悠久の丘で
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17「確かな温もり」

暖かい日差しが気持ちいいといっても、まだ薄着では肌寒い。
なのに、人と一緒だとこんなにも暖かい。

少しでも、誰かを暖めてやれたら。
自分に降って来た幸福を還してやれる事ができるだろうか。


  *


今日は珍しくザックスの任務がない、お休みの日だった。
朝からゆっくり寝ているザックスの額にかかった髪を手で優しくどかし、その額に軽く触れるだけのキスをして外に出る。
彼はソルジャーだからそんな単純な動作すらバレてしまうのだろうけど。
でも、俺が起きた時に、その隣りに眉を寄せて寝ているザックスなんてなかなか見れるものではない。だから、悪戯心のつもりで軽く触れた。
さっきから眉がひそまっているのはまぶしい日差しのせいだろうか。
カーテン越しに透ける光が、今日も暖かそうで嬉しくなる。
ベッドから抜け出すときに寝惚けてなのか繋がれていた手を優しく起こさないように解き、剣を握る大きな手にも口付けた。
薄い服で寝る彼に布団をちゃんとかけて、食事の用意をするためにキッチンへと立つ。

いつも使っているカフェエプロンを身に付け今日のメニューを何にしようか悩んだ。
何を出しても綺麗に食べてくれるザックスに料理を作るのは楽しい。
…が、それゆえにメニューに悩むときもある。
好き嫌いがない相手に飯を作るのも、頭を使う。
「…今日は何にするかな…?」
この家に住ませてもらえるようになって早いもので1ヶ月。
いい加減ミッドガルでの生活にもなれ、この家のキッチンにもなれた。

「…あ、そういや魚があったんだっけ」
そういや昨日、アイシクルロッジの方で取れたとかいう鮭が大安売りになっていたのを思い出した。俺はあそこまで行ったことはないが、余程寒いんだろうな、と思った覚えがある。
鮭はミッドガルで売られていたのにも拘らず綺麗に氷付けになっていたから。
切り身があるなら、それを使えばいいか。
「…パスタにしよっと、確か生クリームもあったよなー」
冷蔵庫を探していたら目的の生クリーム発見。
「オリーブオイルもあるしー」
ふむ、と材料を取り出してどんなものが出来るか考えてみた。
そしたら昨日鮭を売っていたおっちゃんに、鮭とクリームは合うんだぞー、といわれたのを思い出す。
「…んじゃそれでいっか、鮭のクリームスープのパスタにしよう。
あとさつまいももあるし、りんごもあるだろー?それにあ…っ、クリームチーズもあった」
これでサラダが出来る。
あとは?と振り返った先にお隣さんから大量に貰って山積みになっていた、ジャガイモとたまねぎが目に入った。
あれでスープも出来るな。

これで決定。今日のメニューは鮭のパスタとサラダとスープ。

まず、鮭の大きな切り身からある程度取られたがまだ残っている鱗を丁寧に取って、キャベツと一緒に1口大に切り、鮭は塩、こしょうを振り掛ける。
「…鱗、口に残ると嫌だしな」
頷いて、フライパンを取り出し火にかけてオリーブオイルを熱した。
その脇でもう1つ鍋を取り出しオリーブオイルを熱しておく。これはスープ用。
「えっと…、玉ねぎざく切り、ジャガイモ乱切り…っと。りんごとさつまいもはいちょう切り」
口の中で小さく呟きながら、ざくざくと包丁が食材を小さく切り分けていく。
もう1つ残っているコンロに鍋をのせ、水を張って蓋をしてからフレンチドレッシング作りに入った。
ボールの中に材料を入れて手早く泡だて器でかき混ぜ、サラダ油を少しずつ垂らして混ぜ合わせる。

「コレくらいで良いかなー?」
ドレッシングを作っている間に、オリーブオイルはいい感じに熱されていた。
フライパンのオリーブオイルの中にサーモンとキャベツを入れて炒め、水、ブイヨン、生クリームを入れて蓋をする。
あとは煮立たせてスパゲティと絡めれば終わり。
鍋のオリーブオイルの中にはキャベツと玉ねぎ、ジャガイモを入れ炒めた後、水とコンソメを入れて煮立て、弱火にする。
全体がやわらかくなるまで煮れれば、次の作業へ移れる。
「よし」
水を張った鍋にはショートパスタを入れて茹で上がるのを待つだけ。
鮭と生クリームが入ったフライパンから美味しそうな匂いが立ち上る。
その匂いに満足して微笑んでから時計を見た。

「…っと、ゆっくりしてられないかな?そろそろザックス、起きちゃうじゃんか」

手早くレタスを洗って適当にちぎり、フレンチドレッシングに酢を少しずつ混ぜた。
「分離しないように手際よく…だったな」
混ぜてから、そろそろ茹で上がるショートパスタのために冷水を張り、笊を通して茹で汁を捨てすぐさま冷水に通す。
茹で上がったばかりのショートパスタから立ち上る湯気が少し熱かった。
「…時間との勝負って、やっぱ嫌だな」
もっと早く起きれば良かったぜ。
文句を言って、冷水の中を泳ぐショートパスタを笊に上げてもう一度冷水の中にダイブさせた。

「わぁー…、朝から随分凄いもの作ってるのな」

後ろから声が聞こえて、気配が怖いくらいに急に現れた。
「おはよう」
吃驚して後ろを振り返ったら、いつものような笑顔でザックスが真後ろにいた。
覗き込むようにキッチンで美味しそうな匂いを放つものを見ている。
「…おはよう」
「クリスはいつもこんなに力入れて料理作ってんのか?大変じゃねぇ?」
「あ…、いや、いつもはもっと簡単に済ませてるけど、今日はザックスがいるだろ?
だからちゃんとしたもの作ってるだけで…」
口を動かしている間にも、手を拭き、もう1度水を張って沸騰した鍋にスパゲティを入れて蓋をする。
これが茹で終われば、メインディッシュの出来上がり。
「…あ、ザックス、ミキサーとって」
「うん?…あぁ、はい」
「サンキューな」
困惑しながら手渡されたミキサーに、柔らかくなるまで煮ていたコンソメ仕立てのスープを流しいれ、よく混ぜる。

「なんか」

ザックスがそれを見て、何気なしに笑顔で言った。
「いい嫁さん、ってかんじで良いな」
ちょうど、サラダに入れるクリームチーズを取り出してさいの目に切っていたところだった。
ので、思わず包丁を取り落とした。
「ちょ…っ、大丈夫かクリス!?」
「…だ、大丈夫、一応は」
うわぁー…、あとちょっとで足直撃でしたよ。
重い刃の部分が下になって床に刺さった包丁を、ドキドキしながら拾う。
「包丁が床に刺さるなんて初めて見た…」
「本当に怪我なんかしてねぇんだよな?足見せてみ、足」
「大丈夫だって、お前は心配しすぎ」
拾った包丁をいったん水で洗ってから、茹でたさつまいもをりんごとレタスと一緒にガラスのボールによそり、ショートパスタを入れて、上から塩こしょうで簡単に味を調えた。
その上にさいの目に切ったクリームチーズをトッピングして、出来たフレンチドレッシングを別のガラス瓶に入れて、まだ後ろで心配そうにしているザックスに渡した。
「はい、今日の飯、もうちょっとで出来るからテーブルにそれ並べてな?」
「足…」
「問題ねぇって!
それより、腹減ってるだろ?さっさと並べてくれよ、もうちょっとで全部出来るんだから」
ザックスの相手をしながら、ミキサーにかけたスープを濾してから鍋に戻し、生クリームを入れて塩こしょうで味付けをする。
「…はい、ザックス」
それを温め小さくおたまですくってザックスに差し出した。
「…何?」
「味見。それでよかったら後はクルトン散らすだけだからさ」
「ふぅーん」
湯気が立ち上るそれを口元へと運ぶザックスを横目に、茹で上がったパスタの湯を切り、フライパンの中へと入れて鮭のクリーム煮と絡めて皿へとよそる。
タンッと、2人分の皿がテーブルに並んだ。
「よっしゃ、これで終わり…っと!
で、そっちは?味、大丈夫?」
「…クリス、1人暮らしで十分生きていけるな…」
「はぁ?…味は?」
「…お嫁になんか行くなよ?」
どうしたんだろう。
余程変な味付けで頭のネジでも外れてしまったんだろうか?
「てか、俺は嫁には行けないし…」
ひょいっと、まだ手に持ったままのおたまを取り上げ残ったスープを口へと運ぶ。
「…ん、薄い?」
ほんのり甘くて、口ざわりも良いかんじ。
でも、もう少し塩を入れてもいいかもしれない。
「いや、大丈夫だろ」
「そう?」
ザックスからのOKも出たし、カップに入れてテーブルへと運んで、エプロンをはずした。
「じゃ、食べようぜ?」


  *


「クリスー」
くるくると丁寧にフォークでパスタを絡めとり、口へと運ぶ。
「うん?」
ザックスがサラダのりんごを口の中へと投げ込む。
シャリシャリと、塩水にくぐらせていたりんごが音を立てた。
「料理できるっていいな」
「…何さ、急に」
「だってよー」
何でか知らないけど、さっきから葉っぱものしか口に運んでない。
やっぱり、ちゃんと1回くらいは好みの食べ物を聞いておくべきか、なんて思った。

「誰かと一緒に誰かが心込めて作った料理食えんのって、なんか嬉しいじゃんか」

フォークを指先で起用に回して、笑う。
「てな訳だから、今度俺にも料理教えてくれよ」
「あ…、いいけど如何するんだよ」
「あ?クリスと食う。
だって、こんな美味い料理、毎日作ってもらってるってのはズルいだろ?」
そしたら、一緒に食おうな。
そう言われてなんだか眩暈がした。
「毎日帰ってくる時間もばらばらな俺に飯作ってくれてるだろ?
嬉しいんだからな、帰ってきたら飯が用意してあるのって」
サンキューな?ココにいてくれて。


やっぱり、人の温もりは温かいな、と。
不意に出てきた涙と一緒に思い知った。

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