悠久の丘で
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10「君と居た場所」

えと…よし。
あ、そか、普通は宛先人の名前を書かなきゃいけねぇんだっけか。
…ったく、エアリスも急なこと言うよな?
いきなり言って、俺に手紙書け、だってよ。

なんでも持って行ってくれるらしい。

そんなことを言われたから本当に久しぶりに…、こうしてペンを持つ。


  *


宛名…宛名…、後でいいか。
で、次は本文だろ?
……………って急に言われてもなぁ…、悩むんだけど。


あ…、でも。
俺はお前に言いたいことはいくつもある。



クリス、久しぶり…、だな。
って、言っても俺は死んでるし、お前に会いたくても会えないわけなんだけどさ?
でも、俺はお前のこと、ちゃんと見てるぞ。
いつだってクリスのことを思って、ここで過ごしてるんだから。


えっと…、どうしてこうなったんだっけか?
あぁ、ニブルヘイムか。

ニブルヘイムでの任務で分かれて。
5年後のミッドガル周辺で最期の別れを。
…あ、でも今年会ったか。

エアリスと一緒に…、久しぶりにクラウドとかセフィロスに会ったときに。

あんな事がなけりゃ同窓会気分で良かったんだけどな…。
でも。
思ったより元気そうで安心したよ。
きっとレノのおかげだなー。
もうお前を守れない俺よりは、俺の腕でじゃなくたってお前を守ってくれるものの腕で抱かれてる方がよっぱどいい。
その点は本当に安心した。

お前のことだからさ?
俺以外にだって進んで守りたいっ、って言うような奴がいるのは知ってた。
そいつらを牽制しつつ、俺がお前と住んでたんだから。

だけどあの後、もしお前が壊れて…、どうしようもなくなっちまったんだったとしたら…

そしたら、俺は死んでも死にきれなかった。

大事な奴を泣かせたばかりか守れなくて。
その上、壊した、なんて…。


クリス。
ありがとうな?
いきなり2回目に会った時にあんな事言って一緒に住むように仕掛けて。
お前は断れたはずなのに、一緒に住んでくれた。

任務で家にあまり帰れないのは本当だった。
だけど、クリスが一緒に住んでくれなくたって本当は良かったんだよ。
それは、俺の我侭だから。


あの時、最初忘れた風に言ったじゃんか。
あれ、本当は嘘。
忘れるわけねぇって。

あんなに綺麗で…、意志の強い、たかが12のガキに気圧されてたのは俺のほう。
行くまではさ。
めんどくせぇ任務、って思ってたんだ。
モンスターに襲われる町や村なんて珍しくない。

でも、お前を見つけた時――――――
そんな思考は吹っ飛んだ。
不謹慎なのは充分解ってるんだぜ?セフィロスにも言われた。
でも、無理だったんだ。

綺麗な子供を抱きしめる必要だってなかったんだ。
確かに体温は低かったけど、興奮剤とかポーションとか飲ませておけば充分なくらいだったしさ。
それをしたかったのは俺のほうで、そんな必要なんか無いのに動いたのは俺の腕で。
ただ抱きしめて、その細い体を少しでも温めてやりたくて―――――。


はははっ。
何かすっげぇ自分が変態になった気分だぞ、これ書いてると。
でも…、まぁ本音だし本当だし。
お前にいつかは言わなきゃいけない事、だと思うしな。
それが俺の口からじゃなく、こんな方法になっちまったってのは悔やまれるけど、それもしょうがない、かな。
エアリスがな?
これを届けてくれるって言わなきゃ、これもお前には届かなかった。



だから――――――、許してくれよな。



ザックス

                 最愛の人へ

                                           ”


  *


「………って、やっぱ恥ずかしすぎるって!」
「あら書き終ったの?早いわねー」

最期の宛名の部分をノリで書いて、あまりの恥ずかしさに書き直そうとホワイトのビンに手をかけたところで…、その手紙自体をエアリスに取られた。

「ちょ…エアリス!?まだかき終わってないって!」
「だぁーめ。
せっかく一発書きでインクで書いたんだから、そのまま出せばいいじゃない。ね?」

取り返そうとするザックスの腕を優しく押さえ、エアリスが言った。
そして、彼が考えている間にその手紙に封をして蝋をたらしてしまう。

「よし、と。じゃぁ、行って来るね?」
「…いってらっしゃい」

手紙に封をされた時点で諦めたのか、ザックスの手紙に伸びる手が諦めたように下ろされた。
そして、机に突っ伏して手を振られる。


それを見て、エアリスはザックスが見えない位置にまで来て、つぶやいた。

「…もぅ、少しは素直になったらいいのに」
でも、これが少しは彼に届くかな?

1番最近は今年。
その前は2年前に会った人の顔を思い出す。
そして、クスクスと笑った。


  *


『クリス、ザックスから手紙よ』


不器用なあの子の本音は、ちゃんと届けたからね?

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