悠久の丘で
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27「なけなしの勇気」

私にはどうしても一歩踏み出す勇気が出ない。
そんな勇気を持つ資格も無い。

ただ暗く誰も足を踏み入れるようなことが無い場所で。
ただ永久に眠りにつくことしか出来ない。


  *


「はぁ…?バカじゃんか」
開口一番に言われた。こんな事しょっぱなから言われたらどうだろうか?
少しばかり泣きたいような気持ちにもなってくる。
いつもの赤のマントの服ではなく、大昔のように、…トラウマになってはいるが…、スーツで。
伸ばされた、いい加減鬱陶しくなってきた髪は後ろで適当にくくって。
建て直された神羅ビルのある一室で、向かい側に一人、人を迎えて座っていた。

相手は長い銀の髪を片側に纏め、前に流している。そして、椅子に座り片足をその上に乗せて愛用の武器の手入れをしていた。
そして、目線もあげないままその言葉を言われた。
「…」
いくらなんでも言葉が浮かばずに閉口した私に、それはようやく顔を上げ目線を合わせた。

「…あー、俺の言い方が悪かったか。別にヴィンセントを馬鹿にしてるわけじゃないぞ?言い訳かもしれないけど、さ」

その言葉に首を傾げる。
拳銃をバラし、中を綺麗に掃除してから組み立てる作業に付き合わされて、朝っぱらからここにいた。
上司や同僚から銃を勧められたはいいが、その手入れの仕方が分からないのだという。聞こうにもその本人らが任務で出掛けてしまっていれば仕方が無いだろう。

「それはどういうことだ?」
「だからー…、って、あっ!ヴィンセント、コレどうなってるんだっけ…?」
言いかけた矢先に情けない声を聞く。
おずおずと差し出された銃を見れば、組み立て方を忘れたのだと分かった。
「…組み立ててやろう。ただ、見ているんだぞ?」
変に組み立てて暴発でもしたら洒落にならない。
ため息をついて差し出された銃を受け取ってから、慣れた手つきで組み立てていく。
「んー…、サンキュウ。あ…、其処がそうなって…、なるほど」
「一度覚えれば出来るようになるだろう、覚えていた方がいいぞ?」
「うん。分かった、自分で出来るようにしておく」
だって、ツォンが任務に出てるからさー。
綺麗に組み立て終わって、元のようにズシリと来る重さを手に感じて、クリスは笑って礼を言った。

「あ…、ぁ、話中だったんだっけ?えっと…どこまで行ったっけ」
「…馬鹿にしているわけではないと、そこまでだ」
「ん…、そっか。ありがとう。
だからな?どうしてそこで寝る方向に走るんだよ、って事だな」

私には自信が無い。
また…、私のせいで救えない人々が出るのではないのかと。
…どうしても救いたかった人を救えなかった事が、どうしても重石になって動こうとしない。

ソレを言ったら、力加減のされたデコピンを額に受けた。
「だからさ。ヴィンセントが2年前、起きて行動しなかったら何百万人という人が死んだんだぞ」
机にひじをついて、分からない、というように首をかしげて。
セシルの目が私を見据える。
「自信とか関係ないんじゃないかな?だって、ヴィンセントは確かに沢山の人を救ったじゃないか。それじゃ、駄目なのか?」


言われて思い出すのは、必死だった、あのとき。
彼女の愛した星なら救いたいと、そう思ったあの時。
それが自らに課せられた罪だと思って。それが彼女に少しでも返せるものだと思って。

ただ必死だった。


「な?あの時のヴィンセント、すっごく生きてる顔してたと思うけど。
必死に、みんなの命を守ったんだろ?」
立場上、どうしても邪魔してたけどさ。
セシルは笑っていた。
まるで、息子か孫でも見るような優しさで満ちた目で。

「そう…か」
「そうだよ」

頷かれた。
「今度さ、ルクレツィアさんに逢いにいきなよ」


  *


あぁ、久しぶりに逢って…、あの頃と少しも変わらぬ彼女と話すのも良いだろう。
そうしたら…、昔の柵も。
消えるだろうか。

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