悠久の丘で
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25「消えない名前」

「ねぇ、名前ってさ」
高く突き出した崖の上。
下にはミッドガルが見えて、時折こんな殺風景な場所で夕日を見る。
隣には長い銀の髪が。
風に煽られて空気を綺麗な銀で染めて、なぜか急に口角を上げて、にぃ、と。
笑ってこちらを向いた。


  *


「…名前がどうかしたか?」
長くて細い髪をかき上げて、地べたに腰を下ろし、崖の端から足を投げ出してブラブラしているモノに言う。
夕日が眩しいくらいのオレンジの光を放っている。
…今日最後の、光だ。
「んー…、セフィロスにも名前があるもんな」
「…何を言っている、お前にもあるだろう」
「そうだよな、俺にも…、花にも、鳥にも、動物にも」
後ろできっちりと結われた髪が、俺とは違う。
同じ色だとはいえ、髪質も全く違う。

「名前はあるもんな」

顔を夕日に戻して、色の白い肌を夕日色に染めて、ただ嬉しそうに楽しそうに、言った。
その横顔が、あまりにも幼くて。
ただでさえ幼いというのに、尚幼く見えて。
笑ってしまった。

「なんだよ、笑うなって!」
「…ククク、すまないな」
「笑いながら謝るな!」
「…すまん、無理そうだ」

クツクツと腹から笑いがこみ上げてきて、楽しくなる。
それは直ぐになど引いてくれるはずもなく、笑わないように腹に力を入れたら痙攣した。

「…もう、良いよ勝手に笑ってろ」
「そういう訳にもいくまい、何か思うことがあったのだろう?」
笑うのは久しぶりで楽しかったが、そうも言ってられなくなった。
怒って、顔を背けてしまった子に、話をふる。
「…だって、真面目に聞いてくれる気、ないだろ」
「そんな事はない、ちゃんと聞くさ。珍しく2人だしな?」
今日はいつものメンバーではない。

任務帰りでミッドガルに入る前。
ただ目に映った夕日があまりに綺麗で、ここに立ち寄っただけだった。

他に新羅兵でもいればこんな所で油を売っていて、本社に帰らないわけにもいかなかったのだが、今日は本当に2人だったから。
ここで足を止めたのだ。

「…本当に?」
「ああ、嘘など言わないさ」


じゃぁ…と、やっと笑った。


  *


座れよ、と言われて隣に腰を落とす。
よく考えたら地に座るのも懐かしい感覚だ。
「名前ってさ」
知ってるか?と目で問われて、軽く頭を振った。

「この世に生まれて初めての、祝福された、プレゼントなんだってさ」

嬉しそうに頬を紅くして、報告される。
名前か、と。
思わず考えてしまった。

俺を生んでくれた母。
彼女はそのせいで、一生命を紡ぎ続ける枷をはめられた。
父の顔は…、もう覚えていない。
ただ、その口元に浮かぶ実験体を前にする笑みだけは、頭にこびりついている。

あの人間も、祝福してくれた…のか?


「…ってのは、母さんの口癖なんだけどさ」
テヘヘ、と照れたように頭をかく。
その様子から、どれだけ愛されて育ったのかを知る。
自分のことでもないのに嬉しくて、知らないうちに顔が笑みの形になる。

1人この世に残されて育ったのに、ここまで良く真っ直ぐに育ってくれた。

父親になったこともないのに、そんなことを思う。
怖いくらいに真っ直ぐで、誰かに曲げられないように守っていきたいと思った。
もし曲がってしまったとき、彼がどうなるかがどうしても心配だった。

それと同時に。
ちゃんと、寿命で死にたいなと思った。
人に命を奪われるのではなく、可笑しいのかも知れないけれど。
せめて人並みに歳をとって。
昔の事を、後悔でないもので懐かしみながら。


「でもさー」
「うん?」
思考が急に引っ張られて、元に戻ってきた。
「結局は名前ってさ、俺が俺でいる証なんだよな」
至極当たり前のことを言うように、なんでもなく呟いた。
その言葉にハッとする。
「ありがとうな、セフィロス」
何で礼を言われたのかなんて、分からなかった。

「生まれてきてくれて、あんたがセフィロスって名前でよかったよ。
セフィロスに会えて、こうして話せるのはそれのおかげなんだから」


  *


名前が、初めて消えないものでよかったと。
心から思えることが出来た。

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