悠久の丘で
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酔い醒まし

 オレの夢は簡単なことでした。
 いつまでもこの国と共に生きたい。
 それに飽き足らなくなったのは、小さい頃の事です。
 次に思ったのは、この国を存続させる事でした。


  *


 小さくドアがノックされたのでただ短く、見ていた書類から目も離さずに許可を出した。
「開いている、入れ」
 白に近い灰の髪の奥の黒の目が、不躾なほど遅い時間帯にドアを叩いた訪問者を睨み付けるために僅かにドアの方に向いた。
 だが、入ってきた人物と、その格好に思わず腰を浮かせ、近寄り倒れそうに揺れたその華奢な体を抱きとめた。
「やっほー、アヤちゃん。ねぇ、今日ここで寝ていーい?」
 自分の状況が分かっているのか分かっていないのか、腕の中の人物は陽気に笑って見せた。
 酒のにおいがする。
 アヤナミは顔をしかめ、聞いた。
「…クリス、酒を飲んだな? それと服はどうした」
「えへへー、ヒュウガと一緒に飲んだの。服は…、何処だかわかんなーい」
 酔っ払いの言葉ほど意味が分からないものはない。
 アヤナミはため息をついて、私室の端のほうにある仮眠を取るためのベッドまで歩いていき、クリスを落とした。
 柔らかな布団が、人1人の体重を受けて、少しへこむ。
 落としたクリスの隣に腰を下ろし、少し、やりかけだった書類が気にかかったが期日はまだ先だったのでクリスに視線を戻した。
「何をしていた? お前は自棄酒なんかしないタイプだろう。酒に弱い事も知っているくせに、なぜ飲んだ」
 制服のジャケットは着ていないものの、その下に彼が愛用して着ている、黒で襟の高いノースリーブのカットソーと、黒の制服の下。袖がないためその腕の白さと細さが良く分かる。
 その上衣に乱れも見られない所から、恐らく此処に来るまで誰にも会わなかったんだろう、と結論付けた。
 アヤナミはため息をついて、運がいい奴だ、と洩らした。その端っこで、明日のヒュウガの処分はどうするか考える。
 それまで共に飲んでいたなら、どうしてきちんと最後まで送らない?
 理不尽なのかもしれないが、そんなことを思ってクリスの顔にかかる黒の真っ直ぐな髪をどけてやった。
「…アヤちゃん?」
「ここにいる。…お前はもう飲むな、気が気でない」
「やだ…、アヤちゃんが一緒にいればいいんだよ。そうすればオレだって安心だし…」
 クリスが薄く目を開けた。そして動くのも面倒だろうにベッドについていた手に、自らの手を合わせた。手が暖かい。子供と一緒で、眠くなると熱くなるんだろう。
「私は忙しい。知っているだろう?」
「うん、知ってる。でも、オレはアヤちゃんとも飲みたい」
「…お前が、酒に強くなったら考えてやろう。猪口の1杯でも酔うのだから無理だろうがな」
 色の白い顔に、酒のせいで赤味がさす。
 目はとろんとしていて、何を考えているのかも分からない。
 アヤナミは立ち上がった。
「…アヤちゃん?」
 それを、繋げていた手で分かったのか、重いであろう頭をクリスが上げた。それに、なんでもない、とでもいうように首を振って、手を丁寧に離す。
「水を、持ってくるだけだ。それでは辛いだろう」
 薄着のクリスに着ていた制服を脱いでかけてやり、頭を撫でてから水を取りに行った。
 ペットボトルに入ったミネラルウォーターをシンプルなガラスのコップに注ぎいれて、それを持って、ベッドへと行く。
 少し、嘲笑が浮かんだ。
 誰がこんな姿を想像できるであろう?
 ”鼻持ちならない若造”である自分が、酔っ払いの介抱をしているなどと。
「クリス、水だ。…飲めるか?」
「無理」
 即答されて困ったように手に持ったコップを見た。
「だが、飲まないと明日が辛いだろう。二日酔いであっても明日の卒業試験には連れて行くぞ?」
 ため息交じりで言うと、クリスは体を起こさずに、うつ伏せだった体を仰向けに変えた。そして、手を伸ばす。
「…アヤちゃん、飲まして…?」
 伸ばされた腕が、首に回る。
「私に?」
 眉が上がった。首の後ろに回された腕の力が抜けたのか、急に重みが増す。
「アヤちゃんに」
 クリスの腕に少し力が加わったので大人しく首を下げてやると、クリスが嬉しそうに笑った。そして首をひねる。
「…だめ?」
 その仕草に一杯食わされた、と思いながら、頭を浮かし口にグラスを運んで、冷たい水を口に含んだ。

 どうせ、酒を飲んで酔っている時のことなんて全くこいつは覚えちゃいない。
 そのときに、自分がどれだけ恥ずかしい事を言っているのか、とか、どれだけ人の理性を刺激してるのか、とかを知ればいいんだ。

 頭を垂れ、クリスに口付ける。しっとりとした、男のものとは思えない唇を味わうよりも早く、口内に含んだ水を零さない様に、器用に舌を入れ込みクリスに水を飲ます。
 もう年頃だろうになかなか出てこない喉仏が、それでも小さく上下したのを視界の端に入れ、水が残っていない事を確認して、唇を離した。
 長く目を見ていたら、体がもたない。
 クリスの、紅い目はそういった類の目だ。
 無意識のうちに、人を誘う目。
 水はまだグラスの中に残っていたが、アヤナミは体を上げた。
「どうだ、具合はよくなりそうか?」
「んー…、体がね、ふわふわしてて気持ちいいよ」
「…酔っているせいだ」
「そうなの? でも、アヤちゃん、体冷たいからくっついてると気持ちいい」
 熱を持った、子供のように暖かいクリスの手が手を握る。確かにその熱は体に熱いくらいで、握られている手を伝って、こちらまで熱くなってきているようだった。
「…そんなに飲むからだ、馬鹿者」
「馬鹿だもーん。馬鹿でいいもん、アヤちゃんと一緒にいられるなら」
 ドクン、とひとつ、大きめに心臓が鳴った。
 頬を膨らませ、我侭を言うこの青年を、人が見ればいくつだと言うのだろうか。
 彼の本当の年齢は、一生かかっても出てくるまい。
「ねぇアヤちゃん」
 クリスの酔っている時は、目の毒に近いものがある。
 それを知りつつもこれまで酔っ払いの面倒を見ていたのは、外に放り出せば瞬く間に兵士たちの餌食となるからか。
 視線を離そうとしていた矢先に、名を、呼ばれた。それと弩同時に手まで引かれれば、そちらを見ざるを得ない。
 しかたなしに視線をやると、そちらを見たことを、心の底から後悔した。
「アヤちゃん、遊ばない?」
 気だるげな目で見上げられ、先ほど飲ませた水で唇が濡れている。目じりがいつもより下がって、体が熱く、吐息も熱い。
「…さっさと寝ろ。明日は早いし、二日酔いだと言われるのは嫌だろう?」
「嫌…だけどさ。このままじゃ体が熱くて寝られない…」
「…お前は何をさせたいんだ、私に」
 瞳を伏せて、首を左右に振った。
 クリスが体を起こしかけ…、その時に頭痛が襲ったのか頭を抑えながら体を起こし終えた。そして、頭痛がなんとか治まったのか、ベッドに腰掛けるアヤナミに抱きついた。
「…っく!?」
 流石に至近距離で勢いを付けられ止れなかったのか、アヤナミの体がベッドへと落ちる。ベッドがきしんだ音を立てた。
 背に柔らかい布団の感触。腹の上には熱いくらいの体。
「ね、遊ぼ?」
 その手が未だきちんと着られたYシャツのの、襟の部分にかかる。
「クリス!」
「…だって、アヤちゃん、構ってくれない…。オレ、こんなに辛いんだよ? それに、こういう時軍服って面倒だから嫌。ベルト外さなきゃ上も脱げないなんて、さ。しかもその下にも服着てるわけだし」
 不貞腐れたような顔をして手が離れるが、今度はその手が顔に伸びた。
 目の前がクリスしか見えなくなるくらい近付いてから、クリスはニッコリと微笑んだ。
「…な」
 何だ、と言おうとした所で、唇がふさがれる。
 目を見開いたが、それはだんだんと進入してきた熱い舌に絡め取られてどうでもよくなってきた。
 クリスがようやく満足したのか、自らの唇の端をぺロリと舐め、唇を離す頃、アヤナミは腹の上に載ったクリスの体をベッドの上へと落として、自ら襟に手をやった。
「…お前が散々煽ったんだ。責任は取れ。…明日、腰が立たなくなっても知らないからな」

 クリスの目が、思わず、げ、という風になりアヤナミを見るが、アヤナミはそれを無視した。
 楽しそうに襟を緩め、動けないように足を体の両脇に置き、手袋の端をかんで取り外す。

 ミネラルウォーターの入ったグラスが、中身がこぼれそうに、ゆれた。

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