、そんな風になってるのか」
「うん、結構仕事以外でも仲いいからね。オレが今日単独行動してるのは珍しい」
大概ヒュウガが一緒にいて、コナツがその隣にいて、呆れながら上司の手綱を握っている。
「あ、そうだ」
此処まで世間話(紛いの事)をしていて、ようやく気付いた。
「名前、聞いていい?」
名前を知らなかったから、やけにナンパ臭い口調になってしまったことを思い出す。
「あぁ…、ミカゲ。どうとでも好きに呼んで…ください」
「ミカゲ…? 綺麗な名前でいいね。じゃぁミカゲって呼ばせてもらおう」
中途半端に敬語交じりになったのには目を瞑った。それも仕方がないかな、と思ったのだ。
「ねぇ、クリスさん」
相手から名前を呼んできたのには、なぜだか嬉しかった。さん付けも、歳の差を考えると仕方がない事にも思える。そこまでわがままを言って、困らせることもないだろう。
「何?」
「要塞って、どんなところ?」
聞いて、ちょっと後悔した。
確かに、卒業が決まった生徒には興味があるのかもしれない。次に行くのはあそこだから。
でも、ある意味それはかなり難しい質問だった。
「…あそこは、不正の巣窟、かな? ある一定以上の地位を持つ奴は、下の奴の手柄を横取りしたりすることもあるからなー。」
だから、考えながら、経験を基にして答える。
所詮それも最初の話で、入ってすぐぐらいに今の上司に声をかけられて、移った。
当時の上司はやや引きつった顔をしながら、移動命令を下していたか。
清々して、その上司とも縁が切れた。
「アヤちゃんのところに移ってからは、そんな事ないけどね。あの子は他人にやらせるぐらいなら自分でやったほうが早い、っていう性質だからさ」
ミカゲの、嫌だなー、という視線に苦笑して答えに付け加える。
「本当はそんな事ないのかもしれないけどさ。オレは今のところと、一個前のところしか経験してないから。やっぱ5年じゃそれが限度だよ」
しかも要塞に入って5年。最初の1ヶ月でアヤナミの所へ移ったのだから、実質最初からあそこにいたように扱われている。
「…5年?」
「え、5年。オレがここを卒業して要塞に入ったのだろ? オレ、310期生だから」
言葉に出すと随分懐かしみを覚えるのだが、アヤナミの元にいた時間は本当に早く過ぎていって、5年経ったという実感なんて湧かない。
「で、何歳?」
「女の子だったら花も恥らう18歳」
いろんな意味で花盛りの時期なんだろうな、女の子。
イエイ、とVサインを作って言ってやったら、ミカゲが頭痛そうに突っ伏した。
「…その外見で3つも上なんて卑怯だ…」
「何だ、そんな事を言って。しょうがないだろう? オレが生まれたのはお前より早かっただけだ」
15歳か。
ミカゲの年齢の頃には既に、今の上司の下で随分扱かれていた気がする。
そんな事を言っていたら、何をしに来たのか思い出した。
ミカゲをじっと見て、聞く。
「なぁミカゲ」
「…何?」
「もし、オレよりも上位についている者に誘われていたなかった場合は…」
ベグライターなんていらなかった。
自分のことは自分で出来るから。
だから、いらないと思っていた。
「お前がよければ、オレのベグライターにならないか?」
「…は?」
「オレ付のベグライター。嫌だったらはっきり言ってくれ」
突っ伏していた頭が、勢い良く上がった。
そして、目いっぱいに浮かぶ?マークに苦笑して、手を顔の前で左右に振る。
「今すぐに答えがほしいわけじゃない。納得してから答えはくれれば良いんだ」
「…ベグライターはいらないんじゃ?」
「そうだな、そう思ってた」
きっと自分はよく分かってはいなかったのだ。
「でも、今はお前だったら欲しい」
ミカゲは大きく目を見開き、それ以降動きもしない。苦笑して頭をかいた。
うん、早まったかもしれん。
*
「ダメだよ」
鈍い音がして、内臓を守る肋骨が何本かイったかもしれない。
「アヤたんに経楯突いたら殺されちゃうよ」
それ以上手を伸ばせないように刀をついて、足の下には優等生。
小さくうめく声が聞こえたが、無視してみた。
視線を僅かに上げて、上司のほうを見たら、彼は押さえつけられた生徒を冷たい目で見下ろしていた。
「何故私を狙う?」
ちょっと陳腐な言葉に聞こえた。
若さと美貌と権力。人が羨むものを、上司は持っている。
「そういえばこいつはラグスで拾われた奴隷だったな」
クリスちゃんがいなくて良かったな、なんて思う。
彼は間違いなく唯一の弱点になっている。それは、自分に対しても同じだったが。
「迎えが来るまで牢に放り込んでおけ」
その言葉に、集まっていた兵士のうち、比較的若い者が生徒をの両端を固めた。
「もし何かを知っているのなら、全てを吐いてもらわねばなるまい――…」
ガシャン と、重い音をさせて牢が降りた。
*
「ねぇ、コールお願い。あのこのことを調べてきて」
闇夜に無骨な翼の鳥が飛んだ。
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