悠久の丘で
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24「初めての友達」
初めての友達。
黒くて優しくて暖かくて、何も知らなかった俺にそれを与えてくれて。
何も知らなかった俺に言葉をくれて、何も知らないであろう俺に居場所をくれた。
間違いなく初めての友達はザックス、お前だ。
*
生まれた所は名も無いような小さな小さな町。…いや、村といったほうが正しいかもしれない。
かつては漁で栄えたジュノンの、近くにある村だった。
そこから転勤が始まる。
いつも忙しく働いていた父親に連られ、世界中の主要都市を転々とさせられた。
最初はウータイ。その次はミディール。
アイシクルロッジに行くことはなかったが、コスタ・デル・ソルでの生活は長かったように思える。
母は随分とよく出来た人で、そんな父に文句も言わず決して笑顔を絶やすことなく俺を連れて回っていた事が、
小さい頃の断片的な記憶に混じっている。
よく出来た人でなければ距離も考えていないように点々とする父になど着いていけなかっただろう。
そんな訳だから友達なんて出来るわけが無かった。
作ろうとしなかったんだろう。
どうせすぐに分かれてしまうなら、痛みなど覚えないようにいっそ関わらなければ良い。
ようは、ひねくれた子供だったのだ。
傷つけられることに怯え、一歩、踏み出すことすらしようとしなかった。
―――――――それもやがて終わりが来る。
考え方が変わったわけじゃない。
そんなことは決してない。
ただ。
ただ、自分を取り巻く環境が変わったのだ。
12の時。
その当時住んでいた村が、異常繁殖したモンスターに襲われた。
紅い紅い血が目の前を染め、天を舐めるようにその手を伸ばす炎を見る。
目の前には爪に切り裂かれ息もしなくなった母の残骸。
その血が転々とする自分の後ろを振り返れば、同じようにして冷たくなった、かつて父と呼んでいたもの。
地獄だと思った。
夢だと思いたかった。
こんな怖い恐ろしい夢はさっさと覚めて、起きて身を起こせば母が苦笑しながら頭を撫でてくれているだろう。
そう、思いたかった。
震え母だったものにすがりつき、いっそ自分も殺してくれと泣き叫ぶ。
声に気づいたのか血の匂いに誘われたのかモンスターが駆けて来て、その鋭い歯が蠢く舌が目の前に迫ってきて、目を瞑った。
それに一瞬遅れてやってくるであろう肉を引き裂き骨を絶つであろう痛みに身を縮めて。
「おい、大丈夫か!?」
でも、痛みなんか来なかった。
来たのは肩に置かれた大きな手と、人の…まだ若い男の声だ。
「…ちくしょうっ……、ごめんな、来るのが遅くなって」
ぎりっと強く歯をかみ締め、唇の端から血が流れている。
視界を遮る様に地面に片膝をついて抱きしめられる。
温かい体温を久しぶりに感じた。
冷たくなった体が男に抱きすくめられ、だんだんと熱を帯びてくる。
どれだけ冷たかったのか、ようやく分かった。
「ザックス、終わったのか?」
「あっ…、セフィロスこの子を頼んで良いか?」
全ての熱をくれるように露出していた肌をくっつけてくれた男が声に振り返った。
銀色と、黒。
一度に視界に入ってくるには、いささか強烈過ぎる色。
銀色の方はこちらを一瞥するとくるりと踵を返した。
「…子供の事などわからん。お前は待機だ」
「ちょっ…セフィロス!」
去っていく銀色に呼びかけるがそれも無視され、黒が小さく文句を言った。
「確かにあんた一人のほうが早いんだろうけどさー…、なぁ?」
ぎゅっと抱きしめられる力が強くなる。
「だけど、本当にお前冷え切っちゃってるなぁー…、まぁこんなところで死ななかったってのだけでも奇跡か」
体が動かない。
熱が戻ってきたおかげで手足の先からしびれて動かしたくても動かせなかったのだ。
「俺は神羅のソルジャーで…、ザックスっていうんだ」
警戒させないためか優しい声色で耳元で言われる。
その声にびくりと体を縮ませた。
鼓膜を直接打つような声に力が抜けて、更に動けなくなる。
「…て、あぁそんなにしたら呼吸できなくなっちまうか」
ごめんな、と苦笑交じりで謝る男の顔は若かったように思う。
やけに目に付いて、それを見てしまってから離せなくなってしまったのは、両眼だった。
蒼く澄んだ色に染まった、瞳。
―――――いつだったか見上げた、ミディールの空やコスタ・デル・ソルの空の色。
*
それの後2年。
あの時、黒と銀色は俺に装備していたマテリアを2つくれた。
マスターレベルまで成長させてあるもの。
金に当てのない俺を心配してくれて、持たせてくれた。
頼れる身よりも居ない俺は、あれから父と同じように各地を転々とした。
ウータイに行って武術を。
ザンカンに会って剣術を。
あれ以来取り込めるだけの武術を取り込んで。
神羅のあるミッドガルへと戻ってきた。
もしかしたらあの時の黒と銀色は死んでしまったかもしれない。
ソルジャーというのは大変危険な仕事を請け負うのだと、旅をしている時に聞いた。
それでもミッドガルに来たのは仕事を探すためと、やはり、自分の目で確かめたかったのだろう。
そして、ミッドガルに入った矢先。
立ち並ぶ店に目を奪われていた、という事もあったが、人にぶつかった。
倒れ、腰を打つ。
「…いったぁ……」
「あっ、悪ぃ!前見てなくて…」
「いや…、俺も見てなかったから…」
痛む腰を撫でとりあえず無事を確認すると、目の前に手があった。
その手を追って、目線が上へと上っていく。
「あ…、れ?俺とどっかで会ってないか?」
フラッシュバックする嫌な記憶に顔をしかめやり過ごす。
思い出すのは、炎の色と血の色と息絶えたものの匂い。
そして…、抱きしめられた腕の温かさ。
「…やっぱり、会ったことある。えっと…」
「2年前」
いつも身に着けていた物を服の中から取り出して、男に見せた。
「あんたは俺にコレをくれた」
生活が苦しくなって、何度も売ろうと思ったことがある。
でも、売れなかった。
モンスターを倒せば金が貰える事に気づいて、売る必要がなくなったことに笑った。
「あんたは見知らぬガキの俺を、ずっと暖めてくれてた」
「あ…、あの時の…!」
黒が、納得がいったというように手を打った。
変わったことは背の高さ。あと、顔つきが凛々しくなったのかもしれない。
でも、変わっていなかった。
手を打った後に見せた微笑は、2年前に向けてくれていた物と変わらない。
「俺は…、ずっとあんたに会いたかった」
見せたマテリアを黒の手のひらの上に載せて返す。
「ありがとう、ってずっと言いたかった」
その為にミッドガルにきて、まさかその最初の日に会えるなんて思ってなかったけど。
これで此処での目的は後1つになった。
助けてくれた恩人に何かを求めていたわけじゃない。
ただ礼が言いたくて、預かったものを返したくて、それで来たのだ。
「…なぁお前仕事は?すむ所は?」
「…?これから決めるつもりだけど」
「だったらさ、俺のトコ来いよ。どうせ俺は任務でそんなに家にいれるわけじゃねぇからさ」
「ちょ…っ、どうしてそうなるんだ?」
突然の質問にわけが分からず、意図がつかめず手を上げてストップさせた。
「だって、お前は家、探してるんだろ?」
「だからって…、どうしたら見知らぬ人間と一緒に住めるんだよ」
過去にたった1度、会ったことがあるだけ。
現在2年ぶりにホントに偶然会っただけ。
そんな奴に、どうしてそんな事が言えるんだ。
「…知ってるよ」
「え…?」
「あの村で生き残ったのはお前だけ。
名前から出生から全部神羅が調べ上げて、その後どういう経路をたどったか。
全部知ってるさ」
神羅はそういう所だよ。
苦笑交じりにため息をついて笑う。
「知らない奴じゃねぇんだよ、クリス」
名前を呼ばれて、胸が苦しくなった。
もう、呼ばれることなんてなくなったと思っていた、名前。
「ザ…ックス」
「おうよ、ほら俺の名前も知ってるだろ?」
*
トモダチ。
そんな間柄じゃないかも知れないけど。
俺からしてみればあんたは間違いなく救世主だけど。
でもあんたが眩しい位の笑顔で言ったから。
俺のトモダチはあんただ。
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